Yahoo!ニュース

アウシュビッツ博物館「X(ツイッター)は忘却に対抗する記憶の行動」フォローとリポストを呼びかけ

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

「リポストや引用リポストをして私たちの声を拡散してください」

2024年3月にアウシュビッツ絶滅収容所博物館の公式X(旧ツイッター)で「皆さんのX(旧ツイッター)でのやり取りはとても重要です。それはアウシュビッツ絶滅収容所での歴史の忘却に対抗する記憶の行動です。アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった人たちを追悼してください。そしてアウシュビッツ絶滅収容所での歴史を記憶に留めて、世界中でホロコーストの歴史を後世に伝えてください。私たちの声を拡散してください。私たちにとっては全てのリポストが重要です。是非リポストや引用リポストをして、他の人たちにもアウシュビッツ絶滅収容所博物館のX(旧ツイッター)をフォローするようにすすめてください」と訴えていた。

▼フォローを呼びかけるアウシュビッツ絶滅収容所博物館のアカウント

アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではX(旧ツイッター)で毎日情報発信を行っている。アウシュビッツ絶滅収容所博物館のX(旧ツイッター)では、毎日、アウシュビッツ絶滅収容所で犠牲になった方々の誕生日や殺害された日に、彼らの写真とともに生まれた場所、いつ殺害されたかを投稿している。110万人以上が殺害されたアウシュビッツ絶滅収容所なので、毎日誰かしらの誕生日である。ナチスドイツではヨーロッパ中のユダヤ人を絶滅することを政策として掲げていたので、支配した地域でもユダヤ人をリスト化していた。そしてどの地域で何人のユダヤ人をどこの収容所に送るという"ノルマ達成"を官僚主義的に行っていたが、その際にもきちんとユダヤ人の情報をリスト化していた。そのようなナチスドイツによるユダヤ人の徹底的な管理に向けた"まめな記録"が現在ではデータベース化されており、アウシュビッツ絶滅収容所博物館ではその日が誰の誕生日かがわかる。

写真が残っていない犠牲者の場合は文字だけで犠牲者の情報を投稿している。ユダヤ人にとっては家族や友人らとの幸せだった時代の写真は貴重なものでアウシュビッツまで持ってきたが、ナチスドイツにとっては全く価値のないものだった。そのためすぐにナチスドイツによって焼却されてしまったので、平和な時代の写真が残っているのはとても貴重である。だがアウシュビッツでは強制労働に適していると判断された囚人らは3方向から写真撮影されていた。それらの写真がデジタル化されて保存されており、3枚の写真が犠牲者の誕生日に掲載されることが多い。多い日には1日に10人くらいの犠牲者がポストされることもある。

さらに大量にある犠牲者の写真の他にも文書、遺品などをデジタル化して保管しており、それら貴重な歴史的コンテンツを毎日X(旧ツイッター)で世界中に発信している。アウシュビッツ絶滅収容所博物館では、2019年8月に「解放75年を迎える2020年1月までに、X(旧ツイッター)のフォロワーを75万人まで目指す」と掲げていた。当時は55万人程度のフォロワーだったが、2019年末には75万まで到達し、目標はクリアした。その後、アウシュビッツ絶滅収容所博物館では「フォロワーを2020年1月27日(国際ホロコースト記念日)までに100万人」と目標を上方修正し、この目標もクリアされ、2022年末までにフォロワー数150万の目標を掲げてクリアした。フォローを呼びかけているが、現在では特に具体的な目標値は定めていない。

アウシュビッツ絶滅収容所の博物館のXではホロコースト関連のニュースや犠牲者の情報、生存者の体験など決して明るいニュースや情報ではなく、目を覆いたくなるような写真や生々しい情報も多い。

2023年10月に武装集団ハマスがイスラエルを攻撃してからは、様々な反ユダヤ主義に関する情報や陰謀論がSNSで多く拡散されているが、アウシュビッツ絶滅収容所のX(旧ツイッター)ではホロコースト時代の様子やニュースだけでなく、現代社会のヘイトスピーチや民族憎悪、欧米では根強く残っている反ユダヤ主義に対しても警鐘を鳴らしている。

▼アウシュビッツで犠牲になったユダヤ人の誕生日とその後を知らせるポスト

学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

佐藤仁の最近の記事