井上尚弥の父が語るーラスベガス衝撃KO勝利の真実
プロボクシングのWBA世界バンタム級スーパー、IBF世界同級王者、井上尚弥(27、大橋)が初上陸となった“聖地”ラスベガスで上位ランカーのジェイソン・マロニー(29、豪州)を7回に“神技カウンター”でKOに沈めた防衛戦の反響が広がっている。いったいなぜ井上は全米にインパクトを残すことができたのか。隠れた真実を父である井上真吾トレーナー(49)に聞いてみた。そこには「チーム井上」が目指す最強への“極み”があった。
父と子の阿吽の呼吸
“モンスター”が世界を震撼させた。米メディアは絶賛の嵐。英国の専門誌の中には、パウンド・フォー・パウンド(階級関係なしの最強ランキング)の1位にするメディアまで出てきた。日本でも録画放送でありながら、フジの地上波の平均視聴率は10.6パーセント。井上自身も、「ドネア戦と同じくらいの反響があった。自分にとってプラスになった試合だった」と、手ごたえを感じていた。 無観客試合となった今回の試合は放映したESPN側の演出として、父の真吾トレーナーがピンマイクをつけられラウンド途中の会話が拾われていた。1分のインターバル中に真吾トレーナーが、いかに的確なアドバイスをしているかがよくわかり、陣営のラウンドごとの戦略の一端も垣間見えた。2人の“阿吽の呼吸”で交わされていた会話の”解説”を帰国した真吾トレーナーにお願いしてみた。 1ラウンド。井上は、開始早々、アッパーカットでマロニーを脅すと、左ジャブのスピードで上回り、ガードの上から右ストレートをお見舞いするなど、好戦的なスタイルでペースをつかんでいた。1ラウンドが終わると、真吾トレーナーは、こんな助言を送っている。 「前で距離を潰さなきゃダメだよ。後ろ、後ろはダメだよ。ボディワークを使いながらね。もう少しリードついていこう。左(のガード)を下げるなよ」 井上のディフェンス技術は、ガード(ブロック)、ダッキング、スウェー、バックステップ、パーリングの5つすべてを兼ね備えたバランスの取れたものだが、特にバックステップからのステップインが特徴である。だが、真吾トレーナーは、「後ろはダメだよ」と、バックステップの使い方に注意するように呼びかけた。 「マロニーが、ジャブ、ジャブ、連打、連打できましたよね。どんどん前に来るんだけど、そのとき尚が、相手が来るままにバックステップをしていたんです。マロニーは一発の怖さはないが、左右に動き回り、リズムをつかませると嫌なタイプ。だから、後ろで外したら、そのまま下がらずに、体を前に入れる。前で距離を潰そうとは、そういう意味なんです。そうすることで、マロニーとの距離が近くなると、相手のパンチが死にます」 その指示に従い、井上は2ラウンドに入るとガードを固めてプレスをかけまっすぐに下がるような場面は見られなくなった。