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ヨーロッパ女子クラブの発展と近年の世界大会に見る、女子サッカーのトレンド(1)

松原渓スポーツジャーナリスト
チェルシーLでプレーした永里優季(左)とアーセナルLでプレーした近賀ゆかり(右)(写真:アフロ)

12月末日、FA女子スーパーリーグ(イングランドにおける女子サッカーの最上位リーグ)のチェルシー・レディースFC(以下:チェルシーL)で監督を務めるエマ・ヘイズ監督を講師に招き、サッカー指導者や選手、女子チームの関係者らを対象に、都内で「女子サッカーのピリオダイゼーション」セミナーが行われた(主催はワールドフットボールアカデミー・ジャパン)。

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4つ目の講義では、まず、ヨーロッパで成功している女子クラブがどのように発展してきたか、ということが紹介された。

ヨーロッパの女子リーグでは、多くの国が日本とは異なるシーズン(秋春制)を戦っている。また、数億円単位の豊富な予算を確保しているクラブも多く、移籍市場も活発だ。つい最近では、女子のスペインリーグでレアル・マドリードが女子チームを創設する構想があり、20億円もの予算を確保している、というニュースも流れた。

世界でもトップクラスと言われるリヨン(フランス)やパリ・サンジェルマン(フランス)でも予算は5-6億円。レアル・マドリードの女子チームがどのような形で世界の女子サッカー界に一石を投じるのか、続報が楽しみである。

ヨーロッパ独自の大会と言えば、クラブのヨーロッパチャンピオンを決める「女子チャンピオンズリーグ」がある。近年、世界大会でも上位を占めるヨーロッパの女子クラブがどのような発展を遂げているのか、ここでは興味深いデータと分析が示された。

【ヨーロッパの女子クラブのサッカーがどのように発展してきたか】

まず、ヨーロッパでもビッグクラブと言われる女子クラブの予算と年間のリーグ試合数などが示された。

ヨーロッパの女子ビッグクラブのデータ ※1ユーロ=120円で計算(データ作成:松原渓)
ヨーロッパの女子ビッグクラブのデータ ※1ユーロ=120円で計算(データ作成:松原渓)

このデータ(表)から分かることは…

・ドイツやフランスのクラブがCLで優勝しているが、2か国のリーグはシーズン中にリーグ戦を22試合以上、戦っている。

・パリ・サンジェルマンやリヨンは5億円以上の予算がある。

・イングランドではマンチェスター・シティやアーセナルが大きな予算を持っており、ヨーロッパのクラブのトップクラスであるが、リーグ戦は16試合しかなく、4月から10月までの運営なので、ヨーロッパの主要国のリーグとシーズンの時期も異なる。

※ これまで、チェルシーLが参加しているFA女子スーパーリーグは4月から10月の春秋制をとっていたが、女子チャンピオンズリーグのスケジュールが春に行われることも考慮し、今後は段階的に、男子と同じ秋春制に変更される予定。

また、以下のような統計もある。

【ヨーロッパ(欧州選手権)で勝っている国と、チャンピオンズ・リーグ(以下:CL)で勝っているクラブには繋がりがある】

02年は欧州選手権でドイツが優勝し、同年のCLでフランクフルト(ドイツ)が優勝。

03年のワールドカップ決勝にスウェーデンが進出し、同年のCLはウメオIK(スウェーデン)が優勝。

05年は欧州選手権でドイツが優勝し、同年のCLでポツダム(ドイツ)が優勝。

09年は欧州選手権でドイツが優勝し、同年のCLでデュイスブルク(ドイツ)が優勝。

13年は欧州選手権でドイツが優勝し、同年のCLでヴォルフスブルク(ドイツ)が優勝。

このデータから分かることは…

・女子ではクラブレベルでも代表戦でも、ドイツのチームが非常に強い。

・ここ6年間ぐらいで、フランスのクラブやフランス代表が力をつけてきている。

【ヨーロッパで成功しているチームが持っている要素とは?】

・代表チームの国際大会における成功は、CLで優勝することと密接な関わりがある。

・女子のクラブは、男子のクラブが成功していると、勝つ可能性が80パーセントにもなる。ヨーロッパで活躍している男子のクラブの女子チームが今後さらに力をつけてくるのではないかと考えられる。

・CLで勝っているチームは、7月から5月にかけてのリーグ戦を戦っている。

・CLでチャンピオンになったすべてのチームは、少なくとも23人のプロ選手を抱えている。ただし、トレーニングの質を上げるためには、人数も重要。たとえば練習の中の11対11の練習のクオリティを上げることが、ヨーロッパで勝つためには必要。

・8人以上の選手が3年間以上一緒にプレーしている。

・リーグ戦を通じて、勝つことと負けることの両方の経験を持っている。

・経験、強さ、リーダーシップを備えた選手がいる。

(チームとしての戦略)

・3年以上の契約をすることが大切。選手の入れ替えが激しいと、そのチームの文化を築けなくなるため。

・すべてのチームが女性用のスタジアムを持っているわけではないが、スタジアムの重要性もあると考える。

・多くのクラブは、男子のトップチームと共にあるが、女子にもブランドをつけていくことが大切。

(ビジネス面)

・過去、CLで勝っているチームは3.6億円(※1ユーロ=120円で計算)以上の予算を持っているチームが優勝している。この数年を分析すると、より女子サッカーにお金が投資されていると考えられる。

・男子チームで経験があるスタッフが女子チームに出向し、チームの方向性について検討、決定をしている。そうすることで、クラブの規模をより大きくしようとしている。

【4】(2)【2015年のカナダ女子ワールドカップのトレンド】に続く

プロフィール: エマ・ヘイズ監督

2001年以降、アメリカとイングランドで指導実績を重ね、2006年からはアーセナル・レディースのアシスタントコーチとして、リーグカップとプレミアリーグ、UEFA Women's Cup(ヨーロッパ・チャンピオン)、FAカップを獲得。2012年、英国女子サッカー界、唯一の女性プロ監督としてチェルシーLに迎えられると、2015年にはクラブ史上初のFA WSL(イングランド女子スーパーリーグ)とFAカップの2冠を成し遂げた。

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スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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