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「国はわかっていない!」と飲食店も困惑 客によるグルメサイトを通じた感染症対策の評価が全くダメな理由

東龍グルメジャーナリスト
(写真:つのだよしお/アフロ)

まん延防止等重点措置は延長か

東京都などに発出されているまん延防止等重点措置は、2021年7月11日に期限を迎えますが、新型コロナウイルスの新規感染者数が拡大しているため、延長される見通しです。

飲食店は時短営業と酒類提供の制限を強いられており、引き続き厳しい状況。それだけに、まん延防止等重点措置が延長される場合には、国や自治体からどのような要請があるのかと心配しています。

この状況下で驚きのニュースが飛び込んで来ました。

飲食店が感染症対策を講じているかどうかを、利用者がグルメサイトを通して回答し、国から情報提供を受けた自治体が違反店を指導するというのです。7月中の開始を目指しているといいます。

利用者によるアンケート

まん延防止等重点措置の期間中、19時までの酒類提供が認められていますが、条件がつけられています。東京都であれば、感染防止徹底宣言ステッカーの提示、コロナ対策リーダーの登録とe-ラーニング研修の受講などが必要。

国は、ここで課されている感染症対策がしっかりと行われているかどうかを、利用者にチェックしてもらおうと考えているのです。

主な調査項目は、アクリル板の設置や座席の間隔確保、手指消毒と換気の徹底、食事中以外のマスク着用の推奨。アンケートに対応するグルメサイトは食べログ、ぐるなび、ホットペッパーグルメです。さらには、コールセンターも設置し、幅広く情報を集めるともいいます。

私が知る範囲では、これを知った飲食店は一様に驚きの声を上げています。それも、賛成ではなく反対の声であり、なぜ飲食店だけがまた理不尽な仕打ちを受けるのかと驚愕し、そして憤っているのです。

「信じられない……」「本当なのか?」「国はわかっていない!」という反応が見受けられますが、私もこの試みにはあまり賛同できません。その理由を述べていきましょう。

利用者は感染症対策の専門家ではない

利用者は感染症対策の専門家ではありません。その利用者が判断したものをもとにして、飲食店を指導するのは危険ではないでしょうか。最低でも最終的には国や自治体、および、国や自治体が選定した業者が現地を訪れて判断するべきです。

そもそも利用者が誰しも同じように判断できる項目であるように思いません。飲食店を訪れた客がテーブル間隔を測ったり、消毒の頻度や程度をチェックしたり、換気が十分であるかどうかを見極めたりできると考えているのでしょうか。

国や自治体が責任を回避するためかわかりませんが、新しい生活様式が提言されてからも、こういった項目について具体的な数字が決められていませんでした。しっかりとした基準を定め、それに従った飲食店を通常営業させてほしいという、飲食業界たっての要望に対しても、何も反応を示してこなかったのです。

国や自治体は明確な基準を定めることができるのでしょうか。そしてそれをもとにして、感染症対策の素人である利用者が判断することはできるのでしょうか。さらには、もしもそれができるとすれば、どうしてこれまで、国会で議論するなどし、明確な基準を定めなかったのでしょうか。

納得感がなく、不信感だけが残る施策です。

妥当性を判断できるのか

利用者からグルメサイトを通じてアンケートが投稿されたとして、国や自治体はその妥当性を判断できるのでしょうか。

たとえば、ライバル店が相手を陥れるために低評価をつけたり、単なる嫌がらせ目的で気軽に投稿したり、さらには、贔屓客が甘く評価したり、店舗スタッフがアンケートに答えたりするケースを排除できるとは思えません。本当に訪れたのかどうかさえ、峻別できないでしょう。

グルメサイトを通してアンケートに答えられることで、ハードルが低くなり、物理的かつ心理的なコストが低くなります。アンケートに回答しやすくなるのはよいことですが、同時に、不正しやすくなることも意味するのです。

このような適当な手段をもとにして、国や自治体が飲食店に対して行政指導を行うのであれば、もはや権力の乱用であると思います。

飲食業界の分断が加速

不確かなものを土台として第三者認証を行えば、不公平な結果が生じるのではないでしょうか。飲食業界がさらに分断されることは明白です。

時短営業や酒類提供の禁止および制限についても、遵守する飲食店と遵守しない飲食店に分かれていました。席数を間引きしたりしなかったり、アクリル板を設置したりしなかったりと、新型コロナウイルスの対応は飲食店によって異なっています。ましてや、10万店以上という、世界でも最大規模の飲食店が密集する東京であれば、なおさらのことです。

全てを遵守しているがため、売上が激減して閉店する飲食店がある一方で、要請には従わず売上が好調な飲食店があります。その結果、飲食業界が分断されているという記事も以前書きました。

今回の罰則ありきの施策では、不公平感があったり、納得感がなかったりするので、飲食業界がさらに分断されるのではないでしょうか。

全国の飲食店数は約45万店、飲食店の従事者数は約319万人にも上り、2019年における外食産業の場規模は26兆円を誇ります。

飲食業は日本における重要な産業のひとつであり、和食は2013年12月にユネスコ無形文化遺産に登録された日本の至宝。東京はミシュランガイドで世界最多の星の数と三つ星店を有している美食都市です。

クールジャパンを謳い、日本の食を世界へと発信しようとしている一方で、飲食業界を分断するような施策をとるのは、冷静な判断であるとは思えません。

グルメサイトと飲食店の関係悪化が懸念

グルメサイトを通してアンケートを行い、飲食店に罰を与えることによって、飲食店とグルメサイトとの関係が悪化することも懸念されます。

食べログ、ぐるなび、ホットペッパーは、飲食店が新型コロナウルスの対策を行っているかどうかを掲載しています。消費者に安心して利用できることを知ってもらえるということで、飲食店にとってはよい仕組みです。

しかし、今回の第三者認証制度は、飲食店にとってただ脅威となるだけ。グルメサイトは国との関係性を重視して請け負っていると思いますが、飲食業界との関係性が悪化する可能性があります。

雑誌や新聞などの紙媒体やテレビが衰退していく時代の中で、グルメサイトは消費者と飲食店を結びつける大きな存在。そのグルメサイトが飲食店にとって脅威となるようでは、飲食業界の発展も懸念されます。

これまでの施策はどうなったのか

グルメサイトを通して利用者に協力してもらう手法をとりますが、「徹底点検TOKYOサポート」はどこに行ってしまったのでしょうか。

6月25日時点で、東京都による飲食店の点検は訪問した107,709店に対して約53.4%にあたる57,529店を調査しています。この調査では、手指消毒の徹底、マスク着用の徹底、間隔の確保・アクリル板等の設置、換気の徹底、コロナ対策リーダーを中心とした取組といった項目を点検していますが、なぜこちらを利用しないのでしょうか。

「徹底点検TOKYOサポート」が実践的な面で役に立たず、全てをグルメサイトに丸投げするのであれば、これまで調査に費やされた税金は全て無駄になります。

新しい施策を立てるのはよいですが、これまでの施策に対する整合性や経緯を説明してもらわなければ全く納得できません。

第三者認証制度は飲食店に報いることができるのか

7月2日の記者会見において、西村康稔経済再生担当相は「飲食店の努力を評価し、報いるためにも、第三者認証制度の質を担保していく」と述べました。しかし、テイクアウトやデリバリーの開発、時短営業や酒類提供制限での最適化など、飲食業界が行ってきた努力に報いる気があるようには感じられません。

今回の第三者認証制度は、飲食店にマイナスのインパクトを与えるものの、プラスのインパクトを与えることはないでしょう。なぜならば、行政指導を与え、飲食業界を分断するためだけの施策であり、コロナ禍で苦境に立たされている飲食業界に希望をもたらすものではないからです。

7月中にも始められる予定ですが、どのようにして飲食店に報いることができるのか、国は開始前に納得できるような説明責任を果たすべきではないでしょうか。

グルメジャーナリスト

1976年台湾生まれ。テレビ東京「TVチャンピオン」で2002年と2007年に優勝。ファインダイニングやホテルグルメを中心に、料理とスイーツ、お酒をこよなく愛する。炎上事件から美食やトレンド、食のあり方から飲食店の課題まで、独自の切り口で分かりやすい記事を執筆。審査員や講演、プロデュースやコンサルタントも多数。

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