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日本の「お笑い番組」も世界を目指すか。「THEゴールデンコンビ」がもたらす衝撃。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Amazonプライム・ビデオ)

10月31日に公開された「最強新コンビ決定戦 THEゴールデンコンビ」が大きな話題になっています。

これは、Amazonプライム・ビデオのみで視聴可能なネット配信番組ですが、MCを務めている千鳥を筆頭に、日本を代表するお笑い芸人が登場し、いわゆる地上波のお笑いバトル番組のような番組なのです。

この「THEゴールデンコンビ」が公開されると、早速初日からSNSで話題となり、日本のAmazonプライム・ビデオで1位を獲得。
翌日も「ダンダダン」に続く2位に入るなど、大きな注目を集めています。

今回の「THEゴールデンコンビ」の登場は、日本の「お笑い番組」の位置づけを大きく変える必要がありますので、そのポイントをご紹介したいと思います。

世界に見つかりはじめた日本のお笑い

従来、日本のお笑いは世界では通用しないと言われてきましたが、それは日本人の思い込みであったことが徐々に証明されつつあります。

最も象徴的だったのは昨年4月に、とにかく明るい安村さんがイギリスのオーディション番組である「ブリテンズ・ゴット・タレント」において大爆笑をかっさらい、決勝進出まで果たしたことでしょう。

参考:とにかく明るい安村、英国で大爆笑に学ぶ、日本の「お笑い」海外進出の可能性

その後も安村さんの成功の後を追うように、チョコレートプラネットがTT兄弟や、ノボせもんなべさんなど、複数の日本のお笑い芸人もアメリカやイギリスの「ゴット・タレント」に挑戦し、大きな反響を受けるようになっているのです。

参考:今度はチョコプラの「TT兄弟」がアメリカで大爆笑。世界にひろがる日本の「お笑い」

もちろん、現在のところ反響が大きいのは、ビジュアルで見て分かりやすいお笑いというポイントはありますが、日本のお笑いが世界で通用しないというのは誤解であったことは明確です。

世界から注目される日本の「お笑い番組」

また、日本の「お笑い番組」の可能性も、実は既に世界から注目されています。

そもそも1980年代に放映されていた「風雲!たけし城」は海外でも人気が高く、それがAmazonで昨年リメイクされる背景にあったことは有名です。

また、松本人志さんの企画としてAmazonプライム・ビデオで長年人気を博してきた「ドキュメンタル」は、「Last One Laughing」という海外版として、メキシコやオーストラリアなど複数の番組が作成され成功しています。

また、配信サービスとしてはAmazonプライム・ビデオのライバルであるNetflixも、千鳥MCで佐久間宣行さんがプロデューサーを務めるトークサバイバル番組「トークサバイバー!」を制作し、シリーズ化されるほどのヒットをしているのです。

ただ、こうした動画配信サービス上の「お笑い番組」は、「ドキュメンタル」のように今の地上波では絶対に放送できないであろうラインに踏み込んでいるものや、「トークサバイバー!」のドラマとお笑いの組み合わせというNetflixの予算規模だからこそ実現できる特殊なものという印象を持っている方は少なくなかったと思います。

民放の総力を結集した「THEゴールデンコンビ」

一方、今回の「THEゴールデンコンビ」の成功は、従来の日本の地上波における「お笑い番組」の系譜にある番組というのが大きなポイントです。

「THEゴールデンコンビ」は、令和ロマンのくるまさんがマヂカルラブリーの野田クリスタルさん、霜降り明星のせいやさんがハナコの秋山さんという具合に、8名のお笑い芸人が最強と思う相方を選び、8組のコンビが賞金1000万円を懸けた即興コントバトルに挑む内容になっています。

つまり、実際に展開されるお笑い自体は即興のコントであり、日本の地上波で放送されているコントの延長にあるとも言えるわけです。

実はこの番組は、元テレビ朝日の芦田太郎さんと、元日本テレビの橋本和明さんの「ダブル企画・演出」で作り上げてきた「民放の総力を結集した」番組であることが、芦田太郎さんのnoteで詳細に綴られています。

参考:民放の総力を結集した『THEゴールデンコンビ』

このnoteでも「元ネタはイロモネア+ウィーケストリンク」と、地上波のテレビ番組の延長線上にあることが明記されていますし、さらに象徴的なのが橋本さんが日本テレビで「有吉の壁」、芦田さんはテレビ朝日で「あいつ今何してる?」という水曜夜7時というゴールデンど真ん中の時間帯を背負うライバルでもあったという逸話でしょう。

例えば、橋本さんの「有吉の壁」での人脈が、番組の肝である「即興コント」に必要な小道具や衣装の準備や、リスクマネジメントを行うチームにつながっており。
例えば、芦田さんの「あいつ今何してる?」での人脈が、豪華な出演陣への交渉を含め、番組でも異彩をはなっていたベテランのホリケンさんの出演につながっているそうです。

しかも、今回の「THEゴールデンコンビ」のセットは、「IPPONグランプリ」や「FNS歌謡祭」などフジテレビを代表する番組のスタジオセットをデザインしたフジアールの鈴木賢太さんがかかわっており、ある意味、テレビ朝日、日本テレビ、フジテレビという地上波三局のノウハウの集合体になっているんだとか。

テレビ局でバラエティ番組を作り続けてきた二人だからこそ作りあげることができたテレビ業界のオールスターによる「お笑い番組」と言えますし、関係者の「世界に日本のバラエティ力を見せつけよう」という思いが詰まった作品と言えると思います。

Amazonならではの豪華な出演陣やセット

さらに今回の「THEゴールデンコンビ」は、そのテレビ業界のオールスターのノウハウや人脈の上に、Amazonプライム・ビデオならではの舞台が提供され、唯一無二の番組となっています。

わかりやすい面では1億円が投じられたとされる豪華なセットも象徴的ですし、企画から実現まで2年かけているという映画のような制作準備期間も、グローバルな配信プラットフォームの番組ならではでしょう。

また、「THEゴールデンコンビ」では、なにわ男子の道枝駿佑さんや吉岡里帆さんのような豪華なゲストが、コントの小道具代わりに次々と登場するのも印象的です。

千鳥の大悟さんは配信記念イベントで「思った以上にギャラが高かった」と明言されていますが、地上波と配信番組でのこうした制作環境の違いが、「THEゴールデンコンビ」の豪華な番組の立て付けに貢献していることがうかがえます。

参考:千鳥・大悟 Amazon「THEゴールデンコンビ」は「思った以上にギャラが高かった!」

Amazonによる「お笑い番組」といえば「ドキュメンタル」のような、ハードコアなものというイメージを大きく変える、Amazonによる「王道のお笑い番組」が誕生したと言えるわけです。

「お笑い番組」の重心も地上波から配信にシフトするのか

こうなってくると注目されるのは、はたして今後「お笑い番組」の重心が、地上波のテレビから、AmazonやNetflixのような配信サービスにシフトすることがあるのかという点です。

アニメやテレビドラマにおいては、すでに配信サービスが大きな存在感を示しており、重心のシフトが始まっています。

一方、これまで「お笑い番組」や「バラエティ番組」は地上波テレビの独壇場と思われていましたが、必ずしもそうではないことを「THEゴールデンコンビ」が証明してしまったわけです。


実は、今回の「THEゴールデンコンビ」では、ファミリーマートが早速コラボを実施しており、広告主もこうしたお笑い番組の配信シフトの可能性に注目していることが分かります。

(出典:ファミリーマート公式サイト)
(出典:ファミリーマート公式サイト)

現在のところはまだ「THEゴールデンコンビ」はAmazonプライム・ビデオの海外のランキングに入ってはいませんが、海外からの反響次第ではこうした王道の「お笑い番組」の配信サービスへのシフトが加速する可能性は高いと考えられます。

現時点ではまだ日本の「お笑い番組」が海外でヒットする可能性を信じている人は少ないかもしれませんが、実は日本の映画も実写ドラマも音楽も、現在のような規模で海外でヒットすると予想していた人は5年前にはほとんどいませんでした。

今回の「THEゴールデンドラマ」がきっかけとなり、日本のお笑い芸人やお笑い番組関係者の方々が本気で世界を目指せば、5年後には全く違う未来を見ることができる可能性は高いように思います。

まだご覧になっていない方は、是非そんな可能性を感じながら「THEゴールデンコンビ」での芸人の方々の素晴らしい芸を楽しんで頂ければ幸いです。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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