「核シェルターが存在しない」日本の現実と、「普及する」スイスやウクライナ、イスラエルの実際 #災害に備える
ウクライナでもシェルターは普及
核シェルターはウクライナ戦争でも効果を発揮している。前出の小川氏が言う。 「ウクライナは旧ソ連の一員だった頃、アメリカとの核戦争対策で核シェルターが普及しました。公共施設や地下鉄はそのまま本格的な核シェルターになっています」 ロシアはこれまでに1200発以上ものミサイルをウクライナ側に撃ち込み、一般国民の犠牲は7000人を超えている。数多くの人命が失われたのだが、それでもウクライナが核シェルターを備えた国だからこそ、この数字に抑えられているという。
ロシアの猛攻撃にさらされた東部マリウポリでは、アゾフスタリ製鉄所の地下シェルターに多くの市民が逃げ込み、2カ月にわたる避難生活を送ったことも話題になった。地下5階建て、5000人は収容可能で、診療所も備えた大規模なものだ。 「ウクライナでは一般の家庭でも、小型の戦術核兵器くらいなら耐えられるように簡単なシェルターや地下室を備えたところがあります。こうした体制なので、ロシアのミサイル攻撃の効果が限定的なのではといわれています」(小川氏)
核シェルター普及率100%のイスラエルでは
「新しく家を建てるときには、必ずシェルターをつくることが法律で決まっているんです」 来日23年というイスラエル人、ラビ・ビンヨミン・Y・エデリー氏はそう話す。 「シェルターといっても気づかないかもしれません。見た目は普通の部屋のようなんです。でも厚い扉があって、金庫のような頑丈な構造になっています。そういう部屋をひとつつくることが義務になっています」 また学校やシナゴーグ(ユダヤ教の会堂)、病院、ショッピングセンターといった公共の場所や、マンションなどの地下には大型で強固なシェルターが備えられている。イスラエルの人口当たりの核シェルター普及率は100%だ。バス停などもシェルターではないが頑丈につくられているという。 「年に何回か、避難訓練もあるんです」
それも、いきなりの抜き打ちなのだとか。 「準備しちゃったら、訓練にならない」とラビさんは笑うが、イスラエルの人々は普段からシェルターを中心に危機意識を養っているのだ。建国時から周辺諸国と対立し続けている国ゆえ、ともいえるが、ラビさんも「実戦」を経験している。 「13歳のときでした。湾岸戦争が起きたんです」 イラクから飛来するスカッドミサイルを迎撃するため、ラビさんの家の近所にも米軍のパトリオット地対空ミサイルが配備された。ミサイル攻撃があるたびに、シェルターに避難したという。 「シェルターのように逃げられる場所があれば、パニックを防げるんです。そういう意味でもシェルターは大事です。国を守るという意識を、日本人はもっと持ってもいいと思います」