2016年に注目するべきグルメシーン
2015年の振り返り
2016年も始まりました。
2015年のグルメシーンは、サードウェーブと呼ばれる「ブルーボトルコーヒー」(2月6日オープン)の狂騒に始まり、まだ氷菓を欲する季節でもないのに「アイスモンスター」(4月29日オープン)の行列に驚き、「ドミニク・アンセル・ベーカリー」(6月20日オープン)のメディア露出に感心しながら、「シェイク シャック」(11月13日オープン)によってグルメバーガーはやはり人気があるのだと再認識させられた年でした。
また他にも、「おにぎらず」が流行したり、ミシュランガイドで素晴らしい星の復帰劇があったり、はたまたラーメンが星を獲得したりしました。ミシュランガイドのWebサイトを運営するぐるなびがクラブミシュランを、食べログがワンコインランチを、LINEがグルメ予約を開始したりと、グルメを取り巻くオンライン環境でも色々なことがありました。
さらには、「その時ミシュランレストランは客を差別したのか?」、「今日もどこかでノーショーは繰り返される」などで、レストランにまつわる社会的な課題もいくつかありましたし、バターが不足したり、うなぎが高騰したり、外食に対する軽減税率が非適応になったりしたことに対して国レベルで議論が生まれました。
2016年のグルメシーンはどうなるのでしょうか。
他媒体の記事への言及も許されているYahoo!ニュースの記事なので、様々な記事を紹介しながら、私の意見を述べたいと思います。
食べログ
グルメブームを大衆性のあるものとして捉えるのであれば、日本におけるグルメWebサイトとして、掲載店数もクチコミ数も最大の「食べログ」を外すわけにはいかないでしょう。食べログで取られたアンケートの中で、今後体験したいグルメのランキングは以下の通りです。
2015年時点で食べログが用意した選択肢の中からユーザに選んでもらったものなので、ブームを予測する材料としてはかなり限定的です。何故ならば、食べログが用意した選択肢に入っていなかったり、ユーザが全く予想していなかったりしたものが、ブームになることも十分に考えられるからです。
従って、ここにランクインしているグルメは2015年の時点でそれなりに話題となったものばかりなので、どれも特に驚きはありません。
むしろ見方として興味深いのは、2015年に話題となったとされる、かき氷や日本酒がランクインしていないことです。いや、もしかすると、既に2015年に飽きるほど堪能したので、もう体験しなくてもよいということでしょうか。私は、これはメディアと消費者の温度差を表しているのではないかと感じます。
Foodist
食の世界をつなぐWebマガジン「Foodist」の外食トレンド予想です。食べログに比べると、ユーザのアンケートではなく、食のプロである同サイトが執筆した記事なので、玄人寄りの内容となっています。
熟成肉や赤身肉ではなく、欧州牛というところがいかにもプロらしい視点です。イベリコ豚やシャラン鴨といったブランドが欧州にあるだけに、牛肉も面白いところですが、日本人は、安い牛肉であればアメリカ牛や豪州牛に親しんでおり、高級牛であれば国内の黒毛和種への信仰が強いだけに、欧州牛がその間に入り込みブームとなるのは難しいかも知れません。
バル化の傾向が進むのは、消費者側のトレンドというよりも、単価を上げたい飲食店側のトレンドといった感じでしょう。
モダンガストロノミーについては、「セララバアド」と「81」を例に挙げていますが、この2店がどういった影響を与えるのか、記事中では言及されていないのでよく分かりません。ただ、いずれにしても、今更になって分子ガストロノミーがグルメシーンに何かの影響を与えるのは難しいのではないでしょうか。
「セララバアドは新たなモダンガストロノミーの物語を完成させられるか?」でも紹介したように、確かにセララバアドはレストランもオーナーシェフの橋本宏一氏も素晴らしいですが、こういった分子ガストロノミー自体は新しいものではないからです。現在は、分子ガストロノミーという手法ではなく、見せ方などのプレゼンテーションに比重が置かれていると言ってよいでしょう。
リクルートホールディングス
リクルートホールディングスのトレンド予測です。飲食、住宅、進学、美容など7つの領域における予測を展開しています。
横丁が再び花開くということを、熱烈に語っています。Foodistの「大衆居酒屋の復権」と相まって説得力があります。私もこの予測に賛成ですが、これは訪日外国人とも関係があると思っているからです。訪日外国人は、ホテル内ではあまり飲食せず、ローカルフードを求めて外へ食べに行きます。従って、訪日外国人の数がまだまだ伸びていく中で、居酒屋や横丁がますます活気を帯びていくのは納得できることです。
macaroni
まとめサイト「macaroni」の編集部による予測記事です。
イスラエル料理のフムスは、その原料であるヒヨコ豆がサラダでよく食べられていますが、ペーストとしてパンと一緒に食べるスタイルは、ご飯と合わせる食べるラー油とは違って、あまり日本人に馴染まないような気がします。
ビーンズバーは昨年かなり盛り上がりを見せましたが、大多数の消費者が気軽に入手してブームになるようなボリュームゾーンではありません。それだけに、ブームと言うよりも昨年から続く志向性と言えばよいでしょうか。
シャルキュトリは「肉の加工食品」を言い換えただけなので、ブームになるといってもあまりピンときません。よりヘルシーな無塩セキ(必ずしも無添加ではありません)のソーセージやハムということであれば、新たな付加価値が付くので別ですが、そうでなければこれまでとは何も変わらないので、改めて注目されるのは難しいのではないでしょうか。
第4のミルクは、記事中で「穀物ミルク」と限定していますが、穀物に限らずブームになる可能性はあると思います。ホテルニューオータニのグランドシェフである中島眞介氏がアーモンドミルクに力を入れて広まってきていますし、ヘーゼルナッツミルクやヘンプミルクも栄養価がとても高いからです。
同じmacaroniからですが、先の記事とは違うユーザが予測記事をまとめているので紹介します。
ドミニク・アンセル・ベーカリーのオープン以来、ブレイクしているハイブリッドスイーツがないことからも、ハイブリッドスイーツ自体がもう食傷気味という印象を受けます。それだけに、もしもハイブリッドスイーツを冠として展開するのであれば、意味が沈下してしまい、どれもがうまくいかないと感じます。
ランキングシェア
ランキング形式のまとめサイト「ランキングシェア」によるニューオープントレンド予測です。編集部の記事ではありません。
既に伊勢丹へ出店している「ユーゴ・エ・ヴィクトール」を改めてニューオープンとして取り上げることに少しモヤモヤを感じますが、まだまだ人気が続くグルメバーガーの「カールスジュニア」や、日本ではまだ少ないカスタマイズピッツァをテーマとした「800 デグリーズ ナポリタン ピッツェリア」、それに、ミシュランガイド2つ星フレンチ「NARISAWA」のパティシエ坂倉加奈子氏などと交流もあり、アジアを代表するパティシエとなっているジャニス ウォン氏の「ジャニス ウォン」をランクインさせているあたりは面白いと思います。
dressing
ぐるなびが運営するフードライフを演出するWebサイトです。「ippin」や「メシコレ」などに続いて積極的にグルメサイトをオープンしており、まだ軌道に乗ったと言えない中で、さらに新しいグルメサイトを創出しました。このdressingの記事で、編集部による2016年の予測があったので紹介しましょう。
うどんについては、「10分どん兵衛」がGoogleでも検索結果が多いことから話題になっていることが分かりますし、ポルトガル料理については、以前マヌエルで食べた時に魚介料理がおいしくて日本人にも合うと思っていたので、どちらとも興味深い記事だと思いました。しかし結局、うどんは「香川一福」、ポルトガル料理は「マル・デ・クリスチアノ」と、それぞれの記事で1店舗ずつしかフォーカスされておらず、しかも、ぐるなび内の店舗ページへとリンクが設けられています。ぐるなび掲載店の記事を作ったような気がして少し残念に感じます。
2016年のグルメトレンドの予測は上記だけかと思ったら、以下の記事もありました。こちらの方が客観的で、包括的な予測のようです。ただ、前述した2つの記事も次の記事も、編集部の署名が入れられているのに、先の記事は「その1」「その2」とナンバリングされている一方で、次の記事はナンバリングされていません。切り口も違っていますし、この一貫性のなさは気になるところです。
シングルオリジンコーヒーはサードウェーブコーヒーの流れも受けて関心が寄せられるものと思われますが、食べ易いコーン型ピッツァを販売する「KONOPIZZA」やピッツァのファストフード「Napoli’s PIZZA&CAFFE」がそれほど奮っていないことを考えてみると、ピ ゼッタもそれほど注目されないような気がします。
「ネクストスーパーフード」とも「新スーパーフード」とも呼ばれている次のスーパーフードとして、何がトレンドになるのかと話題になっていますが、マキベリーはより知名度の高いアマランサスやフリーカやモリンガと比べると、特に訴求力があるようには感じません。しかし、こういったヘルシーグルメやダイエットフードのカテゴリは、単にスーパーモデルや有名人が食べているというだけで爆発的なブームになることもあるので、マキベリーがブームにならないとは言い切れないでしょう。
2016年の注目
以上、色々なサイトによる予測を見てきましたが、私は2016年のグルメシーンで以下の5点に注目したいです。
- 何でもありのスーパーフード
- まだまだ人気のグルメバーガー
- パンケーキとハイブリッドスイーツの失速
- 訪日外国人に対するホテルレストランの動き
- ミシュランガイドとRED U-35
何でもありのスーパーフード
スーパーフードは、メディアや消費者にとって、ヘルシーグルメやダイエットグルメという捉え方です。こういったものには必勝法が存在しません。それだけに、常に新しいものが求められますが、「日本スーパーフード協会」が認定しているスーパーフードはあるものの、何がスーパーフードであるかとするのは実に恣意的です。そのため、スーパーフードという言葉はここ数年、氾濫しているように感じます。スーパーフードという言葉が、2016年も果たしてグルメにおける「スーパー」ワードでいられるのか、気になるところです。
まだまだ人気のグルメバーガー
年末年始でも数時間待ちのシェイク シャックの人気ぶりを見ていると、グルメバーガーはまだまだ人気があるように感じます。特に海外から上陸するグルメバーガーは注目で、大本命である「カールスジュニア」や銀座にも出店する「ベアバーガー」は行列を期待できそうです。まだ未上陸の本命がいるという状態は、数年前のパンケーキブームに似ています。
パンケーキとハイブリッドスイーツの失速
さて、そのパンケーキと言えば、グルメバーガーとは反対に、「フォーティーナイナー」「バーンサイドストリートカフェ」など、昨年新しくオープンした店で行列ができたり、話題に上っているところはありません。だいぶ落ち着いてきた印象です。
またハイブリッドスイーツも、大本命の「ドミニク・アンセル・ベーカリー」以外はあまりパッとしません。本来ハイブリッドスイーツは、2つの食べ物を合わせたことによって新たな食感や食味を生み出さなければならないのに、こじつけ感があったり、反対に意外性だけがあったりするものが多いです。そのため、ドミニクアンセルベーカリー上陸。ハイブリッドスイーツとは何ものなのか?でも危惧したような状態となり、消費者の期待を裏切り、失速していると感じます。
訪日外国人に対するホテルレストランの動き
2015年は訪日外国人の数が1900万人を超えて、ホテルの客室稼働率も客室単価も大幅に上昇しましたが、訪日外国人は前述の横丁などローカルフードに興味があるので、ホテル内でランチやディナーを取らないことがほとんどです。2016年は昨年よりもっと多くの訪日外国人が見込まれるだけに、ホテルレストランで訪日外国人に向けて何かしらの対策がなされるのか、注目したいです。
ミシュランガイドとRED U-35
ミシュランガイドもRED U-35も、ぐるなびが大きく関わっています。前者のミシュランガイドはラーメンや粉ものなど、どんどんジャンルを拡大していって、ボリュームが増大しています。掲載店数が増えてきたので、本ではレイアウトがかなり窮屈になっていますが、Webサイトでは様々な条件にヒットするようになるので好都合でしょう。掲載店数を増やしていく方向に変わりないと思います。
後者のRED U-35は3回目を終えて軌道に乗り始めたことに加え、「新時代の若き才能を発掘し、日本の将来を担うスターシェフへ」というRED U-35の理念を具現化するためにCLUB REDも2015年に発足し、ますます活発になっていきそうです。ただ、テレビとの連携もなくなり、一般の方にはほとんど知られていません。コンテストはレストランや料理人の箔付けという意味合いもあるだけに、次はRED U-35自体の知名度を高めていかなければならないのではないでしょうか。
最後に
ここまで好き勝手に意見を述べてきたものの、グルメシーンがよい意味で盛り上がることを何よりも願っています。2015年はシャンパーニュが過去最高の売上となって世界のグルメシーンは盛況となっていますが、日本では軽減率が適応されない外食の先行きが不安視されています。それだけに、ここで紹介した予測が1つでも多く当たって多くのブームを起こし、日本のグルメシーンが盛り上がることを期待したいです。
元記事
レストラン図鑑に元記事が掲載されています。