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N相模原がWEリーグ女王・浦和から奪った価値ある1点。中2日でカップ戦は佳境へ

松原渓スポーツジャーナリスト
浦和をホームに迎えたN相模原が健闘

【空気を変えた先制弾、維持を見せた同点弾】

 3連覇を目指す女王が、苦戦を強いられた。

 代表戦によるスケジュールの空白を経て、11月3日に相模原ギオンスタジアムで行われたWEリーグ第7節。最下位に沈んでいたN相模原が、10月から続いた広島、神戸、東京NBとの強豪4連戦を締めくくる一戦でリーグ2連覇中の浦和をホームに迎えた。

 ここまで3連敗と結果が出ずに苦しんできた中、WEリーグで未だ勝利したことがない最大の難敵との戦いは苦戦必至にも思えた。その浦和は圧倒的な攻撃力とゲームマネジメント力を武器に、今季は公式戦8試合で1失点しかしていない。強豪アウェーから大勢のレッズサポーターが詰めかけた中、選手たちは厳しい戦いを覚悟していたはずだ。

 予想に違わず、ボールは浦和が握る時間が多くなった。だが、N相模原は立ち上がりからハードかつ集中した守備を見せ、攻撃では右サイドバックの浜田芽来が積極的なオーバーラップで相手の背後を狙い続けた。

 会場の空気が変わったのは、37分の先制弾だ。

先制点のシーンで決定的な仕事をした大竹麻友(赤いユニフォーム)
先制点のシーンで決定的な仕事をした大竹麻友(赤いユニフォーム)

 ケガ明けで今季初出場を果たしたN相模原のGK久野吹雪のロングキックから始まった攻撃。中央で20歳のエース候補・榊原琴乃が3人を引きつけ、右を走った南野亜里沙につなぐ。南野がワンタッチで前に送ると、バイタルエリアに進入した大竹麻友がボールに歩幅を合わせながら絶妙のタッチで前を向いた。ここで、手薄になった左サイドのカバーに入った浦和のセンターバックコンビ、高橋はなと長嶋玲奈の間を通すスルーパス。

 そこに走り込んでいた川島はるなが、立ちはだかったGK池田咲紀子の右脇のわずかなスペースを、精緻な右足のシュートで射抜いた。

川島はるな
川島はるな

 歓喜に沸くN相模原ゴール裏。喜びを噛み締めるような表情でガッツポーズを見せる川島に、チームメートが次々に飛びついた。

 だが、後半は浦和が猛反撃。ボールを支配され、押し込まれたN相模原は、最終ラインの大賀理紗子や、長嶋洸、南里杏を中心にギリギリで食い止めていたが、終盤、浦和はフィジカルと得点力に長けた高橋を最前線に置くパワープレーを発動すると、ついにその牙城が崩れた。89分、エリア内で高橋がワンチャンスを生かして追いつき、勝ち点1を分け合うこととなった。

高橋はな
高橋はな

 試合の終わり方とは裏腹に、試合後の表情は対照的だった。

「負けに等しい引き分けだなと。攻撃の質、思い切りの良さなど、慎重になりすぎたところもあると思う」

 浦和の楠瀬直木監督は主力と若手、それぞれがさらに成長していく必要性を説いた。ケガ人の影響で連戦でベストメンバーが揃わないチーム事情もあるが、女王に期待されるのは、「結果を残しながら成長し続ける」ことだ。

「もう一度自分自身を見つめ直したい」。浦和の得点源でもある島田芽依の目に光るものが見えた。

島田芽依(左)と平田ひかり(右)
島田芽依(左)と平田ひかり(右)

【堅守は攻撃と表裏一体】

 一方、N相模原が得た手応えは大きかったようだ。鉄壁を破った先制点には、その価値があった。判断、距離感、パスやトラップ、シュートの精度。一つでもズレれば決まらなかったゴールだろう。

 小笠原唯志監督は、「人数をかけてショートパスを崩すうちの特徴を、カウンターで生かすことができた」と、積み上げてきた成果を強調。浦和の攻撃傾向を分析してこの試合に向けて考え抜いたシステムや、守備の狙いがはまった手応えを口にした(詳細は「企業秘密」とのこと)。

 また、練習では攻撃の練習を重視。「攻撃が分かれば、相手がどうしてくるか、(守備の仕方が)わかる」と、表裏一体となる攻守の戦術理解を深めてきた。

 球際の強度は、昨年よりも上がっているように見える。その“基準”を示してきた一人が川島だろう。体格面では小柄な方だが、アプローチのタイミングと強さを磨き、昨年は守備デュエル回数でランキングトップを維持した時期もあった。

「ゴールを割らせないために、最後まで足を伸ばして粘り強く守る場面が多くなったところに、チームの成長を感じています。(個人的に)昨シーズンは強く相手にいくこと、ファウル気味でもボールを取りに行くことを心がけてきました。突っ込んで相手にはがされるところは課題でもあったので、今は駆け引きをしながら守っています」

【カップ戦も佳境へ】

 リーグ戦では引き続き最下位からの脱出を目指すことになるが、並行して行われているカップ戦では、3連勝でグループ首位をキープ。この浦和戦を一つのターニングポイントにして、準決勝、決勝へと勝ち上がるイメージを描く。一方、N相模原を導く2人は、さらに上にいくための明確な課題を口にする。

「後半は相手のペースになって守備に回ってしまった中で、もう少し自分たちのポゼッションすることや追加点を奪いにいく姿勢を持ち続けないと、ここからは厳しいと思います」(南野)

「相手のプレッシャーの中でもつなぎ、展開する冷静さが生まれてくると、このチームは変わるんじゃないかなと思います」(川島)

 次戦は10月6日に行われるグループステージ最終節で、準決勝進出をかけて新潟と対戦する。新潟も現在8位と苦戦を強いられているが、カップ戦では昨季準優勝と結果を残し、リーグ戦ではN相模原に1点も許さずに2戦2勝。今季のカップ戦(1試合目)はN相模原に軍配が上がり、6日の試合はN相模原が引き分け以上で準決勝に進出するアドバンテージを得ているが、果たしてどうなるだろうか。

 女子ACLに出場している浦和は同ステージを免除されており、準決勝に進めるのは3チーム。リーグ戦とは異なる様相を見せながら、佳境を迎えようとしているカップ戦も熱い戦いが繰り広げられることは間違いない。

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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