アスファルトで事故死するカマキリ、犯人は寄生したハリガネムシ 「秋の悲劇」の謎解明
アスファルトの道路で歩いていたり車にひかれてしまったりしたカマキリを秋頃にあちこちで見かける。京都大などの研究チームは、これらのカマキリが寄生されたハリガネムシに操られ、本来たどり着きたい場所である水辺と間違ってアスファルトの道路に出てきている可能性があることを明らかにした。 【写真】アスファルト道路を歩くハリガネムシに寄生されたカマキリ ■寄生するハリガネムシ 水辺にたどり着いたカマキリの尻から、ひものように黒っぽく細長い生き物がずるずるとはい出してくる-。衝撃的なこの光景を、見たことのある人も多いのではないだろうか。 この生き物は、寄生生物のハリガネムシ。川や池の中で卵を産む生き物で、孵化(ふか)後の幼生が寄生した水生昆虫を食べたカマキリの体内で成虫に成長し、繁殖できる水辺にカマキリをいざなう。 これまでの研究では、寄生したハリガネムシがカマキリの遺伝子を取り込んで操作している可能性があることなどが明らかになっていた。しかし、本来は水辺に向かうはずのカマキリが、なぜ道路にいるのかについては分かっていなかった。 京都大の佐藤拓哉准教授(生態学)や同大大学院生(当時)の澤田侑那さんらの研究チームが注目したのは「水平偏光」という現象だ。 ■人間のもたらす環境変化「進化的トラップ」 光は電磁波の一種で、通常はさまざまな方向に振動しながら進むが、物体に反射する際に、その方向が偏る「偏光」という現象が起こる。太陽光が水面に反射した光は、その振動方向が水平に偏った「水平偏光」の度合いが強い。 今回、反射する水平偏光の強さを計測したところ、アスファルト道路と水辺はほぼ同じ強さで、見分けることが難しいと判明。本来ハリガネムシが向かわせたい水辺と誤って、反射光の特徴が似ているアスファルト道路に向かっている可能性があることが分かった。実際に道路を歩いているハラビロカマキリの8割超がハリガネムシに寄生されているという実験結果も得た。研究結果は10月に国際科学誌にオンライン掲載された。 今回の研究結果のように、人間が起こす急速な環境変化により、本来は生き物の生存や繁殖に有利に働いていたはずの仕組みが、結果的に不利益な行動につながってしまう現象を「進化的トラップ」という。佐藤氏はハリガネムシの寄生について「全く違う生き物が、長い進化の歴史の中で他者の操作を可能にしたのはすごいことだ」とした上で、人間が急速に環境を変えてしまったことで「ハリガネムシの長い歴史を変えてしまっているかもしれない」と指摘する。