“受け身”の殻破り、今季占う大一番制した浦和。リーグカップで広島と再戦へ、問われるWEリーグの覚悟
【勝ち続けるために必要な「脱皮」】
WEリーグの上位争いを占う大一番を制し、"殻”をひとつ破った。
11月9日、浦和駒場スタジアムに3位(暫定)の広島を迎えたリーグ第8節。同4位の浦和は、負ければ優勝争いから一歩後退する節目の一戦だった。
リーグ連覇とACL制覇に挑んでいる今シーズン。主力のケガ、得点王になった清家貴子の海外挑戦など、チーム編成には苦労の跡が見られるが、10月の女子ACLグループステージは順当に勝ち上がり、カップ戦はレギュレーションにより予選免除で準決勝進出が決定。リーグ戦も、上位はキープしてきた。だが、昨年女王には目に見えない「壁」があった。
「強いと言ってもらっているのは去年のチームであって、今年はまだ何も成し得ていないのに、受け身になってしまっている。そこは、もう一つ脱皮しなければいけないと思っています」(楠瀬直木監督)
昨季、左サイドバックで圧倒的な存在感を見せた水谷有希(ケガで離脱中)の穴や、得点王になった清家が抜けた右サイドハーフのポジションには、ユース出身の若手選手たちや、大卒の後藤若葉ら新戦力が名乗りを上げている。だが、1試合平均2.5得点を挙げた昨季の得点力は影を潜めたままだ。
ホーム開幕戦となった9月末のINAC神戸戦で0-1の敗戦。リーグ戦20試合ぶりとなる無得点試合に危機感を募らせた。さらに11月3日の前節・N相模原戦ではボールを保持しながら先制を許し、終盤にパワープレーで追いつく「負けに等しい引き分け」を強いられた。
【堅守を破ったスーパーゴールと意地の2点目】
「受け身になってしまう」停滞感を打ち破るために、楠瀬監督がこの試合で打った策。それが、センターバックの高橋はなを最初から最前線で起用することだった。N相模原戦のような緊急措置ではなく、この試合に関しては一貫したメッセージが込められていた。
「パスを100本つないでも1点も入らないので、まずはそこ(最前線)にいくところから(得点のきっかけを)見つけ出していこうと。あとは選手の特徴と、相手は何をやられたら嫌かを考えました」(楠瀬監督)
帰陣が速く、堅守が強みの広島に対して、攻撃の手数をかけずにロングボールを入れていく。その戦略が一つのカンフル剤になった。
前線で高橋が強さを見せ、セカンドボールは1.5列目の塩越柚歩と伊藤美紀、ダブルボランチの柴田華絵と角田楓佳らが先手を取り、主導権を握った。高橋が本来はいるはずのセンターバックにはユーティリティプレーヤーの長嶋玲奈が入り、左サイドバックにはボランチの栗島朱里がスライド。各ポジションのピースはしっかりとハマっていた。
しかし、ラインコントロールや立ち位置を柔軟かつ繊細に整える広島の守備は、簡単に崩れそうにない。
決定的なシーンを作ることはできずに前半を折り返したが、後半、指揮官が「リズムを変えて、さらに前へ」とメッセージを込めて前線にルーキーの藤崎智子を投入すると、試合が動いた。
61分、栗島からのパスを藤崎がワンタッチで落とし、塩越が右足のダイレクトボレーで鮮やかにゴール右上を撃ち抜いた。10月の韓国戦で代表復帰を果たした塩越の真骨頂が発揮されたゴールだった。
「パスという選択肢を考えずに、本能的に足を振りました。あれだけ点を取ってくれた(清家)貴子がいなくなってケガ人も多いですし、自分が何とかしないと、という気持ちで臨んでいます」(塩越)
その言葉通り、今季は6試合でチームトップの3得点。難易度の高いスーパーゴールが多く、いずれも先制点だ。
さらに、73分には交代で入った島田芽依がみせた。左コーナーキックで、塩越のキックに中央からニアに走り込んで合わせて2-0。
島田は昨季、9得点で得点ランキング3位と飛躍したが、今季は開幕戦以来ゴールがなく、この試合はリーグ戦では16試合ぶりのベンチスタートに。浦和の未来を担う22歳のFWはもがき、目の色を変えていた。ホーム初ゴールで勝利を引き寄せ、サポーターの熱い祝福も受けたが、試合後は安堵とともに、反省の弁があふれた。
「(先発を外れた悔しさは)もちろんありました。(高橋)はなさんを見ていて、自分に足りないことばかりだなと思いました。昨シーズンも前期は0点でしたが、今シーズン、開幕戦を取ってからその感じが蘇ってきて嫌な感じはあったんですけど、やっと(点が)取れました。ここで終わるようじゃ、試合には出続けられないと思っています」(島田)
試合は広島の反撃を1点に抑えた浦和が、2-1で今季ホーム初勝利を飾っている。大一番で決めるべき選手が決め、「受け身」の殻を一つ破った。この勝利は勝ち点3以上の意味を持ちそうだ。
【集客1、2位を争う両者の再戦。試合後に掲げられた横断幕の意味】
試合前に印象的なシーンがあった。試合後、浦和のゴール裏に掲げられた応援幕だ。
「12/8カップ戦準決勝 Jリーグとの共存は夢のまた夢なのか」
「培った絆を壊してまでWEリーグが叶えたい未来とは?」
その訴えかけの背景には、浦和と広島が再び合見える12月8日のカップ戦準決勝(会場は長崎ピーススタジアム)が、Jリーグ最終節と日程が重なっていることがある。
昨季に続き、集客でトップを走る広島(ホーム平均観客数は3558人)と、2位で追い上げる浦和(同3012人)。男女トップチームを盛り上げてきた両サポーターが分散することは明らかで、残念な限りだ。観客だけでなく、メディアも分散するため、露出の機会は限られるだろう。
ピーススタジアムでの開催は、高田春奈前チェア肝入りの決定だったとも聞く。9月にはリーグの体制が変更になり、現在はJリーグの野々村芳和チェアマンがトップを兼任しているが、さまざまなしがらみがある中で、日程の再調整は難しかったということだろうか。
試合後の記者会見では、両監督に、日程に関する質問が飛んだ。
「今日は男子のサポーターも駆けつけてくれました。8日(のJリーグ最終節)は大一番になる可能性も高いですし、今日来ている方がどれだけ応援に来てくださるかわかりません。それでも、応援してくれているサポーターの思いを持って、選手は戦ってくれると思います」
広島の吉田恵監督がそう言葉を紡げば、楠瀬監督も複雑な表情で思いを吐露した。
「もうちょっと誰かが音頭を取って(WEリーグ)全体を盛り上げることをしていかないと、もったいないなと。Jリーグも大事な試合なので、『(応援に来てもらうために)どうしたらいいでしょう?』と聞きたいです。僕らもそういう意見をWEリーグの方々とディスカッションする場があるので、遠慮なく言い合っていい方向に向けていかなければいけないのかなと思います」
今季はオリンピックやワールドカップなどの国際大会がなく、女子サッカーへの注目度を維持するために、リーグが集客面でも地力をつけていく必要がある。JFA(日本サッカー協会)が2031年の女子ワールドカップの招致を掲げる中、長い目で見てどのように国内女子サッカーを盛り上げていくのか、WEリーグの覚悟が問われている。