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完全自律型兵器のグローバルユース会議⑤「キラーロボットが子供にどのような影響を与えるのか考えて」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からアメリカ、ハンガリーのユーススピーカーの声を紹介する。

アメリカ「軍事力の拡大ではなく、人道的な手段で人類の紛争を解決すること」

アメリカのユーススピーカーとしてジャーナリストで平和活動家のライアン・ディ・コーポ氏が参加した。

米国議会調査局の最近の調査結果によると、米国は現在、完全自律型兵器の保有をしていないものの、「米国の製作はそのような兵器の開発や使用を禁止していない」と指摘しています。米国は2014年以来、いわゆるキラーロボットの法的・倫理的な影響に関するいくつかの国際会議に参加してきましたが、これらの技術の使用の全面的禁止を提唱するまでには至っていません。

完全自律型兵器による「人道的利益」に関する2018年の白書で米国はそのような兵器は、兵士による攻撃の精度を向上させ、それによって民間人の死を防ぐことができると主張しています。また米国を拠点とする軍備管理協会の理事であるマイケル・クレア教授は、これらの兵器システムは敵を圧倒させるために大規模な集団で動作するように設計される可能性もあると指摘しています。さらにこれらの技術は安価かつ迅速に生産できる可能性があります。

そのような中、2018年センター・フォー・パブリック・インテグリティは米国防総省が軍事用人工知能システム開発に5年間で約20億ドル(約2085億円)を費やす計画があると報じました。実際に米国の防衛関連企業のブーズ・アレン・ハミルトンは2018年7月にAI研究のために8億8500万ドル(約923億円)を受け取ってます。

またトランプ政権下において国防総省は軍事先頭に使用するAI技術の研究を目的とした「共同人工知能センター(JAIC)」を開設しました。さらにトランプ政権は2019年から2020年にかけてJAICの支出を今年の2億4200万ドル(約252億円)から2億9000万ドル(約302億円)へと20%増額することを求めました。ホワイトハウスは2020年2月に「より致死性の高い軍事力の近代化に投資する」ために7405億ドル(約7兆2090億円)の巨額の防衛予算を提案しています。

完全自律型兵器の使用は米国が敵を殺害したり無力化したりすることを容易にするだけでなく、人間の判断とコントロールを戦争から取り除いてしまいます。私の考えでは、失業率の上昇や株式市場の乱高下の中で国家間の平和ではなく、さらなる暴力的な紛争につながる可能性が高い技術に法外な金額を米国が投資し続けることは到底許されることではないです。

米国議会は、国防総省が完全自律型兵器を使用することを禁止する法律を制定すべきであり、またそのような研究の資金を凍結すべきです。また米国政府はこのような兵器の国際的な使用禁止を確立するための交渉に積極的に参加すべきです。

我々が道徳的に進むべき道は軍事力の拡大ではなく、人道的な手段で人類の紛争を解決することです。

ハンガリー「AIは危険性のない軍事の向上のためには有効なツール」

ハンガリーのユーススピーカーとしてカトナ・イレシュ・ラズロ氏が参加した。

中央ヨーロッパの中心にあり1000年の歴史を持つ「素晴らしい島」のハンガリーはこれまで国際社会に向けて完全自律型兵器やキラーロボットの開発・使用に対して反対意見をあげていません。残念なことです。

ハンガリー政府は自律型殺傷兵器に対して「実質的な考察」が必要であることを認め、CCW会議における継続的な協議に賛同しているにもかかわらず、先制禁止を求める国々とともにキラーロボット反対キャンペーンのメンバーには加わっていません。

IPSOSが2018年に行った国際的な世論調査ではハンガリー国民の74%が完全自律型兵器に反対しています。世界的にも最も高い数値です。市民の意識がこのようなのにハンガリー政府の現状は非常に残念です。ハンガリー政府や多くの政府は目先の利益ばかりを優先してしまい全体像を理解しようとしていません。AI技術に関してもそうです。

私たちはこれまでに見たことがないようなレベルのテクノロジーを生み出しています。人間の何倍もの速さで進化する最先端技術と壊滅的な兵器を組み合わせれば、私たちが理解できないような認知プロセスが生み出されるでしょう。

AIもしくはヒューマンマシンインタラクションは危険性のない(ノンクリティカルな)軍備機能の向上のためには有効なツールだと思います。そのため人間が意思決定に関与できる限りは、私はAIを軍事活用する概念には反対しません。AI技術開発の促進にもつながります。

私が危惧しているのは人間の有意義な関与を失い、結果的に意思決定のループから外れてしまうことです。だからこそ武器開発の分野では政府、NGOや市民社会団体からの民主的な市民統制が必要です。若者の声が重要です。

私は子供とキラーロボットに関する危惧も出版して発信しました。人権教育の一環として高校生向けの課外活動、対話型教育教材としても活用されています。ハンガリー政府だけでなく世界の政府が予防原則に則った判断をして、次世代への影響を考慮すべきだと思います。キラーロボットが子供にどのような影響を与えるのか、特定のコミュニティにどのような影響を与えるのか、国際的な平和と安全保障への影響や、自分達の故郷や地球への影響も考えて欲しいです。

「人類が平和に生きるようにプログラムされているのであれば、戦争はシステムエラーとみなされる」といつも思っています。

▼ハンガリーのユーススピーカーとしてカトナ・イレシュ・ラズロ氏が「キラーロボットと子供問題」について語るメッセージビデオ

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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