タイミーの「仕込み」騒動で改めて考えるべき、炎上時の初動対応の重要性
タイミーによる「闇バイト対策へのお知らせ」という公式SNSへの投稿と、それを引用した形でのタイミーの小川代表による謝罪投稿が大きな話題になっていますが、並行してもう一つSNS上で小川代表による謝罪投稿が大きな注目を集めていたのをご存じでしょうか。
それはこちらの「ガイアの夜明け」の放送についての謝罪投稿です。
これは、投稿で説明されているように、タイミーの社員によるSNS投稿に不適切な表現があったことへの謝罪です。
参考:スキマバイトサービス「タイミー」代表取締役謝罪 「ガイアの夜明け」放送前、タイミー広報部長投稿物議
メディアや広告業界以外の方には、なぜこの投稿が代表取締役が謝罪するほどの問題になってしまうのか不思議に思われる方も少なくないのではないでしょうか。
ただ、この謝罪投稿は、現時点で200万インプレッションを超えており、社会的にははるかに関心が大きいはずの闇バイト対策を引用した謝罪投稿の140万インプレッションよりも大きな注目を集めています。
なぜ、この「ガイアの夜明け」への謝罪投稿がここまで注目されているのか、現在のSNS環境の縮図とも言うべきポイントがあります。
放送を紹介する投稿が批判の対象に
この騒動のきっかけは、記事にあるようにタイミーのブランディングやPRなどを統括しているブランドエクスペリエンス部の部長である木村氏が、Xに下記の投稿を行ったことがきっかけとなっています。
ここでポイントとなるのが「仕込んできました」という表現です。
今回の小川代表の謝罪投稿でガイアの夜明けの取材に対して「半年以上ご一緒させていただきました」と説明されているように、おそらく木村氏としては「仕込む」という言葉を長い期間準備してきたという趣旨で選択してしまったのだと思います。
しかし、この「仕込む」という言葉は、広告業界でお金を払って取り上げてもらういわゆるステマ的な行為を示すこともあり、タイミー側が番組をコントロールしていたように見えるという点で、多数の批判的な指摘が入ることになってしまったわけです。
ただ、小川代表の投稿にあるようにテレビ東京側からのオファーであり、言葉の選択を間違えただけなのであれば、ここまで闇バイトと並んで注目されるほどの騒動にはならなかったはずです。
しかし、この投稿は主にメディアや広報業界を中心に大勢の人の目に触れるほど3連休の間に話題になってしまいました。
ポイントと考えられるのは下記の3点です。
■謝罪をせずに投稿を削除
■批判者と擁護者の論争に展開
■論争がさらなる炎上の野次馬を増やす
1つずつポイントをご説明します。
■謝罪をせずに投稿を削除
まず最も大きな分岐点になってしまったのが、木村氏が翌日になり批判のあった投稿を削除してしまったことです。
実は木村氏も最初の投稿の表現が不適切だったことは認識されたようで、批判をされていた方の投稿の一部に指摘に対しての感謝の投稿もされているのが確認できます。
ただ明確に悪手となったのが「誤って削除してしまいました」として、最初の投稿を削除して再投稿した点です。
ひょっとしたら批判の多さに慌てて操作を誤って削除してしまったのかもしれませんが、「謝罪をせずに投稿を消す」という行為は批判者には格好の燃料投下となってしまいます。
ネット上では「ストライサンド効果」や「消すと増える法則」と呼ばれている現象があり、何かを隠そうと消すと逆に拡散する結果をもたらします。
実際に木村氏のこの「謝罪せずに投稿を消す」姿勢を見て、最初の投稿を批判していた人達が、さらにボルテージを上げて批判する結果になってしまったようです。
その結果、初期の批判投稿よりも、木村氏の再投稿後の批判投稿の方が明らかに閲覧数が増える結果となり、騒動が広がってしまうのです。
■批判者と擁護者の論争に展開
木村氏にとってさらに残念な流れとなったのは、批判側のボルテージが上がったことにより、批判者に対して反論する擁護者が出てきたことです。
一見、批判に対して反論してくれる人が出てくることは炎上時に救いとなるように思われますが、当事者ではない人の反論や擁護というのは、大抵の場合炎上を大きくする結果になります。
特にX上ではアルゴリズム上、賛否が分かれて議論が盛り上がる投稿の方が話題が継続する構造になっています。
その結果、批判者と擁護者の議論が続けば続くほど、火の手が拡大する結果になってしまうのです。
特にタイミーは今年の7月に時価総額1000億円超えでのIPOを果たし、今月には中居正広さんのテレビCMを開始したばかりで、短期間で成功した企業として注目度も高く、嫉妬も含めて叩かれやすい構造にあったことも悪い方向に影響したと考えられます。
実際に議論の投稿をさかのぼると、当初の「仕込んできた」発言をきっかけに、テレビ業界のステマ疑惑や、「キラキラ広報」と呼ばれるスタートアップ界隈の広報文化、タイミーの企業としての姿勢やスポットワークの問題点など、批判者と擁護者同士の間で議論が文字通りカオスに広がっていることが分かります。
そもそもの問題の大きさよりも、炎上規模が大きくなってしまうという現象は、政治やジェンダー問題、テレビの業界問題など、もともと議論が分かれるテーマにおいて、発生しがちです。
最近ではスープストックトーキョーが離乳食無料提供を実施した際に、離乳食無料提供を批判する層への批判がネタ化して大きな騒動になったケースが象徴と言えます。
参考:スープストックの離乳食騒動に学ぶ、巻き込み炎上時代にバズるリスク
特にXのようなSNSにおいては、フェミニストとアンチフェミニストのようにもともと対立が存在するところの議論のネタになってしまうと、根本的な問題の規模よりも大きな炎上騒動になってしまう構造問題が存在するわけです。
■論争がさらなる炎上の野次馬を増やす
こうやって議論が炎上状態になってしまうと、そこにさらなる炎上の野次馬が増えるという最悪のサイクルがはじまってしまいます。
特にXにおいては、炎上系インフルエンサーと呼ばれるようなアカウントが多数存在しており、彼らが参加してくると、騒動が更に多くの人に広がってしまうことになります。
今回のタイミーの騒動においても、最近アクティビストとしてメルカリなどに激しく噛みついている田端信太郎氏が参戦してしまい、騒動が更に拡大する結果となっています。
田端氏は、過去に自身が運営していた私塾である「田端大学」のメンバーが炎上した際にも「炎上できることは才能なんだ」とさらなる燃料投下をしたことで有名です。
参考:廃棄前提おじさん騒動で考える、巻き込み炎上の唯一の対処法
こうした炎上系インフルエンサーや、インプレゾンビと呼ばれるようなアカウントにとっては、炎上騒動は格好の舞台であり、フォロワーや広告収益を得るための狩り場となってしまうわけです。
実際に、今回の小川代表の謝罪投稿に、田端氏が誹謗中傷の訴訟対象になりかねないようなネタコメントを投稿しているのが象徴的と言えるでしょう。
普通の企業の社員であれば、こうした投稿は逆に自分が炎上する可能性があるので当然避けるわけですが、田端氏のような個人で活動するインフルエンサーは敵を作っても敵の敵を味方にできるメリットの方が大きいため、こうしたリスクを平然と取れる構造にあります。
企業としては、こうした炎上上等の野次馬が集まってくる前に、いかにボヤの段階で炎上を鎮火するかが今まで以上に重要な時代になっていると言えます。
企業が心がけなければいけないこと
最終的に小川代表が自身のアカウントできちんと謝罪をされたことは良かったと思いますし、ここまで騒動が大きくなった以上、必要な対応だったと言えるでしょう。
ただ、騒動のきっかけとなった投稿から、小川代表の謝罪投稿まで1週間ちかくかかってしまい、その間に炎上が広がってしまったことはもったいない結果と言えます。
特にタイミー以上に被害者となったのは、「ガイアの夜明け」の関係者でしょう。
「ガイアの夜明け」を放送するテレビ東京は、日経新聞グループでもあるため、株価に影響するような報道に非常に敏感であることで知られており、テレビ業界関係者に話を聞く限り「ステマ疑惑」になるような行為に対しては最も厳しい姿勢を取っている番組の一つです。
しかし、SNS上では伝聞で今回の騒動を聞いた人達の中に、今回の「ガイアの夜明け」の放送が、タイミーが支払った制作費や広告出稿とのバーターだったのではないかという疑惑を信じている人が複数発生してしまっているようです。
また、結果的に小川代表が、仕込み騒動と闇バイト問題と立て続けに謝罪投稿をする結果になったことで、世の中のタイミーへの批判が大きくなりやすい構造になってしまいました。
企業が覚悟しなければいけないのは、現在はXのような炎上の拡散を加速するSNSが普及しているため、疑惑や誤解を招くような状態が発生したら、できるだけ早くその状態を取り除くための対応をしなければいけない時代になっているということです。
「炎上対応は初動が全て」を実践するために
「炎上対応は初動が全て」というのは良く言われる話ですが、この言葉を実践するのが難しいのは、今回の木村氏の投稿のように、言葉の選択を間違えたという行為単体で、ここまでの騒動になるとはその段階で想像がしにくい点です。
ただ、問題が小さいと誤解して、問題の投稿を謝罪もせずに削除すると、その姿勢が今回のように批判者の「怒り」のエネルギーを加速する結果を生んでしまいます。
残念ながら現在のSNSでは、「怒り」のエネルギーが拡散の源泉になりやすい構造にあり、普通に見れば多くの人がスルーするような投稿でも、問題点を感じた批判者の指摘の仕方次第で「怒り」の同調が起きやすい時代なのです。
象徴的な現象としては、6月に公開された際には何の問題も起きなかった牛乳石鹸の動画が、2ヶ月後にあるSNSユーザーの批判をきっかけに突如炎上した事例があげられます。
また、最近の傾向として顕著なのが、著名人や企業だけでなく、一般人の投稿を起点とした炎上も増えてきている傾向がある点です。
「デジタル・クライシス白書2024」によると、2022年から2023年にかけて炎上の総件数はほぼ横ばいであるのに対し、一般人起点の炎上は462件から527件と増加傾向にあります。
こうした状況には、炎上系インフルエンサーの影響力が増したことにより、一般人の投稿が、世の中に大きく晒されやすくなった背景が影響している可能性があるのです。
個人の投稿だからと、問題を軽く考えず、小さなボヤでも初動の段階で冷静に対応する必要がある時代と言えます。
「失敗」を組織でカバーする体制を
一方で、人間であれば「失敗」をすることは必ずあります。
これからの組織に問われてくるのは、一人の社員が「失敗」をしたときに、どのようにそれを組織としてカバーするかという点でしょう。
特に、SNS上での炎上騒動がおきると、一人の個人に批判や誹謗中傷投稿が殺到し、個人としては冷静な判断が難しくなるのが普通です。
また、現在は残念ながらSNSとメディアによる炎上のネガティブスパイラルが激しくなっており、炎上によって誹謗中傷が大量に発生したことで、炎上した人が精神を病んでしまったり、最悪の選択をしてしまうことが起きてしまう時代でもあります。
だからと言って社員全員のSNS利用を禁止してしまうと、今度は逆にSNSのメリットも活用できなくなってしまいますし、SNS上で誤解が広がった際に否定する選択肢も減ってしまうことになります。
タイミーのような上場企業においては、今後は社員の「失敗」が起きたときに個人の責任にするのではなく、経営者を中心に組織で迅速に「失敗」に向き合って対応する仕組みが必須になっていると感じます。