再び自殺を図る人を半分に──救急から引き継いで支援する精神科チーム #今つらいあなたへ
このような知見から、救急搬送された自殺未遂患者を確実に精神科治療につなぐ支援が生まれた。 では、救急救命センターに搬送された患者はどのような経過をたどるのか。あるケースを見てみよう。
搬送からまずは半年間、多職種のチームで患者を支える
某市の中核病院・救命救急センター。ある夜、救急隊から患者の受け入れを求める電話が入った。患者は30代の女性Aさん。自宅で缶チューハイとともに市販薬を大量服薬して倒れており、帰宅した夫が救急車を呼んだ。Aさんに意識はなく、体に触っても反応はなかった。 電話を受けた救命救急センターの救急医はAさんの搬送受け入れを決めると、すぐに同じ病院の「精神科リエゾンチーム」に連絡をとった。リエゾンとはフランス語で「橋渡し」の意。精神科リエゾンチームとは、身体疾患で入院した患者が精神や心理の問題を抱えたとき、身体と精神の医療を連携して行う多職種のチームだ。
連絡を受けたリエゾンチームの精神保健福祉士は、すぐに情報収集を始める。まずはAさんの夫にAさんが自殺未遂に至った事情を聴く。Aさんの自殺未遂にどんな背景があるのか、情報を集めておくことが、その後の治療や支援の大きな力になるためだ。 Aさんの身体的な治療が成功して意識が戻り、搬送2日後に人工呼吸器が外れた。Aさんの看護には精神科リエゾンチームのスタッフが関わる。チームの看護師は救急病棟の看護師とともにケアをし、患者との接し方についてアドバイスも行う。同時に精神科医がAさんを診察し、うつ病の可能性が高いという暫定診断を下した。 精神保健福祉士は今後の支援を取りまとめるケース・マネジャーという立場となる。支援態勢は少なくとも半年をめどに続けていくため、その間担当することをAさんに説明し、了解をとる。そして、面談を進めていく。その結果、Aさんが自損行為に至った原因は、育児の悩みと親の介護が重なったことにあるとわかった。 「二人の子どもの育児と近居の母親の世話が重なって疲れがたまり、数カ月は眠れていなかった」「ここから逃げたい気持ちが強くなり、酒と一緒に市販薬を飲んだ」とAさんは語った。 このようにチームとして患者を支えるのが、精神科リエゾンチームのやり方だ。