東京五輪に参加するのか、しないのか? 賛否両論で揺れる文在寅政権
韓国は東京五輪参加を巡って揺れに揺れている。昨日も国会本会議で与野党議員が金富謙(キム・ブギョム)首相に東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の公式ホームページの日本地図の竹島表記についての韓国政府の対応を質していた。
韓国政府は文在寅大統領自らが東京五輪への支持を表明していた経緯もあり、ボイコットする考えはないようだ。現に、文大統領の腹心である姜昌一(カン・チャンイル)駐日大使は6月14日、超党派でつくる日韓議員連盟の総会に出席し、「韓国政府は東京五輪・パラリンピックの成功に向けて緊密に協力していく」と、五輪参加を前提に韓国の協力を約束していた。
文大統領自身も初めて拡大会議に参加したG7(主要7か国首脳会議)が東京五輪を支持する声明を出したことや開会式に出席し、菅義偉首相との首脳会談を模索していることもあってボイコットする気はないようだ。実際、外交部もまた管轄の文化体育観光部も、さらに大韓体育協会もボイコットは念頭に置いておらず、参加のための準備を着々と進めている。
韓国政府の立場は「スポーツと政治は切り離すべき」で一貫している。事実、外交部の崔泳杉(チェ・ヨンサム)報道官は6月8日の定例会見で「政治とスポーツは分離すべきとの原則がある。東京五輪への不参加までは検討していない」と述べ、崔鍾建(チェ・ジョンゴン)第一次官もこの原則の下「政府としては東京五輪をボイコットする立場は取ってない」と、22日に開かれた国会外交統一委員会全体会議の場で語っている。
文化体育観光部も大韓体育協会も同様の立場だ。
黄熙(ファン・ヒ)文化体育観光部長官は6月21日、国会文化体育観光委員会全体会議で「政治とスポーツを分離して判断している」と答弁し、ボイコットの可能性を否定していた。同席していた李起興(イ・ギフン)体育協会会長も参加の方向で選手が練習に打ち込んでいると、ボイコットを想定していないことを明らかにしていた。
しかし、政府の意向とは裏腹に与野党問わず政界では東京五輪をボイコットすべきとの声が高まっている。
与党「共に民主党」では来年3月の大統領選挙に立候補を表明した丁世均(チョン・セギュン)前首相と李洛淵(イ・ナギョン)元首相、それに次期大統領最有力候補である李在明(イ・ジェミョン)京畿道知事が足並みを揃えて、ボイコットの声を上げている。
国際オリンピック委員会(IOC)のバッハ会長宛てに「韓国国内で五輪ボイコットを要求する世論が高まっているという点を深刻に受け止めてIOCが五輪精神に反する竹島表記を削除するよう直ちに介入することを求める」内容の書簡を送っていた李在明知事は6月9日、自身のフェイスブックで「東京五輪のボイコットを真剣に検討すべき時が来た」と、自身の心境を吐露していた。
(参考資料:韓国は与党も野党も菅政権の対応次第では五輪ボイコットへ!与党次期大統領最有力候補がIOC会長に直訴!)
野党「国民の力」からも「保守の中の保守」と称される黄教安(ファン・ギョアン)元首相が5月26日に自身のSNSに竹島表記を韓国に対する「黙過できない挑発である」とみなし、文在寅政権に対して「日本の独島挑発に強く対処せよ」と迫ったのを皮切りに羅卿瑗(ナ・ギョンウォン)元党院内代表や保守穏健の趙慶泰(チョ・ギョンテ)議員までもが日本が削除に応じない場合は「五輪ボイコットも考えるべきである」とボイコットに同調していた。
ボイコットの動きは地方にも拡散し、保守の牙城である慶尚北道の道議会が6月3日に、また、首都圏の京畿道の道議会が6月8日に地図から「竹島」が削除されない場合、「ボイコットも辞さない」との決議を採択していた。
(参考資料:保守の牙城・慶尚北道の知事も東京五輪地図の「竹島表示」でIOCに抗議)
ボイコットには直接触れていないが、慶尚南道の議会では与野党所属の議員47人が日本政府に「独島への野心を抑え、誤った過去を謝罪し、五輪を人類平和や互恵・平等など本来の原則に則って開催するよう求める」内容の決議を採択している。
さらに、韓国の全国市道議会議長協議会は6月21日、清州市内で臨時の会議を開き、東京五輪・パラリンピック大会組織委員会の公式ホームページの日本地図に独島を表示したことについて「政治的な意図がある」とし、日本政府に是正を要求していた。会議を主管した忠清北道議会の朴文熙(パク・ムンヒ)議長は「独島を日本の領土として表示したのはオリンピック精神に正面から反する行動」として直ちに削除するよう求めていた。
この他にも、与党を中心に韓国の国会議員132人が連名で日本の対応を糾弾する決議案を6月3日に提出している。
問題は世論の動向だが、この件では今月3度の世論調査が行われ、いずれも国民の半数以上がボイコットを支持していた。
保守系インターネット新聞「デイリアン」が6月第1週に行った世論調査では71.9%が、韓国社会世論研究所(KSOI)が6月5日から6日にかけて行った調査では67.6%が、韓国の公共政策・政治コンサルタント「ウイングコリアコンサルティング」が6月12―13日まで行った調査では53.3%がボイコットに賛成していた。
しかし、その一方で先月27日から始まった青瓦台(大統領府)への「東京五輪組織委員会が独島を日本の領土として表記を強行した場合、五輪不参加を宣言すべき」ことを求めた国民請願の賛同者は今日(23日)11時現在、7万6121人にとどまっている。
青瓦台への嘆願は今月26日までの1か月間に20万人に達すれば、文政権は対応しなければならないが、賛同者が1日平均2718人だと、残り3日間で20万人に達するのは不可能。約半分の10万人にも手が届かない。共感を得ていないどころか、国民の関心が薄いことの裏付けとなっている。
(参考資料:東京五輪への韓国人の複雑な反応 「ボイコット賛成」の世論調査とは真逆の国民請願の関心の低さ)
文政権としては政界の動向だけでなく、民意も見極めたいところだが、世論調査でもボイコットの賛成率が下がっていることなどから多少の反発はあっても竹島表記が削除されなくても、東京五輪に参加するものとみられる。
韓国はすでにバトミントン、体操、卓球など23種目で185人の選手が出場権を獲得している。