世界2位発進の実写版「幽☆遊☆白書」が予感させる、日本のコンテンツが世界で迎える黄金時代
「週刊少年ジャンプ」の人気マンガでもあり、フジテレビで放映された人気アニメでもある「幽☆遊☆白書」をNetflixが実写化した実写版「幽☆遊☆白書」が、初登場で世界2位という見事なロケットスタートを切り、世界中で注目されています。
「幽☆遊☆白書」が「週刊少年ジャンプ」で連載されていたのも、テレビアニメで放映されていたのも1990年代前半のことですから、話題のピークは25年以上前の作品です。
若い世代の方には、「幽☆遊☆白書」の作者である冨樫義博さんが「HUNTER×HUNTER」の作者でもあると言った方が、伝わる人は多いかもしれません。
実際に、Netflixが「幽☆遊☆白書」の実写化を発表した際には、なぜ「HUNTER×HUNTER」ではなく「幽☆遊☆白書」の実写化を選択したのかという疑問の声も少なくなかったようです。
世界2位スタートで20カ国で1位に
しかし、作品が12月14日に公開されると、そうした懸念を吹き飛ばすかのように、Netflixの85カ国の国別ランキングでトップ10入り。
日本はもちろん、タイやフィリピンなど11カ国で1位となり、世界のランキングでも2位スタートとなったのです。
さらに公開2日後にはその勢いは更に加速、世界92カ国でトップ10入りし、20カ国で1位となっています。
日本では過去のアニメの実写化の失敗のトラウマも影響し、出演者のキャストが公開されたタイミングで一部のファンからは不安の声も出ていたようですが、世界中の視聴者が実写版「幽☆遊☆白書」の素晴らしいアクションとストーリーに夢中になっているようです。
この快挙は、単純に「幽☆遊☆白書」の成功というだけでなく、間違いなくこれからの日本のコンテンツの世界展開に勢いを与えることになるはず。
その背景とポイントをご紹介しましょう。
着実にNetflixの中で存在感を増す日本コンテンツ
Netflixによる日本のマンガの実写化と言えば、今年公開されて話題となった実写版「ONE PIECE」が記憶に新しい方も多いと思います。
参考:大絶賛の世界1位スタート。実写版「ワンピース」が日本のマンガの世界への扉を開く。
実写版「ONE PIECE」は公開直後に世界1位となっていますから、記録としては実写版「幽☆遊☆白書」よりも実写版「ONE PIECE」の方が上ということにはなります。
ただ、今回の実写版「幽☆遊☆白書」の記録が凄いのは、実写版「ONE PIECE」はキャストや制作がハリウッド中心だったのに対して、キャストも制作も日本人が中心である点です。
日本制作のNetflixでのヒットコンテンツと言えば「今際の国のアリス」のシーズン2が、昨年世界3位になったことが話題になりましたが、今回はその記録を塗り替えたことになります。
参考:世界3位の快挙を成し遂げた「今際の国のアリス」に学ぶ、日本の映像コンテンツの底力
実は、「幽☆遊☆白書」も「今際の国のアリス」も、エグゼクティブ・プロデューサーにNetflixの坂本和隆さん、プロデューサーに森井輝さん、そして制作に株式会社ROBOTと同じメンバーが並んでいるのもポイントです。
現時点での日本におけるマンガ実写化の最強チームと言えるかもしれません。
ある意味、もはや日本のマンガ発の実写コンテンツがNetflix経由で世界でみられるという現象は、視聴者にとっては普通になりつつあるわけです。
アメリカでは公開前から話題に
特に、今回の「幽☆遊☆白書」が非常に印象的なのは、Netflixの加入者が最も多いアメリカにおいても公開直後のランキングで2位に入った点でしょう。
これにはおそらく、Netflixの影響も含めて、ここ数年、日本のマンガやアニメコンテンツがアメリカで普通にみられるようになってきていることが大きく影響しています。
特に印象的なのは、アメリカにおける実写版「幽☆遊☆白書」公開の事前の盛り上がりです。
Googleトレンドで日米の「幽☆遊☆白書」に関する検索数の推移を見ると下記のようになります。
先ず日本のグラフがこちらです。
1年前に実写版「幽☆遊☆白書」のキャストが公開されたタイミングに大きなスパイクがある以外にも、舞台版「幽☆遊☆白書」の公開時期などにスパイクがあることが分かります。
一方で米国のグラフがこちらです。
今回の作品公開で検索数が増加しているのはもちろん、1年前の実写版「幽☆遊☆白書」のキャストが公開されたタイミングで、日本同様に検索数がスパイクしていることが分かります。
こうしたスパイクは、当然「幽☆遊☆白書」の知名度が低い国では起こっていません。
アメリカでもアニメやマンガを通じて「幽☆遊☆白書」のファンが増えていたからこそ、実写版のキャストが発表されたタイミングで、検索数が増えていると考えられるわけです。
日本の映画がアメリカで次々に大ヒットに
実は、アメリカで日本の映像コンテンツが人気になるという現象は、もはや珍しい現象ではなくなりつつあります。
なにしろ現在米国で公開中の「ゴジラ ー1.0」は、全米累計興収で邦画実写作品歴代1位の記録を34年ぶりに更新することに成功しています。
参考:ゴジラ、子猫抜く 「ゴジラ-1.0」が全米累計興収で邦画実写作品歴代1位に、34年ぶりに記録更新
「ゴジラ ー1.0」の制作に、「幽☆遊☆白書」と同じ株式会社ROBOTの名前が並んでいるのも興味深い点と言えるでしょう。
さらに、日本では事前情報を一切公開しなかったことで話題になった映画「君たちはどう生きるか」も、今月全米で公開され週末興収ランキングで1位を獲得。
ジブリ作品初の快挙を成し遂げているのです。
参考:「君たちはどう生きるか」が全米の週末興収ランキングで1位を獲得!
こうした成功には、それぞれの映画の完成度が高いことが影響していることはまちがいありませんが、明らかにアメリカにおける日本の映像コンテンツの扱いが変わりつつあるシンボルとも言えます。
日本の映像コンテンツはアメリカでヒットしない?
日本の映像コンテンツは、なかなかアメリカでそのままヒットさせるのは難しいというのが、これまでの「常識」でした。
特に実写コンテンツについては、キャストが日本人ばかりになってしまうことが多い関係で、アメリカのような欧米人中心の国においては受けないというのが、映像業界の「常識」で、だからこそ過去の日本の映像作品は、ハリウッドによって再度ゼロから制作されて世界展開することが多かったわけです。
しかし、今やその常識は明らかに変わろうとしています。
その背景には、アメリカの人々がNetflixのような動画配信サービスを通じて、字幕のコンテンツを視聴するのに慣れたことや、「パラサイト 半地下の家族」や「イカゲーム」などの韓国の実写コンテンツのヒットや、BTSなどのK−POPのヒットで、アジア人のコンテンツに見慣れたこと。
さらには、日本のアニメやマンガの人気がアメリカで高まっていることなど様々な環境の変化があげられます。
ただもう一方で、日本の映像制作関係者が、本気で世界市場を意識するようになったことも、成功の大きな要因として存在しているのは間違いありません。
特にNetflixはグローバルワンチームで制作を行うため、実写版「ONE PIECE」に日本のチームが関わったのと同様に、今回の実写版「幽☆遊☆白書」においても、VFXなどはハリウッドのチームが関わっており、出演者も大きな影響を受けたそうです。
筆者は、Netflixの坂本さんにお話をお聞きしたことがありますが、その際に「今際の国のアリス」や「幽☆遊☆白書」のような大きな作品を手掛けるために、少しずつ日本の実写ドラマの成功を積み上げてきたという話をされていたのが非常に印象的でした。
参考:Netflix日本コンテンツ、世界席巻へ周到な仕掛け 日本トップの坂本和隆氏が語る参入からの8年
この8年間を通じてのNetflixの日本発の実写ドラマの成功は、間違いなく一つの大きな要素として、良い影響を日本の映像業界に与えていると言えるでしょう。
Netflixは本当の意味で日本の映像業界の「黒船」だった
Netflixが初めて日本に上陸した2015年には、Netflixを「黒船」と呼び、日本のテレビや映像業界がNetflixによって破壊されてしまうことを懸念する声が多く聞かれました。
あれから8年、実はNetflixで制作されたドラマや映画だけでなく、Netflixで世界に配信されたアニメや日本の実写コンテンツが、様々な形で世界でヒットするようになっています。
これには、Netflixの日本上陸によって目覚めた映像業界の革命者が、日本の映像業界を良い意味で改革し、世界に向けて本気で挑戦しはじめたことが大きく影響していると言えるはずです。
Netflixと一緒に世界に挑戦して、手応えを感じたキャストや制作会社が、さらに世界に本気で挑戦を重ねることで、これからより一層、日本のコンテンツが世界で視聴されるようになる可能性は高いと感じます。
そう考えると、Netflixは、日本の映像業界を目覚めさせたという意味で、本当の意味での「黒船」だったと言えるのかもしれません。
もはや日本の映像コンテンツだから海外での成功は難しい、という時代ではありません。
世界に例を見ないユニークな日本の映像コンテンツだからこそ海外で成功すると言えるような、日本のコンテンツにとっての黄金時代が目の前に来ています。
今回の実写版「幽☆遊☆白書」の成功に刺激されて、新たな日本のアニメやマンガの実写化のプロジェクトが更に増えることを期待したいと思います。