【インタビュー前編】ザ・ワイルドハーツ/ジンジャーが語る『ルネサンス・メン』と2019年夏の来日公演
ザ・ワイルドハーツが最強の布陣でニュー・アルバム『ルネサンス・メン』を発表。10年ぶりとなる新作スタジオ作品を引っ提げて、2019年6〜7月に日本を襲撃することが決定した。
ジンジャー(ギター、ヴォーカル)、CJ(ギター、ヴォーカル)、ダニー(ベース、ヴォーカル)、リッチ(ドラムス、ヴォーカル)という“クラシック・ラインアップ”は2018年7月に来日公演を行ったが、その勢いに乗って作られた『ルネサンス・メン』はバンドの“ルネサンス=再生・復活”を感じさせる快作だ。
「精神的にも肉体的にも健康」と絶好調をアピールするジンジャーが軽快なトークで、『ルネサンス・メン』と日本公演について語るインタビュー全2回、まず前編を。
<『ルネサンス・メン』は怒れるオヤジのエモーショナルなアルバムだ>
●『ルネサンス・メン』はまさにクラシック・ラインアップの復活を高らかに宣言するアルバムですね。
“ルネサンス”にはいろんな意味があるんだ。もちろん華々しい“復活”の意味もある。俺とCJ、ダニー、リッチというクラシック・ラインアップの復活だ。この4人は最高のノイズを出すラインアップだと思う。ルネサンスはアートと技術の復興を意味しているんだ。その一方で、ルネサンスは過去に起こったムーヴメントだ。大昔の華やかな時代に生きていたロックンローラーという意味合いもあるんだ。ザ・ワイルドハーツはオールドスクールだけど、それを誇りにしているんだよ。
●とはいっても復活のセレブレーションに留まることなく、「ディスロケイテッド」ではネットいじめ、「ザ・ファイン・アート・オブ・ディセプション」ではお互いへの信頼の欠如、「ダイアグノシス」での健康保険問題、「イマージェンシー(フェンタニル・バビロン)」では処方薬投与など、ディストピア的な世界が描かれています。
現代社会のありさまを見ると、“ルネサンスだ!やった、ハッピーだぜ”というアルバムを作る状況でないことは明白だ。この世界は酷い状況にある。世界がこれほど最悪なのは、第一次世界大戦直後以来だろうな。世界の枠組みが破綻していった時代だ。政府が民衆から搾取を続けて、貧困が蔓延して、移民たちには住む場所もない。イギリスの健康保険制度は酷い有様だ。こんな状況だから、怒りに溢れるパンク・バンドが大量に登場すると予想していた。かつて政治が地に落ちたとき、セックス・ピストルズやディスチャージが登場したのと同じようにね。でも最近出てきた若手はどいつもコンピュータみたいに感情のない音楽をやっていて、話にならないだろ?だから俺たちみたいな怒れるオヤジがエモーショナルなアルバムを作る必要があるんだ。
●ザ・ワイルドハーツとしてのスタジオ新作アルバムは『フツバー』(2009)から10年ぶりとなりますが、これほど間が空いたのは何故でしょうか?
俺はソロ・キャリアを続けてきたし、ザ・ワイルドハーツでもライヴ活動をやってきたから、みんなの前から消えたことはなかったんだ。ひとつの転機となったのは、スコット・ソーリーへのベネフィット・ライヴで久しぶりにダニーと一緒にやったことだった(2018年2月23日、英国ウェイクフィールド)。脳腫瘍で闘病中の友人でザ・ワイルドハーツでベースを弾いたこともあるスコットの治療費と生活費を捻出するライヴで、当初は1回のみのショーだったけど、それがすごくうまく行ったんだ。それでザ・ワイルドハーツ、リーフ、テラーヴィジョンの“ブリットロック・マスト・ビー・デストロイド”英国ツアーを同じ“クラシック・ラインアップ”でやることになった。ツアーは絶好調で、ダニーも行儀が良かった。それで次の自然なステップとして、アルバムをレコーディングすることにしたんだ。この4人全員が生きているうちに、演奏をレコード盤だかCDだかに刻み込んでいこうってね。
<誰かの顔面に向かって怒鳴りつけると逮捕されるけど、マイクに向かって怒鳴り込めば音楽になる>
●アルバムの曲はいずれもザ・ワイルドハーツ用に書いたものですか?
そうだよ。いつも新しい曲は、使い途が決まっているんだ。ザ・ワイルドハーツ用の曲は、ザ・ワイルドハーツのアルバム用に書き始めるんだよ。用途を考えずに曲を書き始めることは、基本的にないね。もちろん例外はあるし、今日、特に考えずに新曲を書いたけどね。フォークとカントリー&ウェスタンとゴスペルが合体したような曲だ。次のソロ・アルバムを作るときまでアイディアを取っておくよ。そうすることはよくあるよ。あえて完成させず、アイディアのまま取っておく。あえて出産せず、ずっと妊娠状態でいるんだ(笑)。ザ・ワイルドハーツのアルバム用の曲を書き上げてから、もっとハッピーなアルバムを作りたくなった。それで『Heads Are A-Poppin'』というアルバムの着想を得た。犬を散歩させているときに曲を書いたんだ。
●『ルネサンス・メン』やソロ・アルバム『ザ・ペシミスツ・コンパニオン』、『Heads Are A-Poppin'』など、あなたは常に双子や三つ子を妊娠している状態ですね。
それがミュージシャンの生業だからね。ジャーナリストだって1人だけにインタビューするわけじゃない。暖炉に火を入れたら、薪をくべなければならないんだ。俺はソングライターだ。音楽は外界とのコミュニケーション、自分にとってのセラピー、治療薬でもある。俺は“怠惰”というものを信じないんだ。常にインスピレーションの源に対してレーダーを立てている。そうしてインスピレーションを受信して、自分というフィルターを介して音楽にするんだ。音楽は俺を救ってくれた。音楽のおかげで、俺は刑務所に入ったり、自傷やハードドラッグに走らずに済んでいる。怒りを音楽に込めることが出来るのは、幸せなことだ。誰かの顔面に向かって怒鳴りつけると逮捕されるけど、マイクに向かって怒鳴り込めば音楽になる。アグレッシヴな音楽は平和的な解決手段だよ。
●『ルネサンス・メン』はハーシュ(苛酷な、激しい)なサウンドのせいで『エンドレス・ネームレス』(1997)と比較するファンもいそうですね。
うん、実際そう言われているみたいだ。俺自身はちっとも似ていると思わないけどね。顔面に叩きつけるタイプのアルバムという点では共通しているかも知れない。今回、ポップなアルバムは作りたくなかったんだ。今の世界にポップなアルバムは合わない。特にロックの世界ではね。誰もが「ロックは死んだ」と言っている。確かにグレタ・ヴァン・フリートなんかを聴かされると、同意せざるを得ない状況だ。でもロックは死なないよ。死にそうになっても、誰かがペースメーカーを取り付けて、心臓を動かし続けるんだ。
●グレタ・ヴァン・フリートはオリジナリティよりも、むしろ振り切れたレッド・ツェッペリンなりきりぶりが人気の要因ではないでしょうか。
レッド・ツェッペリンはいつの時代でもパクられてきた。ザ・ワイルドハーツがデビューした頃、キングダム・カムというバンドがいたし、その後にウルフマザーというのも出てきた。でも奴らはレッド・ツェッペリンの曲やロバート・プラントのシャウトをパクっても、ショーマンシップは不思議とちっともパクらないんだ。だから退屈なんだよ。確かにロック・ファンというのは必ずしもオリジナルなものを求めるわけではない。自分の知っているもの、安心出来るものに満足するファンも多い。チャレンジを望まないロック・ファンのために“ソフト・ロック”や“クラシック・ロック”というジャンルがあるんだ。そんな気持ちは理解出来るし、彼らを責めるつもりはない。ただ、俺はパンク・ロック出身だ。俺にはチャレンジが必要なんだ。刺激がないと居眠りしてしまう。グレタ・ヴァン・フリートは俺にとって子守歌か睡眠薬みたいなものだ。グッスリ眠れるよ。
●去年(2018年)7月の日本公演で「ザ・ルネサンス・メン」「イマージェンシー」「リトル・フラワー」をプレイしましたが、その時点でアルバムはどの程度出来上がっていたのですか?
おおよそ半分ぐらいかな。全曲のデモは録っていたんだ。リッチと俺でスタジオに入って、ドラムスとギターをライヴ・レコーディングで録っていた。ヴォーカルはまだ入れていなかった。その後、俺の声が出なくなったんだ。喉を壊して、去年11月から12月にかけて、アルバム作りの作業がすべてストップしていた。それから徐々に調子が上がってきたから、1月にすべてのヴォーカルを録音した。今では絶好調だよ。過去になかったほど声にハリがある。100%以上の仕上がりだし、この勢いで日本に行くつもりだ。
<俺の血液にはセックス・ピストルズ、ラモーンズ、モーターヘッドが流れている>
●「ザ・ルネサンス・メン」はライヴで盛り上がりそうな、高揚感のある曲ですね。ある意味、シン・リジィの「ヤツらは町へ」をザ・ワイルドハーツが21世紀に蘇らせたような...。
うん、「ヤツらは町へ」は名曲だね。キッスの「ロックンロール・オール・ナイト」についても言えることだけど、あの曲を好きでないという奴は信用出来ない。まあ、好きでないという人間には会ったことがないけどね。「ザ・ルネサンス・メン」のコーラスは、ぜひ日本のライヴでもみんなに一緒に歌って欲しい。あの曲はまるで最初から完成していたように、自動操縦で書いてしまった。5分の曲が5分で完成してしまったんだ。良い曲には、けっこうそんな面があるんだよ。アイディアをこねくり回しても、名曲が生まれる可能性は高くないんだ。
●「ザ・ルネサンス・メン」では“Buen Dia!”や“Tequila!”などスペイン語のコーラスが効果的に使われていますが、どんなところからインスピレーションを得たのでしょうか?
“Arriba!”というのは、アニメ『ルーニー・チューンズ』のキャラ、スピーディー・ゴンザレスがよく言っていたセリフなんだ。俺の書く歌詞にある外国語の多くは、子供時代に見たり聴いたりしたものだよ。俺がガキだった頃、イギリスのTV局BBCとITVは予算がなくて、自前の番組を作れなかった。それでスウェーデンの『The White Horses』(注:実際にはドイツとユーゴスラビアの合作)、フィンランドの『ムーミン』(注:アニメは日本産)みたいな外国産のアニメを流していたんだ。アニメではないけど、『水滸伝』(1973年版)も見ていたよ。あの番組のおかげで日本のサムライに興味を持ったんだ(注:『水滸伝』は日本製のドラマだが舞台は中国)。それを考えると、素晴らしい教育を受けたかも知れない。
●「レット・エム・ゴー」の“Namaste doesn't mean chase me”や「ディスロケイテッド」の“Descend online like Ninja flies on scentless defecation”など、英語圏外の文化や言語を取り入れた歌詞がとても刺激的です。
いろんな本を読んできたし、言葉遊びも好きなんだ。パンク・ロック詩人のジョン・クーパー・クラーク、ザ・フォールのマーク・E・スミスから影響を受けてきたしね。彼らは言語を単に韻を踏ませるだけでなく、アートとして表現してきた。ロックンロールの歌詞には失望させられることも少なくない。「それで終わり?もうちょっと何とかならないの?」と文句を付けたくなることがある。“ベイビー”と“メイビー”で韻を踏ませるなんて、1950年代で既に陳腐だったんだ。怠け者なのか、想像力が足りないのか、言葉を使う能力がないのか... そういうのは“ソングライティング”とは呼ばないよ。ありきたりで文字通りの表現でなく、想像力とヒネリのあるソングライターが好きだし、そうありたいんだ。
●「ダイアグノシス」の“I'm not an animal”という箇所は、セックス・ピストルズの「ボディーズ」へのオマージュですか?
そのことを指摘したのは、君が2人目だ。マネージャーにも言われたよ。当初、この曲をアルバムに入れるか悩んだんだ。デモはあまりエキサイト出来る仕上がりじゃなかったからね。そのことをマネージャーに言ったら、「まあ確かに、セックス・ピストルズのパクリだと思われたら嫌だもんね」とか言っていた。そのとき初めて気付いたんだよ。俺自身はまったく意識していなかったんだ。セックス・ピストルズの大ファンであることは認めるけど、パクったつもりはなかった。 “I'm not an animal”というコーラスはイギリスのTVアニメ番組『I'm Not An Animal』(2004)から取ったんだ。動物たちが実験施設から逃亡するという、ジョージ・オーウェルの『動物農場』に似た風刺コメディだよ。まあ、セックス・ピストルズ』は俺のDNAに組み込まれているし、似てしまうんだろうね。俺の血液にはセックス・ピストルズ、ラモーンズ、モーターヘッドが流れている。そんな影響から逃げることは不可能だよ。今のジョン・ライドンは好きじゃないし、パクりたいとは思わないけどね!
後編ではジンジャーがさらに『ルネサンス・メン』の世界観を掘り下げながら、音楽トークを炸裂させる。
【アルバム情報】
THE WiLDHEARTS(ザ・ワイルドハーツ)
タイトル : RENAISSANCE MEN(ルネサンス・メン)
現在発売中
Vinyl Junkie Recordings VJR- 3219
日本盤ボーナストラック収録、歌詞、対訳、解説付
日本公式レーベルサイト:http://vinyl-junkie.com/label/wildhearts/
【THE RENAISSANCE JAPAN TOUR 2019】
- 6月30日(日) 大阪 246 GABU
OPEN 18:30 / START 19:30
- 7月1日(月) 名古屋APOLLO BASE
OPEN 18:30 / START 19:30
- 7月2日(火) 東京 渋谷TSUTAYA O-EAST
OPEN 18:30 / START 19:30
主催・企画・制作:Vinyl Junkie Recordings
協力:クリエイティブマン
公演ウェブサイト
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