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完全自律型兵器のグローバルユース会議④「多くの若者はキラーロボットよりも他に切迫した問題がある」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からのガーナ、オーストラリアのユーススピーカーの声を紹介する。

ガーナ「危険の解決策は問題意識を広げていくこと」

ガーナのユーススピーカーとしてベラ・ヘイボル氏が参加した。

ホンジュラスが国連の核兵器禁止条約に批准した時、とても嬉しかったです。これでようやく核兵器の禁止が2021年1月に始まることになります。しかし喜びは長続きしませんでした。

暗闇に潜むもう1つの致命的な兵器、自律型殺傷兵器システム(キラーロボット)が軍事衝突の新たな時代を開いてしまうことが思いやられたからです。その中では人間のコントロールなしに兵器システムが対象を選択して攻撃できてしまいます。

ガーナは平和の国として広く知られています。ガーナが最初にCCW会議において2013年11月にキラーロボットに関する声明を出し、2015年4月にキラーロボット禁止を求めた最初の国の1つであることを知っても驚くことはありませんでした。

ガーナは「これらのシステムを開発している国は自分達が犠牲者になるのではなく他国が犠牲になると考えている」と述べ、「ただ自己完結に陥るのではなく、むしろ人類全体のために人間の尊厳を促進して守る必要がある」と提案しています。そして「歴史は今日の被害者が明日の加害者になりうることを示しています。特に技術の発展と普及がますます進んでいることを考慮に入れると、将来の泥沼化を避けるために、技術が完成する前に法律で禁止すべきである」と詳述しました。

ガーナは2018年4月に開催された国連の特定の条約に関する政府専門家会合の自律型殺傷兵器システムに関する会合において、LAWSをめぐる懸念に対処するための新しい国際条約または特定通常兵器禁止制限条約議定書を提案しました。

国際NGOである婦人国際平和自由連盟(WILPF)はSNSを通じてガーナでのキラーロボット禁止に関するキャンペーンを主導しています。彼女らはガーナが周辺地域において変革の波を起こすためにガーナ平和議会や他の利害関係者とのブリーフィングや会議を通じて議会を動かしています。WILFPは政府に対して国家行動計画を策定するための委員会の設置を求めていますが、いまだ実現していません。ガーナも加わっているLAWSに関するアフリカグループが結成されました。

私個人としてはSNSでキラーロボット禁止を訴えてきました。多くの若者がキラーロボットよりも経済、貧困、失業など他にも切迫した問題があると考えていることがわかりました。しかし私たちが今、キラーロボットの問題に取り組まなければ、ゆくゆくは気楽に仕事の面接を受けられるような平和さえも危険に晒されてしまいます。そのようなキラーロボットによる危険の解決策は問題意識を広げていくことです。今のうちにキラーロボットを禁止しておかないと、私たち自身が"戦争映画"のキャストになってしまうことを自覚しないといけません。

「オーストラリアでは自律性と防衛に関して多くの開発が行われています」

オーストラリアのユーススピーカーとしてジェニー・セイルス氏が参加した。

自律型殺傷兵器システムはご存知の通りAIを使った兵器です。したがって標的の選択や致死力のある攻撃の実行は全てAIのアルゴリズムによって行われます。新しい技術には大きな進歩と利益が伴います。しかしこれらの新鋭の現代技術は絶えず人の倫理、道徳、法的原則、世界の安全保障を脅かしてきました。

これらのロボットは国際人道法を補強する区別、比例、説明責任の基本原則を遵守することができないため国際人道法に対して、これまでにない課題を提起します。オーストラリア政府は残念ながら自律型兵器の禁止を支持するには「時期尚早」だというスタンスをとっています。つまりオーストラリア軍は将来的に自律型殺傷兵器を開発する可能性があるということです。

オーストラリアはキラーロボットに倫理を埋め込む研究プロジェクトに900万ドルの資金を提供しました。これは技術的に不可能であることから非常に物議を醸しました。このような研究に問題があることは言うまでもありません。

またオーストラリア政府は「Trusted Autonomous Systems」と呼ばれる国防共同研究センターを支援しています。大学などの研究機関と国防省が連携しています。このようにオーストラリアでは自律性と防衛に関して多くの開発が行われていることがわかります。

そのため何が受け入れられるか、何が法的・道徳的なラインを越えるかを区別するために強い姿勢を持つことがより重要になってきます。私個人としてはキラーロボットを禁止することは世界的な安全保障上の危機を防ぐためだけでなく、国家による市民の抑圧を予防するためにも不可欠だと考えています。これらの機械システムを作ることは説明責任と道徳の境界線を曖昧にします。

生命に関する意思決定プロセスを機械に委ねれば国家による市民の抑圧が可能になり、機械のミスやハッキングのリスクを高める可能性があるため心配しています。私たちはこれらの兵器システムの開発を防ぐ政策や規制が整えられることを期待しています。

変化を起こすために学生や市民社会が政府に圧力をかけることは正しい方向への一歩です。これらの行動が最終的に自律型殺傷兵器の先制禁止につながることを願っています。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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