緊急事態宣言がようやく解除も、飲食店に大きな分断が起きている残念な理由
緊急事態宣言がようやく解除
2021年3月21日をもって、一都三県で緊急事態宣言がようやく解除されます。1月8日から始まり、延長も再延長もあって、3ヶ月近くもの期間中、自粛していたことになります。
東京都は、緊急事態宣言が解除された後も、段階的緩和期間として22日から31日にかけて、飲食店に自粛を要請。営業短縮は20時から21時まで、酒類提供は19時から20時まで、協力金については1日6万円から4万円へと変更されています。
飲食店は4月以降の完全解除が視野に入ってきたところで、ようやく希望がもてそうです。しかし、今回の緊急事態宣言の発令がもとになり、飲食店、ひいては、飲食業界で様々な不信感が芽生え、分断が起きているように思います。
グローバルダイニングが都を提訴へ
東京都は3月18日、時短営業の要請に応じていない飲食店27店に、特措法45条に基づく時短営業命令を出しました。このうち26店がグローバルダイニングの飲食店であったことは衝撃的。時短営業に従わなかった飲食店はいくつもあっただけに、まるで狙い撃ちしたかのようです。
グローバルダイニングは逆に、行政による過剰な権利制約が続いているとして、3月22日に都を提訴するといいます。
東京都が特定の飲食店に命令し、命令された飲食店が東京都を提訴するなど、溝はますます深まるばかり。ここまでの事態に発展したのは、飲食店が国や自治体に対して不信感を募りに募らせた結果であるといえるでしょう。
飲食業界ではまだ他にも分断が起きています。
協力金の不平等感
協力金の金額は一律で、緊急事態宣言の間は1日6万円、緊急事態宣言の解除後からは1日4万円となっています。当初は、中小企業だけが対象となっており、大企業が対象となっていないなど大きな欠陥が見かけられました。現在は大企業も対象になっていますが、事業規模に応じて協力金が決まるのではなく、一律の金額となっていることに対して、飲食業界の中で大きな不満が起こっています。
飲食店には様々な業態があります。10坪足らずで数席だけの小さな店から、300席もあるような大箱までと幅広いです。数百円のファストフードや好きに食べて飲んで1000円台という店もあれば、グランメゾンや料亭、鉄板焼や鮨のように、3万円であれば決して高くないというファインダイニングもあります。月商でいえば、1億円という驚きの超ドル箱店舗から、100万円にも満たない職住一体かつ家族経営で成り立っている店もあるのです。
それなのに、緊急事態宣言が延長に再延長を重ねても、いつまでたっても同金額の一律配布しか行われていないのは、怠慢ではないでしょうか。大手飲食店グループやホテルなどに話を聞くと、1日6万円の協力金では足りないと、必ず不満が聞かれます。
小さい規模の飲食店に対して「協力金バブル」と妬みが向いたりすることも大きな問題。国や自治体の施策に不備があるだけで、飲食店自体は何も悪いことをしていません。個店は経営面で体力もないだけに、先行きが不透明なコロナ禍では不安しかないでしょう。経営資金に余裕をもって是非ともコロナ禍を乗り越えてもらいたいです。
「協力金バブル」と揶揄する論調は飲食業界を分断することになりかねません。メディアもそのような報道をしないように気を付けるべきです。協力金に不満があったとしても、批判の矛先が決して飲食店に向けられることがあってはなりません。
引き続き飲食店に対して厳しい姿勢
東京都は協力金の支給条件として、店舗ごとに感染症対策の責任者であるコロナ対策リーダーの登録を新たに求めています。
緊急事態宣言の解除後も、感染の再拡大を防ぐために、国は5本の柱からなる総合的な対策を決定しました。その5つの柱とは、「飲食を通じた感染防止対策」、「変異株の監視体制の強化」、「感染拡大の予兆をつかむための戦略的な検査の実施」、「安全・迅速なワクチン接種」、「次の感染拡大に備えた医療体制の強化」。
飲食店の対策が筆頭に挙げられるなど、引き続き飲食店に対しては厳しい見方がされているといってよいでしょう。
曖昧な感染防止徹底宣言ステッカーの項目
東京都では感染防止徹底宣言ステッカーが配布されていますが、自己申告であり、行われているとされる抜き打ち検査も、効果があるようには思えません。
チェックシートの項目には客観的に測定できる数値がほぼ記載されていないので、非常に曖昧であり、どの項目が遵守できているのかどうか判断するのが難しいからです。
東京都のホームページでは、ステッカーの意義が説明されています。
しかし、ステッカーを目安にして訪れている客がいる、もしくは、ステッカーが他の飲食店との差別化につながっているということは、本当にあるのでしょうか。私はそのようなデータを見たことがありませんし、飲食店に取材した限りではそのような声を聞いたことがありません。
曖昧な項目で構成されたチェックシートに記入し、誰でもダウンロードできるステッカーを貼り、検査が行われているかどうかも不明なステッカーに何の意味があるのでしょうか。
基準の不明確さによる不公平感
国も自治体も飲食店に対してあれこれ押し付けるものの、いまだに意味のある感染症対策を示していません。意味のある感染症対策とは、具体的な指針です。席数や席間隔の距離、飛沫防止板の材質や設置数、その大きさや厚み、換気の強弱や回数の基準、手洗いやアルコール消毒の程度など、客観的に理解できる基準が必要でしょう。
具体的なことが示されていないので、飲食店は何をどこまで行ってよいのかわかりません。そして、何十万円もかけてしっかり対策している飲食店が、ほとんど対策していない飲食店よりも、優遇されていない矛盾があるのです。
私も緊急事態宣言の中で色々な飲食店を取材していますが、店舗によって感染症対策は雲泥の差があります。飲食業界の中でも、対策を行っているところと、行っていないところとで、分断が生まれているのです。
国や自治体は、飲食店が感染の大きな原因であるとし、重点的に予防対策をするべきであるとして名指しするのであれば、より明確な対策案を示し、対策を行った飲食店に対しては十分な金銭的な支援も行うべきではないでしょうか。
飲食業界の分断を起こさない施策や報道を
飲食店は人がただお腹を満たして、必要な栄養を摂取するだけの場ではありません。人と人が食事を通してより親しくなったり、絆を深めたりする場所。誕生日や記念日を祝ったり、何かの節目に集まって気持ちをひとつにしたりと、飲食店は様々な用途に利用されます。
東京におけるミシュランガイドの星付き店は世界最多であり、美食都市として世界から知られているのは共通の認識。そして、ユネスコ無形文化遺産に登録された「和食;日本人の伝統的な食文化」はもちろん、黒毛和牛、醤油や味噌、日本酒など、日本の食は世界に向けて発信されているのです。
飲食店に大きな損害があれば、被害を受けるのは飲食店だけではありません。卸売業者や生産者など、飲食店につらなるサプライチェーンが甚大な影響を受けます。国や自治体、それにメディアには、日本の飲食業界が分断されることのないよう、飲食店に対してしっかりとした施策や報道を行っていただきたいです。