「核シェルターが存在しない」日本の現実と、「普及する」スイスやウクライナ、イスラエルの実際 #災害に備える
国際基準の核シェルター・モデルルームを訪ねた
こうした現状に一石を投じようと、日本核シェルター協会は茨城県つくば市に本格的な核シェルター・モデルルームを建設した。 「スイスの公共施設や住宅などで普及しているタイプです。20kt(キロトン)の原爆の爆心地から700~800mほどの場所でも耐えうる規格です」(川嶋氏) 階段で地下に下りてみる。厚さ20cm・最大耐荷重1MN(メガニュートン)の重々しい防爆扉を開けると、思いのほか広い。 「大人4人、子供3人とペットが2週間過ごすことを想定しています」(川嶋氏)
気密室兼除染室が11.97㎡、さらに耐圧扉の向こうの居住空間が25.5㎡あるという。この数字も「スイス基準」が根拠だ。たとえば居住空間の場合、最低限必要な床面積が8㎡、一人あたりに必要な最小床面積1㎡×人数、換気装置に必要な床面積が1㎡と定められており、それよりもやや広く取ったそうだ。 外気を取り込みつつ放射性物質を除去する換気装置は核シェルターに必須の機能といえるが、このモデルルームでは1時間あたり150㎥の空気を換気できるタイプを導入。 「スイスでは有事における必要換気量が1時間あたり一人3㎥と定められているので、7人+ペットという設定では十分かと思います」(川嶋氏)
さらに防爆扉と同じ基準の脱出口扉も設置されている。ここを開けてタラップを上ると、地上に出られるようになっている。 こうした核シェルターの仕様を細かく決めているのは、スイスの場合は「国防・市民保護・スポーツ省」なのだという。核シェルターを管轄する官庁があり、シェルターの規格や定期点検についても定め、自治体と連携して運用している。 しかし日本では、核シェルターは法律のどこにも位置付けられていない。 「建築基準法にも核シェルターという区分はないので、ここも『地下倉庫』として建設したんです」(川嶋氏)
水や食料、トイレ、電気は?
「有事」となれば、こうしたシェルターに避難し、2週間をやり過ごす必要がある。 「核爆発によって大量に飛散する放射性降下物が、地上に落ち着くまでが2週間とされているからです」(川嶋氏) その間、生き延びるための食料や水もモデルルームには備蓄されている。フリーズドライのご飯や災害用備蓄パンなど、成人が1日に必要とする摂取カロリーをもとに用意。水は大人1日3リットルの計算だ。医薬品やおむつもある。簡易トイレは水を使わず、排泄物を自動的にラップで包んで処理するタイプだ。 換気装置や明かりの電源は蓄電池を利用する。万が一、電池切れとなった場合に備えて、換気装置は人力でも動かせるようになっているそうだ。 こうして2週間をシェルターで過ごしたあと、やはり備え付けの防護服を着た代表者が、脱出口への扉を開ける。この扉もスイスでは規格化されていて、防爆扉と同様に厚さは20cm、内寸は80×60cmと定められている。 扉の向こうにはタラップが地上へと伸びている。地上出口はガレキなどに覆われないよう、広い場所に設置することが義務づけられているのもスイスの決まりだ。また「ここに核シェルターの脱出口がある」とわかるように、地上側に目印をつけることも決められているのだという。 そして退役軍人などで構成される地域の民間防衛隊が、放射性降下物が落ち着いた後に地上を見て回り、脱出口をチェックして生存者を探っていくのだ。 爆風や熱線、放射線を防ぐための規格を国が作り、それをもとに企業が製造したシェルターを、地域の自治体や民間が運用していく……そのすべてを備えて、はじめて「核シェルター」といえるのだ。