「なぜ“100年に1人の天才”がわざわざ無名校に?」全国高校駅伝26年前の奇跡…「1日60km走ったことも」駅伝弱小県の新興校が“超名門”になるまで
今年も全国高校駅伝の季節がやってきた。今季の優勝候補筆頭が5000m13分台のランナーを5人揃え、同校初の連覇を狙う長野・佐久長聖高校だ。今年で27年連続の全国出場、24度の入賞という驚異的な安定感を誇る同校だが、いまから四半世紀前――初めて京都の舞台を踏んだチームは、まさに「寄せ集め」集団だった。それでも初出場で“全国4位”に食い込んだ名門の黎明期を振り返る。《NumberWebノンフィクション全3回の2回目/つづきを読む》 【貴重写真】「こ、これが100年に1人の逸材の走り…」黎明期の佐久長聖に現れた“伝説のランナー”佐藤清治184cmの超ダイナミックフォーム…26年前、初代・佐久長聖チームの都大路での激走も見る 1997年の春、2年生になった松崎雄介たち佐久長聖高駅伝部の1期生のもとには、大きな変化が起きていた。 ひとつめの大きな変化は、6人の新入生が入部したことだ。しかもその中には、両角速監督をして「100年に1人」といわしめた逸材がいた。彼の名は、佐藤清治と言った。 佐藤は中学時代から中距離種目の全国大会で優勝経験があり、記録的にも松崎たちの代とは一線を画す、本当の意味での全国トップ選手だった。その前評判に違わず、1年生にして1500mでインターハイを制すると、後には800mから5000mまでの4種目で高校記録を更新する驚異的な実績を残すことになる。 そんな俊才がたまたま高校と同じ地域に住んでいたことに加えて、実兄が佐久長聖の陸上競技部に所属していたこともきっかけとなり、まだまだ無名だった駅伝部に入部することになったのだ。
無名校に突如現れた「天才」…チームメイトの反応は?
通常、後輩にそんな「天才」を目の当たりにすれば、他の選手は彼我の才能の違いに絶望してもおかしくない。自分と比べることすらできず、別枠の選手と捉えてしまう可能性も十分にあった。 だが、幸か不幸かこの時の松崎たちは、本格的に競技をはじめて1年あまり。まだ、いい意味で「素人感」が残っていた。元々は短距離種目出身の松崎はこう振り返る。 「もちろん清治がすごい才能を持ったランナーだというのは分かりました。でも、だからと言って自分たちとは違う、絶対に勝てない存在だとも思わなかった。というか、実力を測れるだけのモノサシが無かったんです(笑)。そもそも全国トップレベルの選手を知らないので、清治がその中でもとんでもない能力を持っているということが分からなかったんですよね」 中学時代はスキー部だった小嶋卓也も振り返る。 「もちろんスピード面でとんでもない能力があるのはすぐ分かりました。それでもスピードで勝てないなら距離走では勝ってやろうとか、このポイントでは負けないようにしようとか、そういう負けん気はみんなありましたね。変に清治を特別視することは全然、なかったです」 「別格」ではなく、あくまでも強力な後輩で、チームメイトのひとり。 「たまたま速いやつがはいってきたんだなぁ……くらいの感覚しかなかったんです。いい意味でまだちゃんと上下関係もあった時代でしたから、普通にみんな先輩・後輩として清治と接することができていました」 同じ高校生だ、勝てないことはないだろう。怖いもの知らずの素人集団は、100年に1人の才能であろうと関係なく、練習ではガンガン勝負を挑んでいった。そうしてそんな天才と練習をともにすることで、むしろ1期生たちの能力も、上限にフタをすることなく伸び続けることになる。 強力ルーキーの加入による化学反応を経ての、もうひとつの大きな変化は夏のインターハイだった。1期生から卓球部だった宮入一海と小嶋が、3000m障害で全国大会出場を決めたのだ。しかも宮入は、そのまま8位に入賞するおまけつきだった。松崎が言う。 「当時の目標はとにかく“都大路=全国大会に出る”ことでした。その意味でインターハイとはいえ宮入と小嶋が1期生として初めて全国の舞台に進んだことはとても刺激になりました」
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