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完全自律型兵器のグローバルユース会議③「若者のアイディアと理想でキラーロボットの完全禁止を」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からのコロンビア、ベトナム、アルゼンチンのユーススピーカーの声を紹介する。

コロンビア「武器に搭載されたAIは目的を遂行するためのソフトウェアでしかない」

コロンビアのユーススピーカーとしてアレハンドロ・カスタニエダ・メディナ氏が参加した。

若者の運動は国際社会における平和と安全を促進するために欠かせません。特に完全自律型兵器システムの危険性を民間人や政府に訴えることは重要です。コロンビアは他のラテンアメリカ諸国に比べて、キラーロボットに対する立場がはっきりしていないと感じました。市民社会、特にコロンビア地雷禁止キャンペーンという人道的軍縮に取り組む団体と協力して、ラテンアメリカ諸国の連帯に加わることを目的として、2020年から外務省と国防省が連携を開始しました。

コロンビアが自律型殺傷兵器システムの分野における新技術の開発・生産・使用に断固反対するという私たちの目標を達成するためにこの活動を継続していきたいです。キラーロボット反対キャンペーンの協力のもと、2020年にはラテンアメリカの若者のためのイニシアティブが登場しました。「キラーロボットに反対する若者」と呼ばれる仮装ツールキットもデザインしました。このツールキットは、ヤングスカウト、NGO、大学、学校の若者、興味ある人の全てに提供されます。ツールキットの目的はキラーロボットがもたらすであろう社会的・人道的な影響についての課題と危機感を広めることです。

武器に搭載されたAIは目的を遂行するためのソフトウェアでしかありません。人の生死を決定する際に人間的・倫理的・道徳的な判断ができないということを伝えるために、私たち若者は理解を深め、行動を起こさなければなりません。コロンビア政府に対して、キラーロボットによる人道的被害の可能性を認識し、平和な世界の構築に率先して取り組んでいくことを呼びかけています。

未来の平和を築く世代として私たち若者のアイディアと理想をもってキラーロボットの完全禁止に向けて取り組んでいきましょう

ベトナム「LAWSに対してどのような立場をとるかは同盟国との関係だけでなく、戦略上での重要な問題」

ベトナムのユーススピーカーとしてミン・グエン氏が参加した。

ベトナムは2013年から2019年までの特定通常兵器使用禁止制限条約(CCW)の期間中、一度も自律型殺傷兵器に関する公式声明を出したことがありません。ベトナムは1980年に「特定通常兵器使用禁止制限条約」に署名したにもかかわらず対人地雷を規制するための改正第2附属議定書や戦争の爆発物の残骸に対処するための第5附属議定書に署名しませんでした。

一方で1996年の包括的核実験禁止条約(CTBT)、1993年の化学兵器禁止条約(CWC)、1980年の生物・毒物禁止条約(BTWC)などの他の種類の兵器についてはベトナムは積極的に署名、批准しています。つまり、ベトナムは国際的な地位を守るために重要な条約に署名・批准したり、領土防衛に有利と思われる兵器の禁止に反対したりして自国の安全保障上を念頭に置いて行動しているのです。

「なぜ」ではなく「どのように」LAWSの禁止に取り掛かるべきかと聞かれたら、自律型殺傷兵器システムの禁止が道徳的にやむを得ず、当然だということは理解できるかもしれません。しかし兵器の輸出国と輸入国の需要と供給が、これらの技術開発のための産業を成長させ続けています。

例えば、中国は自律型兵器の使用を禁止するよう呼びかけていますが、生産や開発は禁止していません。技術的に不利にならないようにするために有利となる同盟を確保し、その時々の国際社会におけるLAWSの状況に応じて対応を変えていくことが自国を守るために合理的な選択になると思います。

有利な国と不利な国の隔たりがあることによって、LAWSの普遍的な禁止が容易に反対されたり禁止条約への賛成が阻害されたりするのです。全ての国の間で広範な外交努力と譲歩を行い、共通の合意がとれることによって初めてLAWSの禁止を効果的にすることができるのです。

ベトナムが直面している南シナ海紛争に関する現在の安全保障状況はかなり複雑です。ベトナムはこれまで中国の軍事面での技術的優位性に対抗するために防空ミサイルシステムをアップグレードして、日米との安全保障関係を強化してきました。

ベトナムがLAWSに対して、どのような立場をとるかは同盟国との関係だけでなく、戦略上での重要な問題です。幸いなことに現在はLAWSの使用や潜在的な配備の脅威にまでは及んでいません。ベトナムが多国間の枠組みであるASEANを通じて紛争を交渉するために継続的な努力をすることで軍事対立を緩和することを期待しています。

アルゼンチン「土地や企業が自律型兵器によってコントロールされ、先住民族の命が危険に晒されてしまう世界を想像して」

アルゼンチンのユーススピーカーとしてカンデラリア・ロペス氏が参加した。

アルゼンチンは他の29か国とともに完全自律型殺傷兵器の禁止を支持しています。つまり人間のコントロールが及ばない兵器システムは禁止できるということです。完全自律型殺傷兵器の存在は国際人道法や人権の概念を脅かすものです。

私たちの地域では国家間の戦争や紛争はありませんが、それでもLAWSには大きな懸念を抱いています。まずラテンアメリカでは暴力と政治的、社会的、経済的な国内紛争が多発しており、自律型兵器の使用が起こり得る土壌が存在しています。またこれらの武器は国家だけでなく他の組織や機関、例えば組織的な犯罪や企業の手に渡ってしまう可能性もあります。

これらの武器が存在し、国家警察がこれらの武器を管理している世界を想像してみましょう。国境がキラーロボットによって監視される世界、そして麻薬カルテルのような組織犯罪がLAWSを用いて社会を脅かし続ける世界を想像してみましょう。

アルゼンチンでは過去40年の間に多くの先住民が自分達の土地が様々な会社に売却されたと主張してきました。例えばこれらのケースのいくつかでは鉱石の露天採掘、大規模な大豆栽培などのために土地が売却されていました。では土地や企業が自律型兵器によってコントロールされ、先住民族の命が危険に晒されてしまう世界を想像してみましょう。私たちも他の地域の住民も、そんな世界は望んでいません。

2018年のマサチューセッツ工科大学の研究ではAIはいくつかのバイアス(偏見)があることがわかりました。つまりAIは全ての人を等しく認識するわけではないということです。白人男性に比べて黒人男性に対してより暴力的になるのです。対象が女性であれば、さらに状況は悪化し、最悪のケースは対象が黒人女性の場合です。

ラテンアメリカにはいくつもの民族やコミュニティ、人種、肌の色、アイデンティティ、慣行があります。同時にこれらの特徴、アイデンティティによって自身の権利が制限されることがあります。この地域の最貧層が女性や子供、先住民であることは偶然ではありません。そのような社会的弱者は権利をはく奪されるだけでなく、ただでさえ普段の暮らしもままならないのです。私たちのアイデンティティのせいで殺人兵器により命が危険に晒される世界を想像してみてください。私たちの世代も次の世代も、このような世界は望んでいません。

私たちはLAWSが私たちの地域にもたらす被害を回避するために行動を起こさなければなりません。豊な国々は自国が人命を失う危険が少ないからといって紛争をしたがるかもしれませんが、危険に晒すことになるかもしれないのです。

私たちは世界中の政府に対して国際人道法と人権に再度コミットし、2021年のCCWにおいて人間のコントロールの及ばない自律型殺傷兵器システムの開発、販売、使用を禁止する条約を合意することを求めます。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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