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リーグカップ4強が出揃ったWEリーグ。大会2連覇を目指す広島の快進撃を支える“勝ち癖”と堅守

松原渓スポーツジャーナリスト
広島が連覇への階段を上った(写真提供:WEリーグ)

 WEリーグカップは、4強が出揃った。

 グループAは、昨季カップ戦王者の広島、グループBは、昨季カップ戦準優勝の新潟が、それぞれ2大会連続決勝への階段を一段上がった。グループCは、首位の神戸が僅差の競り合いを制して初のカップ戦準決勝へ。もう1チームは、リーグ王者として女子ACLに出場しているため、予選免除の浦和がトーナメントの一角を占める。

 4チームは、10月にグランドオープンしたばかりの長崎市のピーススタジアムで、12月8日に準決勝を行う。決勝は同29日に国立競技場で行われる予定だ。

【際立った広島の堅守】

 グループステージ最終節まで、どこが勝ち上がるかわからない白熱した攻防となったカップ戦。中でも、味の素フィールドで行われた東京NBと広島の一戦は、リーグ戦でも上位争いを繰り広げる両者による、見応えのある90分間だった。

 広島は今季、中村伸監督の後を引き継いで指揮を執る吉田恵監督の下、開幕から快進撃を続けている。リーグ戦は現在5連勝中で、首位を狙える3位につけている(消化試合数が少ない)。今季敗れた唯一の試合が、カップ戦第3節の東京NB戦(0-2)だった。

 一方、昨季無冠に終わった名門・東京NBは、今季は第2節から6連勝中で2位と好調だ。リーグ戦7試合で22得点とぶっちぎりの得点力を見せ、名門復活への道を辿っている。

 引き分け以上で準決勝に進出できる広島と、勝利が必要な東京NB。両チームとも個人の技術と組織の練度が多く、ボールがラインを割る時間が少なく、緊張感が途切れなかった。その中で、今季の好調を裏付けるパフォーマンスを見せたのが広島だ。

 東京NBにどれだけ押し込まれても、堅守が破れる気配はなかった。コンパクトな守備で高い位置からプレッシャーをかけ、ロングボールに対しては最終ラインの左山桃子、中村楓、呉屋絵理子の3センターバックを中心に、細やかなラインコントロールと強度の高い対人守備で対応。

「押し込まれても失点しないことで、自分たちのペースに持っていけると話していました」

 試合は吉田監督が見越した通りの展開となり、50分に広島が均衡を破った。巧妙にパスの出しどころを消して最前線の柳瀬楓菜がボールを奪うと、逆サイドから走り込んだ李誠雅が柔らかいタッチでゴールに流し込む。

李誠雅(写真提供:WEリーグ)
李誠雅(写真提供:WEリーグ)

 1点をリードした後は、しっかりと守備を安定させながら試合をコントロール。62分には左サイドのクロスがオウンゴールとなって同点となったが、それ以上の失点は許さず、アウェーに駆けつけたサポーターに準決勝進出の朗報を届けた。

【積み上げの成果と吉田新体制の強み】

 今季、広島の躍進を支えているのが堅守であることは、東京NBのシュート数を今季最少の8本に抑えたことからも明らかだ。

「ベレーザさんに(攻撃面で)質の高さを見せつけられましたが、相手のスピードに慣れて目線を変えられるようになって、狙いを持って奪ってカウンターというシーンを何度も作れました」(吉田監督)

 2021年の創設メンバーから主軸が大きく変わらない中、中村監督時代から積み上げてきた戦術的柔軟性や、ゲームマネジメントを、今季は吉田監督の下でより結果に反映させている印象だ。就任時に「全員で戦う」ことを掲げ、平等にチャンスを与えながら結果を残してきた吉田監督の選手起用も一体感を高めているはずだ。

吉田恵監督(写真提供:WEリーグ)
吉田恵監督(写真提供:WEリーグ)

 今季のチームの強さのポイントとして、吉田監督は「勝ち癖」と、その要因をこう説明した。

「押し込まれた状態でも、守備がしっかりできれば勝ち点を稼げるし、カウンターでも点が取れる。主導権を握る試合も増えて、得点さえ取ればゼロで抑えられる自信がついてきたことが一番大きいと思います」

 練習では、走るメニューや対人のメニューが増えているという。最終ラインを束ねる左山は、言葉に自信をみなぎらせた。

左山桃子(左)と立花葉(右)(写真提供:WEリーグ)
左山桃子(左)と立花葉(右)(写真提供:WEリーグ)

「練習の中でもチーム全員が120%出し切りながら、守備も攻撃も強度高く練習に励んでいるからこそ、今シーズンの戦いができています。誰が出ても強いレジーナが見せられると自信を持って言えるので、そこは強みだなと感じています」

 守備の安定に、攻撃も応えている。流れの中とセットプレー、どちらでも点を取ることができ、今季公式戦12試合で10人がゴールを決めた。

 攻撃の軸を担う上野真実は、「練習からの競争でいい雰囲気が作れていることが試合につながっている」と話した。

 リーグ戦では3シーズン中位が定着していたが、今季は満を持して3強に食い込み、リーグ戦とカップ戦のタイトルを狙いにいく。

上野真実(写真提供:WEリーグ)
上野真実(写真提供:WEリーグ)

【白熱必至の準決勝。懸念は…】

 広島が準決勝で戦う相手は、昨季リーグ王者の浦和だ。今週末の9日には、リーグ戦でその浦和と相見える。カップ戦の前哨戦で、今季を占う注目の一戦が盛り上がらないわけがない。両サポーターの応援合戦にも注目したいところだ。

 カップ戦で一つ懸念されるのは集客だ。準決勝が行われる12月8日は、Jリーグ最終節と日程が重なっている。広島、新潟、浦和のサポーターは難しい選択を迫られることになる。

 すでに当事者のサポーターからも声が上がっているが、「スタジアムに行きたい人が行けない」状況は、集客を課題に掲げるリーグの施策としてはいただけない。このグループステージ最終節も、5会場での平均観客数は501人と苦戦している。

 10月末には、代表戦とカップ戦の日程が重複して議論を呼んだばかり。WEリーグはサポーターやクラブの声にどう応えていくのか、成り行きを見守りたい。

日程調整の課題は解消されるのか(写真提供:WEリーグ)
日程調整の課題は解消されるのか(写真提供:WEリーグ)

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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