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完全自律型兵器のグローバルユース会議⑦「キラーロボットは人類にとって前例のない脅威です」

佐藤仁学術研究員・著述家
(写真:ロイター/アフロ)

2020年12月12日に完全自律型兵器に関するグローバルユース会議がオンラインで開催されていた。国際学生会議と国際NGO連合体の「キラーロボット反対キャンペーン」が主催し、20カ国以上からの若者が参加して、完全自律型兵器に関する自国の立場、禁止を支持する理由について訴えていた。AI(人工知能)技術が発展し、人間の判断を介さないで標的を攻撃する「キラーロボット」と称される自律型殺傷兵器(Lethal Autonomous Weapons Systems:LAWS)は、人間の判断を介さないで標的を殺傷することが非倫理的であるという理由から国際NGOや世界30か国の政府が反対している。

今回は、完全自律型兵器に関するグローバルユース会議の中からのニュージーランド、パキスタンのユーススピーカーの声を紹介する。

「ニュージーランドが主導的な役割を果たしてこなかったことに落胆しています」

ニュージーランドのユーススピーカーとしてカタリン・ウールリッチ氏が参加した。

自律型兵器システムの技術開発のスピードは政府や国のリーダーの行動力を凌駕しています。大きな懸念を抱いています。キラーロボットは人類にとって前例のない脅威です。もし私たちがすぐに行動を起こさなければ、武力行使における人間の関与という深刻なリスクに晒されているのです。これは人間の尊厳と責任を揺るがす道徳的、倫理的問題、そしてオペレーション、規制上の問題へと繋がります。

ニュージーランド政府は自律型兵器がもたらす脅威を認めているものの、この分野における新たな人道法を求める上で、ニュージーランドが主導的な役割を果たしてこなかったことに私たちは落胆しています。

これは2008年のクラスター弾に関する条約や2017年の核兵器禁止条約など他の人道的軍縮条約の交渉でニュージーランドが積極的に関与してきたことを考えると、よりいっそう残念なことです。

ニュージーランドは2014年以来、完全自律型兵器に関する全てのCCW会議に出席していますが、新たな国際法を提唱する国々の擁護には至っていません。2019年4月には軍縮・軍備管理担当大臣が自律型兵器については「国際法がすでに制限を設けている」としニュージーランドは既存の法律を適用して、「自律型兵器を常に人間が制御(コントロール)できるようにする」ことに焦点をあてると述べています。

キラーロボットの開発・配備を阻止するためにはジュネーブ条約36条(第一追加議定書)を活用していくことです。しかし私たちが望む結果のためには不十分であると言わざるを得ないでしょう。私たちはニュージーランド政府に対して自律型兵器の使用を禁止することで、武力行使における人間の関与を保持するための新しい条約の交渉を支持し、喫緊の課題としてキラーロボットを禁止する国内法を整備することを求めます。

「パキスタンは世界各国の中で初めて完全自律型兵器の禁止を求めました」

パキスタンのユーススピーカーとしてキラーロボットにも反対している持続可能な平和と開発機構(SPADO)のボランティアをしているヒバ・カーン氏が参加した。

2013年5月にパキスタンは世界各国の中で初めて完全自律型兵器の禁止を求めました。それからも国際的なキラーロボット禁止条約の制定を繰り返し求めて来ました。またパキスタンはこれらの兵器が国際人道法や人権法に違反するだけでなく、世界をより容易に戦争へ向かわせることになるとの懸念を表明してきました。

パキスタンは2014年から2019年まで自律型殺傷兵器システムに関するCCW締約国会議の全てに参加しています。パキスタン代表のテミナ・ジジャンジュア大使は2016年12月に開催されたCCW第5回再検討会議の議長を務め、各国をLAWSに関する政府専門家会合の設置へと導きました。

パキスタンにおけるキラーロボット反対のキャンペーンは完全自律型兵器を禁止する法的拘束力のある条約を求める若者、政府、市民社会を巻き込んで拡大しています。自律型兵器の開発が国際社会の安定を根本的に脅かします。キラーロボットの開発は直ちに中断する必要があります。

南アジアは世界の中でも人口が多く貧しい地域の一つです。限られた資源とエネルギーは地域の貧困を減らし安定を促進するために使われています。そのため自律型兵器の分野で新たな軍拡競争をする資源的余裕はありません。AIのような技術は致命的な武器に用いるのではなく、人類のために倫理的に使用されるべきであると信じています。

パキスタンがキラーロボットの禁止に向けて地域をリードし続けることを求めていきます。また他の南アジア地域の国々が完全自律型兵器の開発・生産・使用を禁止する法的拘束力のある条約の締結を支持することを願っています。自律型兵器システムは違法で非倫理的で非人道的でアカウンタビリティを欠き、国際的な平和と安全保障を危険に晒すものです。

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学術研究員・著述家

グローバルガバナンスにおけるデジタルやメディアの果たす役割に関して研究。科学技術の発展とメディアの多様化によって世界は大きく進化してきました。それらが国際秩序をどう変化させたのか、また人間の行動と文化現象はどのように変容してきたのかを解明していきたいです。国際政治学(科学技術と戦争/平和・国家と人間の安全保障)歴史情報学(ホロコーストの記憶と表象のデジタル化)。修士(国際政治学)修士(社会デザイン学)。近著「情報通信アウトルック:ICTの浸透が変える未来」(NTT出版・共著)「情報通信アウトルック:ビッグデータが社会を変える」(同)「徹底研究!GAFA」(洋泉社・共著)など多数。

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