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完全自律型兵器のグローバルユース会議⑥「キラーロボットによる顔・音声認識技術には強く反対」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上から若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からドイツ、ブラジルのユーススピーカーの声を紹介する。

ドイツ「国際条約だけが自律型兵器と人間の生死の決定におけるコントロールを奪うことによる戦争の革命を防ぐことができます」

ドイツのユーススピーカーとしてNGO団体Facing Financeで働いているヨハナ・トテンバッハ氏が参加した。

ドイツはまだ自律型兵器システムを禁止する法的拘束力のある条約を支持していません。ドイツ外相は以前、国際社会において一歩進んでキラ―ロボットの禁止に向けた努力をすると発表しました。しかし現在のところジュネーブにいるドイツの外交官は国際的に拘束力のある条約に向けたプロセスに参加していません。

ドイツ国内に目を向けると、ドイツ議会は今年初めに採択を行いましたが、残念ながらドイツ国内でのキラーロボット禁止や国際的な条約締結に向けた施策を可決することはできませんでした。一方で、政治家は武力行使における「人間による有意義な制御(コントロール)」の概念をますます認識しており、機械やアルゴリズムに生死の判断を委ねてはならないという観点からこの概念を維持する必要があると同意しています。

それにもかかわらず、ドイツはまだ法的拘束力のある条約を支持していません。野党や市民社会の関係者、そして大多数のドイツ国民はキラーロボット禁止を支持しています。興味深いことに現政権も連立協定で、キラーロボットの国際的な禁止に向けて努力することを合意しています。しかし残念なことにドイツ政府は私たちの目標を支持する声明を出しながら、この約束が他の利益によって妥協されているように見えるのです。そのため、私たちはドイツ政府の政策を変えるために、キラーロボットに関する一般の人々の意識を高め、様々な利害関係者と関わる中で、政府に公約を果たす圧力をかけるような包括的な議論を行っています。

2021年9月の選挙を視野に入れて、政府の政策変更に向けて活動しています。その中でドイツ政府が引き続き責任を持って禁止条約につながるプロセスで積極的な役割をはたすことを強く求めています。

私は武力行使に対する人間の関与を確保し、自律型兵器を禁止する国際的な拘束力のある条約に向けて交渉することは可能であると確信しています。私たちは過去に違法な兵器を明示的な禁止条約で禁止できることを目の当たりにしてきました。そして急速に開発が進められている自律型兵器においては、禁止条約が緊急に必要であると考えています。

国際条約だけが自律型兵器と人間の生死の決定におけるコントロールを奪うことによる戦争の革命を防ぐことができます。ドイツ政府は国際的なキラーロボット禁止条約の交渉に立ち上がることができるはずです。ドイツの政治家は武力紛争における人道的原則を守るために必要なことに従って行動するように強く求められています。

ブラジル「人権状況に深刻な損害をもたらす恐れがあります」

ブラジルのユーススピーカーとしてローラ・バレラ氏が参加した。

ブラジルには人権のために努力してきた長い歴史があります。自律型兵器の問題も同じように積極的に関わってきました。2013年5月、ブラジル政府は人権理事会において戦争を始める敷居を下げてしまうリスクや自律型兵器が人を殺害した場合の説明責任の曖昧さについて懸念を表明してきました。

そのため2017年にブラジルは完全自律型兵器の禁止を求めました。国際人道法や国際人権法に違反することをあげています。ブラジルはキラーロボットの問題に関する会議に積極的に参加しており、オーストリアやチリと並んで兵器システムにおいて人間によるコントロールを維持するために法的拘束力のある文書を取りまとめるための交渉を正式に提案しました。

またブラジルは2020年2月にリオデジャネイロで完全自律型兵器に関する国際的なシンポジウムを開催しています。これは国連以外で政府がキラーロボットに関する多国間協議で主催した初めての事例でした。ブラジルは完全自律型兵器の禁止に関して他国の模範であり、希望を与える存在であると言えるかもしれません。

しかし、このように完全自律型兵器の禁止をサポートしてきたにもかかわらず、現政権がこの立場を維持するかどうかについては疑問が残ります。当選以来、ボルソナロ大統領は国内および国際レベルで人権問題に関するブラジルの立場を構造的に変えてしまいました。さらに彼のアジェンダの中心は国民と国家の軍事化であり、軍事化に関してはすでに多くの政令が制定されています。

私はブラジル政府が完全自律型兵器の禁止を支持することを望んでいます。倫理・法的問題に加え完全自律型兵器は国際管理や取り締まりなど武力紛争以外の場面での使用も考えられます。ブラジル政府が抗議への弾圧とデモにおいて危険な兵器を使用してきた過去があります。またブラジルの公安・治安維持政策は社会に根強く残る構造的人種差別に侵されていて、黒人や貧困層が警察の弾圧の対象となっています。そのため完全自律型兵器が様々な場面で使用される可能性と現大統領が推進する軍国主義化を考慮すると完全自律型兵器はブラジルの人権状況に深刻な損害をもたらす恐れがあります。

またブラジルの市民社会団体は女性や少数民族の人々、障害がある人々を誤って認識する確率が高いことを指摘しており、顔・音声認識技術に強く反対しています。完全自律型兵器のように人間によるコントロールを取り除き、センサーによって人間の特徴を判別したうえでターゲットを選ぶことは、人間をパターン化されたデータやコードに還元することにつながります

さらに兵器システムにバイアス(偏見)がプログラムされてしまう可能性を考えると危険性がより明確に浮き上がってきます。したがって完全自律型兵器の使用は抑圧されてきた人々やプログラマーの定めた範囲内に収まらない人々にとってより高いリスクをもたらす可能性があります。

このように完全自律型兵器の倫理・法的側面における影響と抑圧されてきた人々に与える影響を考えると、ブラジル政府に対して完全自律型兵器の禁止だけでなく、人間によるコントロールを維持するための法的拘束力のある文書の提案と交渉で役割を果たし、他国にとっての模範となり、希望となるように強く求めます。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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