「核シェルターが存在しない」日本の現実と、「普及する」スイスやウクライナ、イスラエルの実際 #災害に備える
「核シェルター先進国」スイスの規格をもとに、最新型の核シェルターのモデルルームが茨城県つくば市に建造された。核爆発に耐え、2週間を生き延びるための機能とは。そして核シェルターを持たない国・日本の現実とは。(取材・文:室橋裕和/撮影:殿村誠士/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
「日本には核シェルターが存在しないんです」
日本海方面に向けて、たびたびミサイルを発射する北朝鮮。4月13日には弾道ミサイルを打ち上げ、日本政府が落下の可能性があるとして北海道周辺にJアラート(全国瞬時警報システム)を発出するなど緊張が走った。 「北朝鮮はアメリカに対する交渉カードとして大陸間弾道ミサイルの開発を進めています。『金正恩体制を保証する』と一筆書いてほしいわけです」 軍事アナリストで静岡県立大学特任教授の小川和久氏は語る。 「加えて短距離弾道ミサイルの発射も多くなっていますが、これは実戦配備した以上は実射する必要があります」 つまり訓練やテスト、開発、そしてアメリカはじめ国際社会に対する駆け引きといった意味を込めてミサイルを発射し続けているのだが、そうなると先進国の首脳が集まるG7広島サミットの期間中にも何らかの動きがあることも懸念される。 こうした情勢下でいま、核ミサイル・通常弾頭のミサイルを防ぐための「核シェルター」に注目が集まっているという。NPO法人日本核シェルター協会の理事・事務局長、川嶋隆寛氏はこう話す。 「北朝鮮の件のほか、ウクライナ戦争でプーチン大統領が核使用をほのめかしたこともあって、昨年の秋くらいから問い合わせが急増しています」 核シェルターを建設するにはどうすればいいのかと、多くの個人や法人、自治体などから声が寄せられているというが、実のところ大きな問題がある。 「日本には、核シェルターが存在しないんです」(川嶋氏) 日本で核シェルターを建設しようと思っても、例えば防爆扉はどのくらいの厚さが必要なのか、換気システムはどうすればいいのか、規格についての指針がない。それに日本が武力攻撃を受けるなどの非常時に対処するための法律である「有事法制」の中にも、シェルターという文言は出てこない。欧米各国では厳密な定義や製造時の規格、運用方法が決められているのだが、日本では法的・制度的に「核シェルター」というものが存在していない状態なのだ。また核シェルターを謳う商品は現状でもいくつもあるが、こうした国際的な基準を満たしているものはほとんどないという。 さらには、政府首脳など要人が避難するための核シェルターも、実のところ日本にはない。前出の小川氏が言う。 「国会に地下道はありますが普通の通路ですし、霞が関の地下にも核シェルターはありません。防衛省には堅牢な中央指揮所がありますが、これも核シェルターではありません。首相にも国民にも核シェルターはない。その意味で日本は平等なんです」 日本の核シェルター普及率は0.02%とされるが、これはごくわずかな富裕層が秘密裏に建設したものばかりだという。一方で世界に目を向けると、核シェルター普及率はスイスとイスラエルが100%、ノルウェー98%、アメリカ82%、ロシア78%、イギリス67%となっている(日本核シェルター協会による調査、2014年)。