なぜ井岡一翔は「格の違いを見せる」の有言実行を果たし田中恒成に8回TKO勝利できたのか…「違った拳の重み」
カード発表があって以来、井岡は「格の違い、レベルの違いを見せる」と繰り返し上から目線で挑発的な過激発言をしてきた。ガン無視とも取れる態度もあった。 なぜなのか。すべてが終わった今…真意を問う。 「日本人初の4階級制覇王者として、ここで彼を(4階級制覇王者に)させてはいけないと思っていた。やる限り若い選手に負けずにトップで君臨し続ける。格が違う、レベルが違うというのは、本当に思っていた本音。でも言うことは簡単。言うなら実行するべきだと」 これが9度目となる大晦日にメインを張るボクサーの誇りと責任である。 しかし、格の違いを見せることができずに負ける、或いは、互角の好勝負でもすれば、SNSの盛んな世の中である。どんなバッシングが起きたかわからない。 想像を絶するプレッシャーがあったはずだ。 井岡にはぶれない哲学があった。 「常にプレッシャーはある。絶対に勝つ、負けないつもりでいる。結果負けたとしても自分のプレーに全力で取り組んでいれば納得できる負けだと思う、自分のプレーに集中して全力で後悔しないように。出し切るという気持ちだけだった」 全力投球という名のプロセスがプレッシャーに打ち勝つ手段だった。 試合後、井岡は、真っ先に妻と1歳4か月になる長男・磨永翔君のもとに駆け寄った。 「カッコよかった。強かったよ」。妻はそう声をかけてくれた。 「妻もプレッシャーの中一緒に戦ってくれている」 花道を歩き、リングに上がった瞬間、家族の顔が見え、「ママ!」という息子の声が聞こえた瞬間、こみ上げてくるものがあったという。 「泣きそうになった。いろんな感情がこみあげてきた」 息子は父のことも「ママ!」と呼ぶそうだが、井岡は、微妙なイントネーションの違いで自分を呼んでいることを判別できるという。 JBCルールに反するため特別なパウダーを塗って隠したタトゥーの中にひとつ増えたものがある。左の脇腹付近に息子の名前を彫り込んだのである。 それは家族を背負って戦うという井岡の誓いの証だった