なぜ被害者に謝罪しないのか――「聖職者」の性暴力事件で浮かび上がるキリスト教会の問題
2022年末、東京地裁で性加害の事実を認める民事訴訟の判決が出た。被告は聖路加国際大学とそのチャプレン(牧師)。だが、被害に遭った女性は今もなお苦しんでいる。女性に対して聖路加とその牧師から謝罪がないからだ。性加害はどのように起こり、なぜ被告らは謝罪しないのか。被害女性だけでなく、加害牧師も含めた各方面に取材した。(文・写真:ジャーナリスト・田中徹/Yahoo!ニュース オリジナル 特集編集部)
性加害の事実が認定された地裁判決
「女性の意に反し、牧師はわいせつな行為をした」 2022年12月23日午後1時すぎ、東京地裁712号法廷。桃崎剛裁判長は判決でそう認定した。原告は関東在住の女性、被告は聖路加国際病院(以下、聖路加)を有する聖路加国際大学とその牧師。牧師から性被害に遭ったことに対して、約1160万円の損害賠償を求める民事訴訟だった。判決は牧師による女性患者への性加害の事実と聖路加の使用者責任を認定、連帯して110万円を支払うよう命じた。性被害について女性のほぼ全面勝訴だった。 判決後の会見で、女性は振り返った。 「(加害者である)牧師は、今回の提訴という事態を受けて、一部のキリスト教関係者から“被害者”のように扱われてきた。でも、判決では加害の事実が認められた。判決内容には感無量でした」 だが、女性は加害者およびその所属団体の態度について、納得はしていない。判決が確定した後も、聖路加が女性に対して直接謝罪していないからだ。 どんな事件だったのか。事件は6年ほど前にさかのぼる。 他院で国指定の難病と告知された女性が聖路加国際病院に転院したのは2016年12月。聖路加はこの難病に関して高度な医療を提供できると知られていた。聖路加は1901年、米国聖公会の宣教医師によって創設。国内でも有数の知名度を誇る病院だ。
女性はキリスト教の信仰もあり、「聖路加であれば『キリスト教の愛の体現の場として、全人的な医療を提供してもらえる』」とも考えていた。通い出して約3カ月、2017年3月ごろ病状が悪化した。医師からは「深刻な告知」を受けた。いつまで生きられるかわからない不安や、病苦の相談のため、聖路加が提供している「スピリチュアルケア」を受けることにした。 スピリチュアルケアとは「チャプレンが、じっくりと病気や怪我などの心の痛みや苦しみをお聞きして、患者さんとご家族の心・魂の支えとなるよう援助」(聖路加国際大学キリスト教センター)をすること。チャプレンとは牧師、神父などを意味し、聖路加では「病院専任聖職者」。闘病中も生活の質を保つ施策の一つだ。 「聖路加の旧館2階にはチャペルがあります。本館2階のチャプレンルームには『どなたでもお越しください』と書かれていました。そこなら、安心してお話ができると思いました」(女性)