外野手1本で勝負や!2年目・濱将乃介(中日ドラゴンズ)は“えぐい肩”で外野の一角を奪いにいく!
「全然でした。体力面でも技術面でもまだまだ。今のままやったらダメ」。
昨年のルーキーイヤーを振り返った中日ドラゴンズ・濱将乃介選手はそう言って、悔しそうに唇を噛んだ。
公式戦で一度も1軍に上がることなくシーズンを終えた。こんなはずではなかった…。
しかしシーズン終了後、10月のフェニックス・リーグ、続く台湾でのウィンターリーグで手応えをつかんだ。昨年は内野手として、チーム事情で外野にも就いたが、今年は外野手1本で勝負する。1軍に殴り込みをかける準備が万端整った。
2024年の濱将乃介は、やる!!!
■オープン戦で1軍の空気を吸った
東海大甲府高校からNPBを目指して独立リーグに進んだ。高知ファイティングドッグス(四国アイランドリーグplus)で3年間頑張ったがドラフト指名がなく、退団。不退転の決意で臨んだ福井ネクサスエレファンツ(日本海オセアンリーグ)では内野手に挑戦し、足もアピールしてドラゴンズから5位指名を受けた。
昨年の春季キャンプでは、ファームではあるがシート打撃でいきなりスタンドインして幸先よいスタートをきったかと思いきや、左のハムストリングを負傷して別メニュー。
復帰するとオープン戦で初めて1軍に呼ばれ、5試合(3打数無安打)に出場した。練習ですら一度も経験のないサードに配されたが、「どこでもできるようにしたい」と意欲的に守った。
オープン戦とはいえ「お客さんがたくさん入ったバンテリンドームで初めて試合をして、めっちゃ緊張したけど、いい経験になりました」と“1軍の空気”を味わい、やはりここでプレーしないといけないという思いを強くした。
だが、シーズンではずっと2軍暮らしだった。2軍といえど、投手のレベルは独立時代とは格段に違い、苦労した。春先に「肩で煽って振ってるんです。スパーンってバットが出てこない感じ」と吐露し、その後ももがき続けた。
7月に体調不良、9月には足首の負傷などもあり、88試合の出場にとどまったが、10月上旬に足首の状態がよくなると、同月中旬からフェニックス・リーグに参加した。その後、秋季キャンプを経て、休むことなく11月下旬から12月半ば過ぎまでは台湾で開催のウィンターリーグにも参戦した。
■内野手から外野手に
昨季は内野手ながら、離脱する選手が増えて頭数が足りないときには外野にも回った。経験を見込まれてだ。「両方できたほうがいいなと思って。そのほうが出る幅が広がる」と精力的にどちらにも就いた。
夏場にはセカンドにも持ち場を広げて7試合守り、サードで43試合、ショートで36試合、外野で20試合という出場数になった。
「内野はほんまに自信なかった」と肩を落とす一方、「外野の守備は自信あるんすよ」と瞳を輝かせる。そもそも内野への挑戦は、ドラフト指名を受けるために「就活、ショートっす(笑)」と、福井時代に新たな自分をアピールしようと始めたことだ。夢をかなえることはできたが、やはり“本職”が恋しかった。
シーズン終了後、外野手1本に絞ることが決定すると、その後は自慢の爆肩を披露するなどイキイキとした姿が見られた。
ただ、内野の経験は決して無駄ではなかったと振り返る。
「まず足の運びですね。内野は足を使わないとダメ。一歩目(の早さ)とかは外野の守備にもどんどん生きてくると思う。絶対にプラスになってますね」。
さらに野球観や考え方などにも影響があった。内野はサインプレーも多く、常に周りを見てゲームに入っている。野球脳が確実に鍛えられたという実感がある。
「サインミスはしなかったですね。内野はいろんな動きがあって、その動きが頭に入っているから、外野でのカバーリングにも生きてくる。もちろん配球とかで守備位置を変えたりとか、ポジショニングも変わってきます」。
これまでの自信に、さらに上乗せをすることができた。
「自信」といえば、やはり肩だ。「僕の武器」と言いきる。だが、「もっと精度を上げたい。『あいつ、肩えぐいな』ってみんなに知ってもらえるように」とさらなる向上を誓う。
遠投125m、マウンドからの投球が最速152キロと投手顔負けだが、まだまだ伸びしろがあると自負する。
「コントロールもやし、捕ってからの早さもそう。シュート回転しないように質のいいまっすぐで、低めに投げないと」。
外野手専任になったフェニックス・リーグでは水を得た魚のように躍動したが、 「自信があるから、やっぱ楽しい」と、心に余裕が生まれた。それがバッティングにもいい影響を与えたようだ。ウィンターリーグでもそれは継続した。
■打撃で開花の兆しを見せる
「バッティングはシーズン中とは全然感覚が違いました」。
フェニックス・リーグで打率.265、ウィンターリーグで同.259。数字ではシーズンの同.205からやや伸ばした。しかし、数字以上に自身の手応えはまったく違ったという。
「凡打のなり方が違いましたね。僕、ダメなときはファーストゴロ、セカンドゴロが多いんですけど、それが少なくなって内容のいい凡打、いい当たりの凡打、そういうのが増えました」。
安打にはならなくとも、その手に残ったものは大きかった。それは必ず今年の打撃につながると確信した。
最も意識しているのは体の開きと体重移動だ。
「最後までピッチャーに胸を見せないようにすることと、後ろに重心を残したまま振ってしまっていたのをちゃんと体重移動するようにということです」。
これまでも意識はしていたが、それをより強く心がけるようになったという。
打球方向も「キホン、センターから逆方向に強い当たりを打てる形っていうのがいい形」と開かず、しっかり引きつける。ただ、「速いまっすぐを打ち返さないとダメなんで、引っ張ることも大事」とも言い、「追い込まれたり、変化球に対応するには逆方向の意識は絶対にないとダメ。そこは難しいところ」と、タイミングを重視し対応していきたいと語る。
■四球を多く、三振を少なく
ウィンターリーグでは2ストライクからの待ち方にも変化があった。
「ファウルでカットして、打てる球を投げさせる。全部が全部、受け身になるんじゃなくて、自分から攻めていった中で…って感じです」。
自らカウントを作ることが大事だと感じた。参考にしたのはNPBホワイトでチームメイトだった萩尾匡也選手(読売ジャイアンツ)だ。打率.326、出塁率.407、長打率.543と好成績を挙げていた。「やっぱりいいバッターはボール球を振らないですね」と同い年でありながらリスペクトしている。
四球が多く三振が少ない―そんなバッターを目指すという。例に挙げるのは吉田正尚選手(ボストン・レッドソックス)だ。
「2-3(3ボール2ストライク)がめちゃくちゃ多いんですよね。ファウル、ファウルで追い込まれても、ボール球を振らずに2-3になってフォアボールが多い。そんなバッターになりたいっすね」。
昨季は、それまで見たこともなかった縦の変化球に翻弄され、「振らされた。どこでも振っとったもん」と70三振を喫した。「今年はもっとフォアボールを増やしたい」とうなずく。
そのためには「間が大事。長い時間ボールを見て、ピッチャーに胸を向けない。胸向くのが早かったら全部振ってしまうんで」と、打撃での意識は徹底している。
■もっと足をアピールする
「足」ももっとアピールしたいと意気込む。独立時代はかつての盗塁王・西村徳文氏から薫陶を受け、盗塁や走塁の技術を伸ばした。37コの盗塁(58試合)で最多盗塁にも輝き、“格の違い”を見せつけた。
しかし昨季はウエスタン・リーグでわずかに6コ(88試合)。サインがあまり出なかったこともあるし、足の状態が万全ではなかったこともある。だがやはり、「全員クイックが速いし、予備動作がないピッチャーが多い」と、投手のレベルがまったく違うというのが大きかった。
しかしそんな中で走れなければならない。そう思い、台湾では積極的にトライした。3コの失敗はあったが6コ成功させ(15試合)、自分なりに気づいたこともあった。
「(出塁したら)全部スタートを切る状態でいて、無理やったら止める。全部が全部行くんじゃなくて、配球も考えて変化球のタイミングで走る」。
スタートを切る勇気、止める勇気。どちらも必要で、その瞬時の判断力こそ重要である。台湾の地でいろいろ試し、肥やしにした。
「めちゃくちゃ速いっすよ」とウィンターリーグで対戦した並木秀尊選手(東京ヤクルトスワローズ)の足に驚愕したが、「あそこまで速くはなれないんで、それをどこかで補わないといけない。スタートだったりスライディングだったり」と、“3S”の2つをさらに磨く。
「盗塁はできないといけない選手なんで、足を見せていかないと。今、下半身のトレーニングも頑張ってるし、キャンプではしっかりアピールします」。
走攻守すべてにおいて、昨年以上のものを見せていく。
■激戦区の外野に挑む
まもなく沖縄での自主トレに向かう。高校の先輩でもある高橋周平選手に弟子入りし、自身をとことん追い込むつもりだ。昨季はシーズン中の波が大きかったことを省み、「その波をなくしていきたい」とプロの極意を先輩から教わる。
「1軍に定着できるようにしたい。守備でもバッティングでも走塁でも、ちゃんとチームの戦力になれるようにしたい」。
1軍に上がるだけではダメだ。定着しなければならない。
狙うポジションは「守備範囲も必要やし、ポジショニングも大事やけど、ピッチャーのボールが見えるんで僕は一番守りやすい」とセンターだ。しかしセンターには不動のレギュラー、岡林勇希選手がいる。昨年はフルイニングに出場して球団新記録の29試合連続安打を達成、ゴールデングラブ賞とベストナイン(ともに2年連続)を受賞している。鉄壁だ。
さらに外野陣を見渡しても「大島さん、細川さん、ブライトさん、鵜飼さん、三好さん、駿太さん…」と、その口からも次々と名前が挙がるほど多士済々だ。そこに上林誠知選手(元福岡ソフトバンクホークス)も加入した。
激戦区であるのは重々承知だ。しかし大事なのは自分自身で、己がレベルアップするほかない。これまでも立てた目標はクリアしてきた。今年もやるしかない。
そういえば昨年、こんな目標も口にしていたことを思い出した。バレンタインデーに“自己最高”の15個のチョコをもらい、「来年は100個を目指します(笑)」とぶち上げていたのだ。もちろんお得意のジョークではあるが、人懐っこい笑顔でファンも着実に増えている。キャンプでの頑張り次第では期待度がアップし、楽々クリアできるのではないだろうか。
実力も人気も上昇の1年に―。年男の「竜のハマショー」は、今年こそ1軍の舞台で暴れまくる。
(表記のない写真の撮影は筆者)
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