星野源の紅白「地獄でなぜ悪い」への批判。園子温監督の性加害問題、キャンセルカルチャーの線引きは…
12/31の大晦日に放映されるNHK紅白歌合戦の曲が発表され、星野源の曲が「地獄でなぜ悪い」に決まり、ファンからの歓迎の声とともに、その選曲についての批判も上がっている。
「地獄でなぜ悪い」は星野も俳優として出演した、2013年の同名映画『地獄でなぜ悪い』の主題歌。監督は園子温。その園子温はここ数年、性加害の問題が取り沙汰され、表舞台に出ることはなく、当然のごとく新作も撮れない状況になっている。
「地獄でなぜ悪い」は、出演者である星野が園監督からの依頼で作った主題歌であることから、紅白での歌唱への疑問、批判の声が上がり始めた。
園子温監督は、自身の作品への出演を条件に女性の俳優らに性的関係を迫ったという報道が出て、それに対して園氏側が「事実と違う部分がある」と名誉毀損で訴訟を起こすなど、波紋が広がった。この訴訟に関しては今年の初めに裁判上の和解で解決し、該当ニュースはネットから削除されたが、一部の報道では、園氏からの性加害を告発した女性俳優が自殺するという衝撃的なニュースもあり、それは今も読むことができる。つまりドロ沼状態が続いていると言っていい。
いずれにしてもここまで性加害報道の渦中にある監督の作品の主題歌で、タイトルが同じということで、より映画と曲がリンクしやすい。しかも映画『地獄でなぜ悪い』は、映画作りに熱い思いを抱く男が主人公ということで、園子温監督が自身を色濃く投影しているのは明らか。ヤクザの組長の希望で、映画青年が本物のヤクザの子分たちを使って映画を撮るストーリー。園監督の中では賛否両論の作品ではある。
星野の曲自体は作品の内容、あるいは園監督をイメージしたものではないが、現在、性加害を問題視されている人物との繋がりが指摘されやすいのは事実。
一方で、この「地獄でなぜ悪い」は、星野がくも膜下出血で療養していた時期に発売された曲であり、映画とは無関係であることを強調するファンは多い。実際、性加害で問題になっている人物そのものではなく、基本は無関係な作品である主題歌が、どこまで“制限”されるべきか、疑問の声も目につく。たしかに、アメリカでプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインが重大な性加害犯罪で逮捕されたが、その作品がすべて観られなくなる……ということはない。まして映画と主題歌という関係。たとえ星野本人がキャストで出演していたとしても、批判は行き過ぎではないか、との声も。
ただ、このような指摘があるのも事実。
韓国の名匠とされていたキム・ギドク監督は撮影中の性的暴行事件で訴えられ、名誉毀損で告訴するも2020年に敗訴。その直後に彼は亡くなった。
批判に対して怒っているファンの中にも「何も紅白でこれを歌わなくても」という意見が散見される。この記事の冒頭で紹介した松崎氏も星野本人に対する批判ではなく、「国民的お祭りである紅白で披露する行為が、どのような結果を生むのか」という旨をポストしている。今回の選曲はNHK側からの要請ということなので、何かしらの演出の意図があると思われるが、たしかにちょっと考えれば波紋が起こることは予想できたはず。旧ジャニーズの問題も引き合いにして、HNKは考えが甘いという声には確かに頷いてしまう。
いわゆるキャンセルカルチャーが、どこまでなされるべきか、何が正しいのか。そこに一石を投じる問題ではあるだろう。今のままでは騒動がくすぶったまま大晦日を迎えるような気もする。モヤモヤした気分で紅白のステージを見つめるファンもいるかもしれないが、そこまで心配する必要もないのか。複雑な問題ではある。