なぜ井岡一翔は「格の違いを見せる」の有言実行を果たし田中恒成に8回TKO勝利できたのか…「違った拳の重み」
「完敗です。全然、歯が立ちませんでした」 リング上で田中から井岡に近づき、そう話しかけてきた。 「僕はあと何年ボクシングができるかわからない。終わりに近づいている。おまえは、まだまだこれからの日本のボクシング界を引っ張っていく選手の一人。頑張ってくれ」 6歳年下の挑戦者に井岡は、そうメッセージを送った。いシーンだった。 控室で田中は、「こんなに差があったのかとビックリしている。キャリアの差を認めざるをえない」と、もう一度、素直に完敗を認めた。世代交代は果たせなかったが、まだ16戦である。井岡に教えられたものを未来に生かせばいい。 招かれざる挑戦者、田中を蹴散らして次に向かうのは団体統一戦である。対戦を熱望していたWBC世界同級王者のファン・フランシスコ・エストラーダ(30、メキシコ)とWBA世界同級王者のローマン・ゴンサレス(33、ニカラグア・帝拳)の2人が3月13日に2団体統一戦を戦う。 「その勝者とできる方向でいけたらいい」 同時に井岡にはボクシング人生のゴールとの戦いがある。 「今日負けていたら引退していたのかもしれない。終わりたくなくても“井岡は終わった”と思われる日がやってくる。それはいつくるかわからない。でも納得する感じでやりきりたい。9度目の大晦日(の世界戦)に勝って節目の10回目に頑張って行こうという気持ちになった。目の前の1試合、1試合をこなしていくだけ」 2021年の大晦日のリングに帰ってくることを約束した。 名勝負にならなかった。だが、井岡がリング上で表現したように、これぞ「This is Boxing」だった。宿命を背負いベルトを守った30歳の4階級制覇王者と、16戦目にしてキャリア初の黒星を喫した25歳の元3階級制覇王者。勝者と敗者を分けたものは何か。 「拳の重みじゃないですか。勢いだけでは勝てない。背負っているものだったり経験だったり年を重ねてきた分、拳の重みが違ったと思う」 東京都の新型コロナ感染者が1337人を数えた“混乱”の2020年最後の日…井岡の言葉が心に響いた。 (文責・本郷陽一/論スポ、スポーツタイムズ通信社)