Yahoo!ニュース

世界3位の快挙を成し遂げた「今際の国のアリス」に学ぶ、日本の映像コンテンツの底力

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:Netflixシリーズ『今際の国のアリス』12月22日より独占配信中)

Netflixで日本発のドラマシリーズとして海外からも注目される「今際の国のアリス」のシーズン2が12月22日に公開され、見事なスタートダッシュを決めています。

「今際の国のアリス」はシーズン1が2020年12月にNetflixで公開され、世界約40カ国でTOP10入りしたことが話題になりました。

今回のシーズン2では、調査会社のFlixpatrolのデータにおいて、公開初日から87カ国でTOP10入りし、世界全体でもTV番組部門の3位に入る快挙を成し遂げています。

(出典:Filxpatrol)
(出典:Filxpatrol)

しかもNetflixでも非常に人気が高いシリーズの1つである「エミリー、パリへ行く」と、Netflixで最も視聴されたドラマシリーズ歴代第2位になった「ウェンズデー」に次ぐ3位ですから、素晴らしい記録と言えるでしょう。

もともと「今際の国のアリス」のシーズン1が、Netflixにおける日本の実写オリジナルシリーズで最も世界に見られた作品でしたが、今回はその記録を大幅に塗り替えることになりそうです。

アメリカでも4位にランクイン

もちろん、Netflixにおいて日本の番組が海外のランキングでトップ10入りすること自体はもはや珍しいことではありません。

直近では宇多田ヒカルさんが全面協力して話題になった「First Love 初恋」が世界トップ10入りしたことも話題になりました。

参考:Netflix世界トップ10入り「宇多田ヒカル効果」か

ただ、「First Love 初恋」がトップ10入りした国は台湾、香港、インドネシア、フィリピンなど、アジア圏の国が中心で11カ国程度だったのに対し、「今際の国のアリス」は87カ国と文字通り世界中でランク入りしているのがポイントです。

しかも公開2日目には日本だけでなく、フランスなど12カ国で1位にランクインし、Netflixで7300万人という最大の加入者がいる北米地域のアメリカとカナダで4位に入っているのです。

データを見る限り、今回の「今際の国のアリス」シーズン2は、シーズン1はもちろん、過去の他の日本のドラマシリーズではなし得なかったレベルで、スタートダッシュを切ることに成功したと言えるでしょう。

イカゲームのヒットが布石に

実は、今回の「今際の国のアリス」シーズン2の世界的ヒットには、布石があります。

非常にわかりやすいデータと言えるのが、Googleトレンドにおける「今際の国のアリス」の検索数推移です。

日本における「今際の国のアリス」の検索数のグラフを見ると、Netflixでドラマシリーズが放送開始された2020年12月に大きなピークをつけているのが分かります。

(出典:Googleトレンド 「今際の国のアリス」の日本の検索数推移)
(出典:Googleトレンド 「今際の国のアリス」の日本の検索数推移)

それが全世界における「今際の国のアリス」の検索数推移のグラフになると、2021年の9月にもう一つのスパイクが存在するのです。

(出典:Googleトレンド 「今際の国のアリス」の世界の検索数推移)
(出典:Googleトレンド 「今際の国のアリス」の世界の検索数推移)

見る人が見れば分かると思いますが、これは同じくNetflix発のドラマ「イカゲーム」が世界的大ヒットになったタイミングです。

「イカゲーム」といういわゆるデスゲームカテゴリのドラマが世界的に人気となったことで、同じジャンルの日本の作品である「今際の国のアリス」の知名度も世界に拡がる結果となり、今回のシーズン2のスタートダッシュにつながったわけです。

参考:衝撃の「イカゲーム」世界的大ヒットに学ぶ、日本ドラマ海外進出の正攻法

ここ数年、世界でヒットを飛ばし続ける韓国ドラマの躍進の前に「日本ドラマの敗戦」「日本ドラマは韓国ドラマには勝てない」という趣旨の論説がメディア上でも多数展開されてきました。

ただ、実は今回の「今際の国のアリス」のヒットに「イカゲーム」のヒットが貢献しており、「イカゲーム」誕生の背景に日本のマンガ文化が貢献しているように、日本と韓国のドラマは世界にアジアのドラマやコンテンツを拡げていく上でのパートナーと考えることもできるわけです。

日本の制作チームとNetflixの組み合わせの可能性

さらに、今回の「今際の国のアリス」シーズン2が、日本の映像製作の新たな可能性を拓いてくれていると言えるのが、その圧倒的な特殊効果の撮影レベルです。

「今際の国のアリス」はシーズン1においても、特に第1話における渋谷スクランブル交差点のシーンなど、衝撃的なVFXの映像で、大きな話題となりました。

今回のシーズン2においては、その特殊効果の撮影レベルはさらにパワーアップ。

特に、第1話におけるカーチェイスのシーンは、これまでの日本の映画やドラマではなかなかお目にかかることができない圧倒的な迫力のあるシーンとなっています。

ここで最も注目したいポイントは、この撮影を実施しているのが外国人中心のハリウッドの映画制作陣ではなく、日本人の役者や制作陣中心のチームという点です。

「今際の国のアリス」の制作企画は、「ALWAYS 三丁目の夕日」や「海猿」などを手掛けたことで有名な、日本屈指の映像制作会社ROBOT。

参考:ドラマ「今際の国のアリスSeason2」作品紹介ページ

これまで、日本の映像制作会社では、ハリウッドはもちろん、韓国のドラマや映画の特殊技術にはかなわないと言われてきました。

ただ、「今際の国のアリス」の成功は、日本人のそうした思い込みを見事にひっくり返してくれます。

Netflixが現在取り組んでいるような予算と製作期間や規模感で取り組めば、日本の役者と制作陣中心のチームでも、世界から注目される作品を作れることを証明しようとしてくれているのです。

もちろん、「今際の国のアリス」シーズン2はまだ公開されたばかり。これからどれぐらい世界の人に広く受け入れられていくのかは分かりません。

ただ、韓国の映像制作会社が、Netflixの中で「愛の不時着」や「梨泰院クラス」などのヒットを積み重ねて、「イカゲーム」のような大ヒットにつなげていったように、日本の映像制作会社も「今際の国のアリス」の成功を礎に、これからさらに世界で注目される作品を生み出してくれる予感がします。

まずは「今際の国のアリス」シーズン2を楽しみながら、このドラマの成功に続くこれからの様々な作品の誕生を楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

徳力基彦の最近の記事