チェルシーレディースが2冠を達成したトレーニングメニューを公開!(2)
12月末日、FA女子スーパーリーグ(イングランドにおける女子サッカーの最上位リーグ)のチェルシー・レディースFC(以下:チェルシーL)で監督を務めるエマ・ヘイズ監督を講師に招き、サッカー指導者や選手、女子チームの関係者らを対象に、都内で「女子サッカーのピリオダイゼーション」セミナーが行われた(主催はワールドフットボールアカデミー・ジャパン)。
チェルシーレディースが2冠を達成したトレーニングメニューを公開!(1)
ヘイズ監督は、「サッカーのピリオダイゼーション」理論の考案者であるレイモンド・フェルハイエン氏のコースで学んだ知識から、6週間サイクルのピリオダイゼーションを独自に考案し、2014シーズンから、シーズンを通して採用した。
「まず、なぜ6週間のサイクルで行うのか、いつ、何を行うか?ということをシンプルに理解させました。トレーニングは週2回が通常でしたが、選手の仕事もスケジュールがバラバラなので、週3、4回練習できる選手もいました。ある選手はチームの全体トレーニングとは別に、もっとトレーニングをしたいと主張し、負荷のコントロールが難しくなりました。このような環境をそのままにしておくと、多くの失敗が起こってしまいます。選手を教育する上で重要だったのは、自分の意見ではなく、客観的な意見を伝えることです。データや映像、科学的根拠を示して、なぜ、このようなトレーニングをするのか、説明をしました。」(ヘイズ監督)
【1つ目のピリオダイゼーション(ヘイズ監督が独自に考案したプラン)】
※選手はパートタイムで働きながら、週2回の全体トレーニングを行う。
日曜日:試合(公式戦)
月曜日:参加できる選手はアクティブリカバリー。参加できない選手はオフ。
火曜日:全員参加で、ゲーム形式のトレーニング(広範囲のパス、ポゼッション、ゲーム)。強度は低く。翌日の強度の高さを基にして決める。
水曜日:ゲーム形式
木曜日:オーバーロード(過負荷)のトレーニング
金曜/土曜:オフ
このピリオダイゼーションを導入したチェルシーLは、2014年にリーグ2位になった。
「パートタイムの選手たちを多く抱える中で、まずはケガを防ぎ、常にベストメンバーでトレーニングできるようにすることが目的でした。初めはなかなかうまくいきませんでしたが、学びながら、少しずつ慣れていきました。(ピリオダイゼーションを導入した)1年目に優勝することはできませんでしたが、私はチェルシーレディースのサッカーの基礎を築けたと感じました。そして、幸運なことにその後、チェルシーFCが多くの予算を女子にも費やしてくれることになり、選手たちはパートタイムで働く必要がなくなり、フルタイムでプレーできるようになったのです。そして、翌年、私は世界一優秀な指揮官と仕事をすることができました。ジョゼ・モウリーニョです」(ヘイズ監督)
【戦術的ピリオダイゼーション(モウリーニョ氏のプラン)】
2015年シーズン、ヘイズ監督は、それまで使っていたピリオダイゼーションのプランを変更。当時、チェルシーFCの指揮官であったジョゼ・モウリーニョ氏が採用していた「戦術的ピリオダイゼーション」のモデルをチェルシーLで採用した。
そのモデルが以下である。
※選手はフルタイムでプレーできるようになったため、練習は週7日間行うことができる。
日曜日:試合(公式戦)
月曜日:オフ(イングランドでは、試合の後はお酒を飲む習慣があり、試合翌日はオフにする文化があることを考慮した)
火曜日:午前:リカバリー+モビリティ/午後:プール(リカバリー)
水曜日:午前:ゲーム形式(戦術)/午後:ジャンプなどのトレーニング(低負荷)、ジムでの筋力トレーニングなど(個別メニュー)
木曜日:午前:ゲーム/午後:コンディショニング
金曜日:戦術/狭いスペースで最大のスピード、スプリントを発揮させるトレーニング
土曜日:試合に向けた戦術的な準備/低負荷のトレーニング
前年のスケジュールと違うのは、リカバリーの日を月曜から火曜に変更したことである。
このスケジュールを使い、チェルシーLはリーグ戦で勝っていたが、ヘイズ監督は次第に問題を感じるようになっていった。それは、水曜日のトレーニングの質が下がってしまったことだ。
「私は質にこだわったトレーニングをしたいと考えていたので、水曜日のトレーニングを無駄にしている状態は問題でした。モウリーニョがこれでいいというのであれば、満足するべき?いいえ、そうではありません。この時に分かっていなかったことは、女性の回復の仕方が男性とは違うということです(※3章にて詳述)。おそらく、その状態を続けていると、どこかの時点でフィットネスが下がって、筋肉系の損傷が増えてくるのではないかと考えました。」(ヘイズ監督)
そこで、ヘイズ監督は再度、「すべてのトレーニング、ゲームを100%で行う」という、レイモンド・フェルハイエン氏の理論に立ち返り、そのピリオダイゼーションをチェルシーLに適用させたプランを考案した。
ヘイズ監督が最終的にスケジュールを変更する決断を下したのは、リーグ戦5試合が終わった時だ。チームが勝っている中での変更は、思い切った決断と言える。
【変更後のスケジュール(レイモンド・フェルハイエン氏のピリオダイゼーションをチェルシーLに適用させたプラン)】
モウリーニョがチェルシーFCで採用している戦術的ピリオダイゼーションに、ヘイズ監督がさらなる改善を加えて、採用したスケジュールが以下である。
※練習は週7日間
日曜日:試合(公式戦)
月曜日(60-75分):個人差(試合に出た時間や年齢等)を考慮したリカバリー/サブの選手のコンディショニング
火曜日:オフ
水曜日(90分):午前:戦術トレーニング、クールダウン/午後:個別メニュー
木曜日(90分):午前:コンディショニング、クールダウン/午後:個別メニュー(モビリティ)
金曜日(60-75分):戦術トレーニング、クールダウン
土曜日(45-60分):戦術トレーニング、クールダウン
新しいスケジュールでは、リカバリーを再び、月曜日に戻した。その理由は、女性は男性とは回復の仕方が違い、月経周期によるコンディションの変化なども関わってくるため(3章にて詳述)「疲労物質を早く体外に出すことが大切だと考えた」(ヘイズ監督)結果だった。
「勝ち続けている時になぜスケジュールを変えるのか、客観的な情報に基づいて選手に伝えることが大切でした。『女性はリカバリーのためにこのようなトレーニングが必要だから』と、科学的な根拠に基づいて伝えました」(ヘイズ監督)
スケジュールを変更した後もチェルシーLは勝ち続け、この年(2015年)、リーグ優勝とFAカップ優勝の2冠を達成した。
現在、チェルシーLが採用しているピリオダイゼーションは、実践の中で培われた、女性の身体的な特徴を考慮して作られたスケジュールなのである。
【2】15日間で4試合。ハードスケジュールを勝ち抜いたマネジメントとは?
【3】(1)【女子選手に特徴的なコンディションの変化とケガ対策】
【4】(1)【ヨーロッパの女子クラブのサッカーがどのように発展してきたか】
【4】(2)【2015年のカナダ女子ワールドカップのトレンド】
に続く
プロフィール: エマ・ヘイズ監督
2001年以降、アメリカとイングランドで指導実績を重ね、2006年からはアーセナル・レディースのアシスタントコーチとして、リーグカップとプレミアリーグ、UEFA Women's Cup(ヨーロッパ・チャンピオン)、FAカップを獲得。2012年、英国女子サッカー界、唯一の女性プロ監督としてチェルシーLに迎えられると、2015年にはクラブ史上初のFA WSL(イングランド女子スーパーリーグ)とFAカップの2冠を成し遂げた。
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