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完全自律型兵器のグローバルユース会議⑧「キラーロボットは私たちの世代の核爆弾」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からのカナダ、フィリピン、日本のユーススピーカーの声を紹介する。

「なぜカナダはキラーロボットの問題の最前線にいないのでしょうか」

カナダのユーススピーカーとしてテラ・オスラー氏が参加した。

キラーロボットを初めて知った時、完全自律型兵器が私たちの世代の核爆弾であると実感しました。自律型兵器の使用は様々な理由で私たち全員に影響を与えることになります。

自律型兵器システムは核爆弾のように戦争の構造を根本的かつ不可逆的に変えるだろうということです。自律型兵器システムは基本的にソフトウェアで複製や再現の容易さは、どのような兵器も凌駕します。誰が最初に配備しようとも、我々が追い越すことのできないスピードで拡散していくでしょう。

自律型兵器システムが私たちの世代の核爆弾と言っている理由は、自律型兵器システムの使用によって最も多くの損失を被るのは私たちだからです。テクノロジーが私たちの生活の中でどれほど中心的な存在であるか考えてみましょう。私たちはインターネットとともに成長してきました。そのインターネットには私たちの個人情報が保存されています。自律型兵器はAIを使って機能するために、標的を識別するためのデータを必要とします。

最近いくつかの国でデモ参加者を識別するため、個人データの使用に関する法的懸念が出てきていることを考えると自律型兵器システムがオンラインデータにアクセスできるという考えは恐るべきことです。現状では自律型兵器システムの使用を禁止する国際禁止条約が人命の損失を防ぐための最も効果的な選択肢であると思われます。

条約は既存の国際法に加え自律型兵器システムが使用される可能性を含めるように拡張し、戦闘に配備される前に、この技術をよりよく制御し、規制することができるでしょう。我々は過去にクラスター弾に関する条約のような類似する条約の成功を収めております。自律型兵器に関する条約の妥当な前例があると考えます。

現在、カナダは自律型兵器システムをめぐる多国間協議を支持しています。自律型兵器システムを「取得していない」と表明していますが、国際条約への明確な支持を示すには至っていません。2019年12月にはトルドー首相が外務省に自律型兵器システム禁止に国際的な取組を進めるように助言しました。これは希望が持てる兆候です。しかし2020年10月に行われた協議ではカナダは声明を出さずに、これまでの支援に照らしても残念な結果となっています。

カナダは長い間、人権の推進の最前線にあり、そのレガシーを誇りに思っています。それなのに、なぜカナダはキラーロボットの問題の最前線にいないのでしょうか。自律型兵器システムの開発は平和への脅威だけでなく根本的に人権の保護を脅かすものです。

歴史上の多くの手遅れの悲劇とは異なり、私たちが壊滅的な状況を事前に止めるチャンスがあるのです。カナダ政府には人道的介入、平和・発展のための支持、人権擁護に対する慣行を貫いてほしいです。カナダと世界の未来の世代のために、カナダ政府は完全自律型兵器の問題について具体的かつ断固とした行動を起こしてください。

フィリピン「未来の戦争は私たちが望むものではありません」

フィリピンのユーススピーカーとしてザイラ・アリア・アンパトゥアン氏が参加した。

フィリピンは軍縮活動における計り知れない試練をもたらしうる新技術における人間のコントロールの重要性とキラーロボットがテロなどの悪組織に渡る可能性を考慮しています。

フィリピンは国内外からの安全保障上の脅威に悩まされています。フィリピンでは様々な武装グループが関与する紛争が続いており、安全保障上の課題に直面しています。私の家の近くのマラウィ市ではISISに触発されたマウテグループとその同盟国による包囲攻撃がありました。私たち学生はこのような恐怖と一緒に暮らしています。武力や暴力による影響を受け続けています。

より平和な未来のために、私たち若者こそが自律型完全兵器の禁止を求める運動をすることが重要です。将来の戦争で使用される可能性のある兵器がこれ以上開発される必要はありません。未来の戦争は私たちが望むものではありません。そのような戦争は避けなければなりません。

「日本がアトムの心を引き継ぎ平和の種をまくことを期待」

日本のユーススピーカーとして田辺アリン・ソヴグラン氏が参加した。

日本政府に2つのことを訴えます。1つは終わりの見えない軍拡競争から日本と地域を守るためにも日本がルールメーカーとして今よりも一歩踏み込んで、人間の有意義な関与を有するキラーロボットの禁止条約の制定を支持してください。

2つ目は外交で影響力を持つアジアの国として今よりも積極的にキラーロボット禁止に向けた議論に参加するし、市民社会や赤十字国際員会とともに今年度に予定していた国際会議を開催してください。

最後に日本には国民的アニメ「鉄腕アトム」があります。その主題歌に「心優しいラララ科学の子 心正しいラララ 今日もアトム、人間守って」という一節があります。日本がアトムの心を引き継ぎ平和の種をまくことを期待しています。

▼「鉄腕アトム」

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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