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完全自律型兵器のグローバルユース会議②「キラーロボットの結果に苦しんで生きていくのは私たち若者」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からインド、インドネシア、ベルギーのユーススピーカーの声を紹介する。

インド「軍拡競争では技術格差は縮まりません」

インドのユーススピーカーとしてタンヴィ・ケジリワル氏が参加した。

インドはキラーロボットの開発については一貫していない立場をとってきました。一方でラジナート・シン国防大臣は「最終的な攻撃の決定はAIではなくて、人間のみが行うべきだ」と発言しています。他方、インド政府は様々な自律型兵器の加発に投資を続けています。

私はインド政府の立場は、死と破壊と人権侵害を許可することだと思っています。最終的な判断は人間が行うべきです。シン国防大臣の意見に賛成です。人の命は尊いものであり、命を奪う決断は単純に論理的なものではなく感情的なものでなければなりません。キラーロボットは道徳的な要素を戦争から排除します。また説明責任と共感を排除します。だからこそ、私は一市民としてインド政府に自律型兵器の開発をやめ、キラーロボットの先制使用の禁止を支持してほしいのです。

インドは特に軍事技術の面での国家間の格差が拡大していることに反対しています。キラーロボットはこのギャップを拡大させる可能性が高いです。軍拡競争では技術格差は縮まりません。それを達成できるのは先制的禁止だけです。

インドネシア「人間とロボットの戦いはアンバランスで不公平」

インドネシアのユーススピーカーとしてタウファン・ヒマワン氏が参加した。

インドネシアは世界4位の人口で世界人口の3.49%を占めています。多様性があり、民族、肌の色、宗教、文化に関係なく、生けとし生けるもの全てに感謝するというインドネシア人の価値観に繋がっています。インドネシア人は昔から世界平和に貢献するために国際問題に自由かつ積極的に向かいあい、他国に支配されずに、国際社会の意思決定に主体的に関わっていくという信条を持っています。

こうした背景からインドネシアはCCW締結国ではありませんが、自律型兵器システムに関する法的拘束力のある制度の整備を強めていくべきです。人間の手を介さずに動作し、標的を探知して攻撃を実行するための判断を下す能力を持つ完全自律型兵器は、多大な危険をはらんでいると考えます。なぜなら、このような兵器は状況判断のプロセスから人間を排除し、一般市民や子供を攻撃する際に全く躊躇を伴わないからです。これは国際人道法のルールにも違反しています。

たとえ軍事競争であっても、人間とロボットという対等でない戦いはあってはならず、そのような戦いはアンバランスで不公平です。世界各地のAIやサイバーの専門家はAIを自律型兵器に利用することの危険性について強く主張しています。特にAIは非人道的で、無責任に悪用される可能性があることから、その危険性は計り知れません。

私以外にも多くのインドネシア人がキラーロボットの開発には反対しています。特に多くの学者、研究者、専門家が国民全体の団結、政府の行動を求めてキラーロボットに反対するキャンペーンを続けています。

インドネシアはこのような兵器を禁止するための交渉において、多大な影響力を持っています。インドネシア政府は中堅国として、キラーロボットの深刻性を認識し、明確に反対する立場を取り、そしてキラーロボットを禁止するための外交を国際社会で続けていくべきです。

ベルギー「イーペル平和賞でベルギーの市民がキラーロボットに関心を持つように」

ベルギーのユーススピーカーとしてフィン・ボステールス氏が参加した。ボルステ―ルス氏はパックス・クリスティというキラーロボットに反対しているNGOでインターンとして働いていた時にキラーロボットの脅威を知った。

キラーロボットが開発され使用されたら、その結果に苦しんで生きていくことになるのは私たち若者です。ベルギーが2013年11月から多国間協議の提案を支持していることを嬉しく思います。ベルギーは全てのCCW会議に出席し、2019年に自律型殺傷兵器を禁止するための国際的な必要性を認めました。

しかし完全自律型兵器の国際競技には積極的に参加してきた一方で、禁止条約の交渉を呼びかけた30か国の中には入っていません。2020年9月にベルギー政府が公約で「LAWSに関する規制の枠組みを作るためのイニシアティブをとる」と約束し、「国際的な禁止に向けて努力する」と宣言したのは良いことだと思います。ベルギーがようやく国際的な禁止について触れました。ベルギー政府は、自分の言動に責任を持ち、公約を実行に移してください。市民の声に耳を傾けてください。ベルギー市民の71%がLAWS禁止を求めています。

キラーロボット反対キャンペーンは、2002年から3年ごとにベルギーのイーペル市が授賞する「イープス平和賞」を受賞しました。投票した人の大半が18歳以下の若者だったので、これは良い方向への一歩だと思います。この賞のおかげで、ベルギーの若者たちはキラーロボットの問題をより意識するようになりました。NGOのパックス・クリスティはこの賞を政府が国際的な禁止交渉で主導的な役割をとるための明確な指標だと捉えるように政府に求めています。

私はキラーロボット反対キャンペーンのコーディネーターであるメアリー・ウェハムの「国際的な禁止条約は完全自律型兵器が提起する深刻な課題に対処する唯一の効果的な方法である」という声明に同意します。機械やロボットが人間の生死を決めるべきではないです。機械は人間と同じように判断を下すことができないからです。機械の背後にある技術は、私たちが日常的に利用している大手IT企業から提供された私たちのデータによって機能しているのです。

イーペル平和賞が「キラーロボット反対キャンペーン」が授賞されたことで、ベルギー市民が完全自律型兵器に深刻な懸念を抱いていることが明らかになりました。手遅れになる前に何世代にもわたる命と人間の尊厳を守り、国際的な禁止措置を実施するように他の国と協力することを求めます。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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