15日間で4試合。ハードスケジュールを勝ち抜いたマネジメントとは?
12月末日、FA女子スーパーリーグ(イングランドにおける女子サッカーの最上位リーグ)のチェルシー・レディースFC(以下:チェルシーL)で監督を務めるエマ・ヘイズ監督を講師に招き、サッカー指導者や選手、女子チームの関係者らを対象に、都内で「女子サッカーのピリオダイゼーション」セミナーが行われた(主催はワールドフットボールアカデミー・ジャパン)。
チェルシーレディースが2冠を達成したトレーニングメニューを公開!(1)(2)
ピリオダイゼーション(※)を取り入れ、2014年のシーズンでリーグ戦2位という結果を残したチェルシーLは、2015年からチームの予算が増加。選手はパートタイムではなく、フルタイムでプレーできるようになった。
そして、翌2015年のシーズンはさらなる躍進を遂げた。リーグ戦とFAカップの両タイトルを獲得し、シーズン2冠を成し遂げたのだ。FAカップの決勝戦は、ウェンブリースタジアムで行われ、33000人の観客が詰めかけた。勝利を重ねる中で、チェルシーLの選手たちの意識も次第に変化していったという。トップレベルの選手が移籍してくるようになり、チームを取り巻く環境も変化した。
(※)毎試合にコンディションのピークを迎えて、最高のパフォーマンスを発揮するために、年間のトレーニングを期分けして、それぞれのステージでのトレーニングやコンディショニングを有機的に組み合わせる年間スケジュールを構築する理論のこと。
【15日間で4試合。ハードスケジュールを勝ち抜いたマネジメントとは?】
2015年のチェルシーLにとって、リーグ戦とカップ戦の2つのタイトルを目指す上でハードルとなったのが、「15日間で4試合」という過密日程だった。
2つ目の講義では、ピリオダイゼーションを活用してその日程をどのように乗り切ったか、という、実践的な内容が紹介された。
「リーグ戦とFAカップの優勝がかかっていたので、この15日間をどうマネジメントするかは私にとって非常に難しいチャレンジでした。重要なことは、選手が十分な休養を取った上でトレーニングに臨むことです。」(ヘイズ監督)
ヘイズ監督は、この15日間を乗り切るためのスケジュールをチームに提示した。
スケジュール内容の検討において、以下のポイントを重視したという。
(スケジュール内容を決める上で考慮したポイント)
・練習内容を決める上で、勝敗によって感情的にならない。
・トレーニングは、選手の疲労を蓄積させない程度に行う(年齢の高い選手は通常の50パーセントの負荷で行うこともあった)。
・4連戦の初戦と最後の試合を同じコンディションで戦わせる。
・試合の結果や疲労度によって、スケジュールは柔軟に変化させていく。
また、各選手は年齢や、けがの既往歴に違いがあり、先発か控えかといった個人差もあるため、トレーニングプランは個別に作成した。個別のトレーニングメニュー作成にあたり、強度を決める上で重視したポイントは以下である。
(選手個々のトレーニング負荷を決める上でヘイズ監督が重視したこと)
・4試合すべてに出る選手もいれば、1試合しか出ない選手もいる。
・選手によって体の作りが違うため、回復にかかる時間もバラバラ(年齢を重ねた選手は回復に時間がかかる)。特に、試合で爆発的な力を発揮できる選手が4試合を戦う場合は注意を払う。
・ケガを抱えている選手は、それまでのケガの履歴も考慮する(選手には連戦の前に「ケガ人が少ないほど勝つ可能性が高い」ということを意識させ、筋肉疲労の症状をスタッフに細かく伝えさせるようにした)。
・ポジションによって、負荷が異なる(フォワードやセンターバックなど、センターラインでプレーする選手とサイドでプレーする選手、また、ボランチの選手など、ポジションごとに試合中にかかる負荷や動きは異なる)。
・月経周期が女性によって違う(※3章にて詳述)。連戦の中で月経周期の選手がいる場合は、そのことも考慮して、プレーさせるかどうかを考える。
・先発の11人、サブの選手、ベンチに入らない選手の3グループに分けてトレーニングを分け、リカバリーの負荷を変える。先発の選手は回復させなければならず、サブの選手はフィットネスが下がらないようにする。
・試合でプレーしなかった選手はトレーニングによる刺激が必要になるが、負荷をかけすぎないように気をつける(次のトレーニングを疲労した状態で始めることは避ける)。
・女子選手は特に、背中の可動域を広げることと柔軟性が大切。トレーニングは時間をかけて広範囲に、ゆったり行う。
・選手によっては、トレーニングの後にプールでさらにリカバリーさせる。
【連戦を通じて得た反省点】
チェルシーLは、この4連戦を2勝1分1敗で乗り切った。その結果、タイトル獲得のための重要な試合を落とすことなく、リーグ戦とカップ戦の2冠を獲得した。
ヘイズ監督は、4連戦をこのように振り返る。
「2週目のリーグ戦(4月30日)で、私たちは20年間で初めてアーセナルに勝ちました。選手たちの感情がどのようになったか、想像できますか?彼女たちは寝ることができたでしょうか。翌週月曜日に試合があるので、試合の翌日にオフを与えることにはリスクもありましたが、私はオフにする決断をしました。3週目の月曜(マンチェスター・シティ戦)は、カップ戦準決勝だったので、90分間で決着がつかない場合は120分間になることも考慮しましたが、最終的には89分に得点が決まって勝ちました。最後のマンチェスター・シティ戦は、リーグ戦の優勝を決める試合で、負けられない試合でした。試合前の3日間は戦術トレーニングをしましたが、時間は短くしました。ただ、結果的に、この最後の試合は(1−1で引き分けたものの、)選手たちのアクションの数が減ってしまいました。もう一度やり直して良いのであれば、この最後の3日間のどこかでオフを与えても良かったと思います。ここでオフを与えることは、脳の疲労を回復させる上で大切だったからです。」(ヘイズ監督)
【3】(1)【女子選手に特徴的なコンディションの変化とケガ対策】
【4】(1)【ヨーロッパの女子クラブのサッカーがどのように発展してきたか】
【4】(2)【2015年のカナダ女子ワールドカップのトレンド】
に続く
プロフィール: エマ・ヘイズ監督
2001年以降、アメリカとイングランドで指導実績を重ね、2006年からはアーセナル・レディースのアシスタントコーチとして、リーグカップとプレミアリーグ、UEFA Women's Cup(ヨーロッパ・チャンピオン)、FAカップを獲得。2012年、英国女子サッカー界、唯一の女性プロ監督としてチェルシーLに迎えられると、2015年にはクラブ史上初のFA WSL(イングランド女子スーパーリーグ)とFAカップの2冠を成し遂げた。
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