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女子選手に特有のコンディションの変化とケガ対策(2)

松原渓スポーツジャーナリスト
女性がジャンプする際、前十字靭帯を断裂する可能性は男性の7倍に

12月末日、FA女子スーパーリーグ(イングランドにおける女子サッカーの最上位リーグ)のチェルシー・レディースFC(以下:チェルシーL)で監督を務めるエマ・ヘイズ監督を講師に招き、サッカー指導者や選手、女子チームの関係者らを対象に、都内で「女子サッカーのピリオダイゼーション」セミナーが行われた(主催はワールドフットボールアカデミー・ジャパン)。

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女子選手に特有のコンディションの変化とケガ対策(1)

3つ目の講義では、ピリオダイゼーション(※)を女子チームに導入するにあたって考慮すべき、女性特有のコンディションの変化やケガについて、チェルシーLが取り入れている予防策などが紹介された。

(※)毎試合にコンディションのピークを迎えて、最高のパフォーマンスを発揮するために、年間のトレーニングを期分けして、それぞれのステージでのトレーニングやコンディショニングを有機的に組み合わせる年間スケジュールを構築する理論のこと。

【女子選手に多いケガとは?】

女性は男性に比べて骨密度が低いため、疲労骨折する可能性や骨粗しょう症になる可能性が高い。特に、骨密度の低い選手は練習以外で筋力トレーニングなどを行うことで、骨に対するダメージが高まる。それによって、リーグのトップスコアラーでもあったFWのカービー(チェルシーL)は、シーズン中にケガをしてしまい、トレーニングに参加できなくなった。

【女性に膝のケガが多い理由】

写真のように、骨盤から膝までの角度をQ-アングルといい、通常、男性よりも女性の方がこの角度は大きい。そのため、女性がジャンプする場合、膝が中に入りやすく、前十字靭帯を断裂する可能性は男性の7倍にもなる。それは男性と女性の骨の作りの違いに原因があり、女子選手は骨盤の幅が、膝のケガの起こしやすさに関わっている。

【チェルシーLが行っているケガ予防のための対策】

・女性は関節、結合組織が柔らかいので、関節を守るために体幹を鍛えることが重要である。

・ケガは膝が内側に入ることで起こりやすいため、週2回、着地に着目したジャンプのトレーニングを行っている。着地の際は、歩幅を広げた状態で、特に膝が内側に入らないように注意して観察する。男子選手のトレーニングでは、着地時に「足をまっすぐに伸ばす」ことを強調することもあるが、女性は骨盤の幅が違うために、同じようにトレーニングすると筋肉のケガが起こるリスクがある。

・疲労骨折の既往歴があったり、骨密度が低い選手は骨折の可能性が高まるため、オフの期間に、筋力トレーニングなどを増やすことは避けるべき。

・(選手の自主トレーニングをどのように捉えているか?という質問に対して)オフシーズンの各選手の負荷もチームでコントロールできるように心がけている。

【脳の使い方とセロトニンの関係】

女性は男性に比べて右脳と左脳を分けて使い、男性は女性に比べて、脳を前と後ろで使い分ける。左脳と右脳には記憶を司る機能があり、それらを使い分けることによって、女性はいろいろなことを同時にできる強みがある。しかし、月経の時期に脳内でセロトニンという物質が(ホルモンの働きにより)減少すると、うつのような状態になったり、ネガティブ思考になる可能性が高まる。そういう時にはサプリメントを使った調整も効果的。

また、女性は男性に比べて腰から下の脂肪率が高く、男性に比べて遅筋線維が多い。そのため、長距離を走る時は脂肪を燃やせるので、より長い距離を走ることができるが、より脂肪を燃やしやすくする(エネルギー効率を良くする)ために、プロテインを活用することも効果的である。

【取材後記】

ヘイズ監督の実践と研究を通じた講義の中で、女子選手のコンディションの変化や膝に関連するケガの多さには明確な理由があることを、科学的な根拠とともに学ぶことができた。選手自身が、これらのことを理解した上でコンディションの変化を自覚したり、ケガ予防への意識を高めることも大切だが、指導者にとって、これらの知識は不可欠だろう。たとえば、ある選手のプレーの質が落ちている日があったとして、その日が月経周期にかかっている場合は、単純にトレーニング量を増やせばいいというものではないことが分かる。選手を観察するだけではなく、データを把握し、状況によってトレーニング内容を変える柔軟な判断も求められる。

イングランドでも、こういったことをチェックする環境がスタンダードというわけではない、とヘイズ監督は言う。

「チェルシーが唯一、そういったことを細かくチェックしているチームだと思います。女子サッカーを指導しているほとんどの指導者が、もともと男子で指導をしていた方々なので、考慮されていないと感じます。女性に特化した分野はもっと発展させていくべきですし、月経周期のことなどはまだ発展途上で、女性スポーツを発展させていく上でさらなる研究が必要です。」(ヘイズ監督)

日本にも同じことが言える。これはサッカーに限ったことではなく、すべての女性アスリートと指導者にとって重要なことである。

【4】(1)【ヨーロッパの女子クラブのサッカーがどのように発展してきたか】

【4】(2)【2015年のカナダ女子ワールドカップのトレンド】

に続く

プロフィール: エマ・ヘイズ監督

2001年以降、アメリカとイングランドで指導実績を重ね、2006年からはアーセナル・レディースのアシスタントコーチとして、リーグカップとプレミアリーグ、UEFA Women's Cup(ヨーロッパ・チャンピオン)、FAカップを獲得。2012年、英国女子サッカー界、唯一の女性プロ監督としてチェルシーLに迎えられると、2015年にはクラブ史上初のFA WSL(イングランド女子スーパーリーグ)とFAカップの2冠を成し遂げた。セミナー詳細はこちら

スポーツジャーナリスト

女子サッカーの最前線で取材し、国内のWEリーグはもちろん、なでしこジャパンが出場するワールドカップやオリンピック、海外遠征などにも精力的に足を運ぶ。自身も小学校からサッカー選手としてプレーした経験を活かして執筆活動を行い、様々な媒体に寄稿している。お仕事のご依頼やお問い合わせはkeichannnel0825@gmail.comまでお願いします。

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