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映画『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』BABYMETAL in リトアニア【後編】

山崎智之音楽ライター
IMPALED REKTUM / photo credit below

kの(PHOTO CREDIT: (c)2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food)

遂に日本で公開、センセーションを呼んでいる映画『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』についてのインタビュー、全2回の後編。

前編記事に続いて、共同監督の一人ユーソ・ラーティオとIMPALED REKTUMのメンバーを演じる ヨハンネス・ホロパイネン(トゥロ役/ヴォーカル)、 マックス・オヴァスカ(クシュトラックス役/ベース) チケ・オハンウェ(オウラ役/ドラムス)がさらにエクストリームに語ってくれた。

(c)2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food
(c)2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food

<“強制ゲロ”というバンドを友人がやっている>

●第1作で初めてIMPALED REKTUMというバンド名を聞いたとき、フィンランドでIMPALED〜ということでIMPALED NAZARENEを思い出しました。彼らから何らかの形でインスピレーションを得ましたか?

ユーソ:直接的にはないんだ。とにかく突拍子もない、エクストリームな名前にしたかった。“IMPALED=串刺し”はメタル・バンドの名前としては比較的頻出ワードなんじゃないかな。“RECTUM=直腸”もそうだ。かつてフィンランドにはRECTUMというバンドがいたよ。メタル界にはクレイジーな名前のバンドがいる。2作両方ともFORCED VOMITというバンドが言及されるけど、俺の友人がやっている実在のバンドなんだ。“強制ゲロ”という名前を聞いただけで、音を聴いてみたくなるだろ?

●『ヘヴィ・トリップ』2作品を見ていて、フィンランド語の部分が判らないのが非常に残念ですが、INPALED NAZARENEに『SUOMI FINLAND PERKELE』(1994)というアルバムがあって馴染みがあったせいで、“Perkele ペルケレ”という単語は聞き取ることが出来ました。

マックス:Perkeleには長い歴史があるんだ。元々ペルケレはフィンランド神話の雷神だった。スカンジナビア神話のトールと似た存在だよ。でもキリスト教の伝来によってペルケレ信仰は異端となり、ペルケレは悪魔ということにされてしまったんだ。それで「何てことだ!」「クソッタレ!」というときに「ペルケレ!」と言うようになった。でもネガティヴな場合だけでなく、親しい友人に「よお!」と挨拶するときにも「ペルケレ!」と言うんだ。英語でいうと“god damn”が近いかもね。

●...説明口調がクシュトラックスとそっくりですね。

マックス:これは演技ではないよ(笑)。フィンランド神話とスカンジナビア神話は似ている部分も多いけど、少しずつ異なっているし、それを専門に研究している学者もいるんだ。まあフィンランド語を話せなくても、「moi!=やあ!」と「Perkele!」を知っていればだいたい日常会話が成り立つよ。

●IMPALED REKTUMが“ヴァッケン”に向かう途中にロック・ミュージアムがあり、ルー・リードの肝臓、ジミ・ヘンドリックスの燃えるギター、ディオの遺灰などが展示されていますが、何故そこにミュージアムがあるのか、かなり唐突にも感じました。

ユーソ:まあ、唐突にロック・ミュージアムがあっても良いじゃないか(笑)。あのミュージアムの設定は考えて楽しかったね。本当はもっと広くていろんなものが展示してあって、PINK FLOYDの「Another Brick In The Wall」のレンガを投げつけるアイディアもあったけど、ストーリーの流れを壊したくなかったし、かなり規模も時間もカットすることになったんだ。当初3日かける予定だったのが1日になったりね。あと小道具係がロックのことを知らなくて、ジミ・ヘンドリックスのJimiをJimmyにしてしまっているんだよ(苦笑)。それにMuseum Of Relicsの看板がRelictsになってしまったり、間違い探しをすると面白いよ!

ヨハンネス:スペルミスもまたメタルの一部なんだ。そういうことで勘弁して欲しい(笑)。

ユーソ:不思議なのは、何故デイヴ・ムステインの手首が展示されていて、何故6本指があるのか、今までやったインタビューで一度も訊かれていないことなんだ。

●...何故ですか?

ユーソ:ずいぶん前に彼が手首を怪我して、タイで新しい手首に交換手術をしたという都市伝説があったんだよ。...いや、ゴメン。今のは俺が適当に作ったデマだ(笑)。

マックス:そういえば最後のライヴのシーンで、オウラがロットヴォネンに「思い切りビンタしてくれ」と頼むシーンがあったんだ。で、ビンタされたオウラの眼が血走って、“ビースト・モード”になってドラムスを凄まじい勢いで叩き始めるんだよ。あのシーンは気に入っていたから、カットされて少し残念だった。本編だといつの間にか“ビースト・モード”になっているんだ。

(c)2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food
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<フィンランド人も毎日トナカイ肉を食べているわけではない>

●『ヘヴィ・トリップII』では“ヴァッケン・オープン・エアー”フェスが重要な舞台として登場します。近年イギリスの“ダウンロード・フェスティバル”、フランスの“”ヘルフェスト、スウェーデンの“スウェーデン・ロック・フェスティバル”、ベルギーの“グラスポップ・メタル・ミーティング”、フィンランドの“トゥスカ・オープン・エアー”など、ヨーロッパでは数多くのメタル・フェスが行われていますが、“ヴァッケン”を舞台にしたのは?

ユーソ:1作目でノルウェーのフェスを出したし、どうせやるならもっとビッグなものにしたかったんだ。“ヴァッケン”は世界最大のメタル・フェスのひとつだし、これ以上のものを望むことは出来ないだろ?まあ、制作費用の一部がドイツからの出資だったという事情もあるけど、“ヴァッケン”で撮影出来るなんて夢のようだった。実際の撮影は大雨に祟られて地獄だったけど、完成した映画を見ると、それすらが素晴らしい経験のように思えるよ。

●海外のメタル・フェスでは門外漢が上がると「聖なるステージを汚した!」と小便入りボトルを投げつけられることもあるそうですが、ヨハンネスは大丈夫でしたか?

ヨハンネス:ほとんどの人は「誰だこいつ?」と思っていたみたいだけど、『ヘヴィ・トリップ』を見た人が「トゥロ!」と声をかけてくれたりした。すごく大勢の人がいて、愛に満ちていた。この共同体の一部となれたことを誇りに感じたね。実は当日、2〜300人のエキストラも雇っていたけど、必要なかったよ。トゥロが歌うのを止めて会場がシーンとなる場面があるんだけど、声援が止まなくて困ったほどだった(笑)。みんな雨で腐っていて、とにかく騒いで発散したかったんだと思う。

●マネージャーのフィストがトゥロにMOTORHEADのレミーのカウボーイ・ハットを手渡すシーンがあります。悪徳マネージャーとして描かれているフィストですが、“ヴァッケンの守護神”であるレミーの精神をトゥロに託すという純粋な意味合いもあったのでしょうか?

ユーソ:いや、フィストは贈り物でトゥロを懐柔しようとしているだけで、そんな精神的な部分はないよ。カウボーイ・ハットに書かれている名前だってレミー本人が書いたものか判らない。もしかしたらフィストが自分で書いて、偽造したのかも知れないよ。

●MOTORHEADのライヴ・アルバム『NO SLEEP AT ALL』(1988)はフィンランドで録音されたものだし、レミーが牛乳のTVコマーシャルに出演するなど、フィンランドではお茶の間でも知られる存在なのでしょうか?

ユーソ:そうでもなかったな。ロックのファンは大喜びしたけど、一般家庭のお母さんは「...誰?」という感じだった。たぶん制作スタッフにMOTORHEADのファンがいたんだと思う。当時フィンランドではNIGHTWISHの活躍などでメタルが一種のトレンドだったんだ。今でもメタルはメインストリームの音楽だけど、当時ほどの勢いはないかな。それにIMPALED REKTUMみたいなアンダーグラウンドなメタルはチャートと無縁だからね。

●BABYMETALが出演、「ギミチョコ!!」を歌って踊って、3人が英語のセリフで話すシーンもありますが、それはどのようにして実現したのですか?

ユーソ:今回はクシュトラックスが葛藤するシーンを入れたかった。彼はとにかくメタルありきの純粋主義者だけど、ピュアなメタルでなくともつい惹かれてしまうような、ね。それで俺がBABYMETALを好きだったこともあって、初期の脚本に“BABYMETALみたいなバンド”と書いていた。そうしたらプロデューサー陣が「面白いじゃないか」って、本物のBABYMETALに出演オファーを出すことになったんだ!日本側のプロデューサーのKOBAMETALさんも実は『ヘヴィ・トリップ』第1作を映画館で見てくれていたんで、話はスムーズに進んだ。ただ彼女たちがあまりに多忙で、3日しかスケジュールを取れなかったんだ。それでリトアニアまで飛んできてもらって、すべてのシーンを撮影した。

●BABYMETALのバックを務めているのもリトアニアの若手ミュージシャンですね?

『ヘヴィ・トリップII』の大半のシーンはリトアニア、それからドイツのロストクで撮影したんだ。だからBABYMETALにリトアニアまで来てもらう必要があった。ただ、神バンドを呼ぶことは経費的に無理だったんで、地元のミュージシャン達に当て振りをしてもらったんだ。ベーシスト役はリトアニアの俳優(ルカス・マリナウスカス)で、けっこうな人気があるんだよ。マスクをしていたし誰も気付かないだろうけどね。

●第1作ではフィンランドの自宅の食事シーンで「またトナカイの肉かよ」、第2作ではノルウェーの刑務所で「またシャケかよ」と文句を言うなど、それぞれの国の食文化を日本のファンが学ぶことが出来るのも興味深いです。

チケ:実際にはノルウェーのサーモンは輸出の割合が多くて、ノルウェー人は意外と食べていないらしいけどね(笑)。

ヨハンネス:それにフィンランド人も毎日トナカイ肉を食べているわけではないよ。

●『ヘヴィ・トリップIII』ではぜひ日本を舞台にして、IMPALED REKTUMに「またスシかよ」「またラーメンかよ」と文句を言ってもらいたいです。

ユーソ:ハハハ、スシもラーメンも毎日食べても飽きないから、そんな不満は出ないんじゃないかな(笑)。第3作を作れたら最高だ。まずは『ヘヴィ・トリップII』を成功させないとね。俺は日本に来るのは4回目だけど、今まではすべて観光で、ビジネスではこれが初めてなんだ。『ヘヴィ・トリップIII』のロケで来ることが出来たら最高だよ。

●近年“ユーロヴィジョン・ソング・コンテスト”のフィンランド代表としてLORDI、BLIND CHANNEL、THE RASMUSなどメタル色の濃いアーティストが出場しています。“ユーロヴィジョン”というと時代遅れでダサいイメージがありますが、彼らが出場しているのはメタルが公式に“時代遅れでダサい音楽”に認定されたということでしょうか?

ユーソ:いや、“ユーロヴィジョン”でもたまに良い曲がエントリーすることがあるんだよ。大抵は奇妙なパフォーマンスが先行で、歌手がハムスターの回し車みたいなのに乗って歌ったり、見ていて頭が痛くなるけどね(おそらく2014年ウクライナ代表のマリーヤ・ヤレムチューク)。音楽のコンテストではなく、面白コメディ・ショーと捉えればけっこう楽しいんじゃないかな。

●2024年フィンランド代表のWindows95manの下半身丸出しパフォーマンスはトイレット・ユーモアとしては笑えますが、音楽としては正直トホホで、最後に「ディス・イズ・フィンランド!」と言って去っていったことには国家として何らかの刑罰を科すべきではないかと感じました。フィンランドはゲイ・アートを代表する偉大なアーティストの1人であるトム・オブ・フィンランドを生みましたが、そのパロディだったとしても決してレベルの高いものではありませんでした。

ユーソ:いやまあ、“ユーロヴィジョン”は音楽を求めるものではないんだよ(苦笑)。

●日本で最も有名なフィンランド人といえばサンタクロース、ムーミン、HANOI ROCKSと並んでトニー・ホームが挙げられますが、彼はフィンランドではどのように見られていますか?

ユーソ:彼は強力なセレブリティだったね。クイズや歌番組に出演したり、アメリカでヴァイキングキャラのプロレスラーになったり、国会議員になったりして、最後は自らの命を絶ったんだ。知的な人物とは捉えられていなかったし、“粗暴ないじめっ子”のイメージを鼻で笑う人や本気で嫌う人がいた。

マックス:彼は俺の父親の友人だったんだ。ああいうビッグなキャラクターにはよくあることだけど、日常生活では普通の人だったらしいよ。

●貴重なお話を有り難うございました。『ヘヴィ・トリップII』の成功を祈っています。

全員:どうも有り難う。ペルケレ!


【作品情報】

『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』

製作:カイ・ヌールドベリ、カールレ・アホ|監督・脚本:ユッカ・ヴィドゥグレン、ユーソ・ラーティオ

出演:ヨハンネス・ホロパイネン(トゥロ)、マックス・オヴァスカ(クシュトラックス)、サムリ・ヤスキーオ(ロットヴォネン)、チケ・オハンウェ(オウラ)、アナトーレ・タウプマン、ヘレン・ビースベッツ、ダーヴィト・ブレディン、JUSSI69、SU-METAL (BABYMETAL)、MOAMETAL (BABYMETAL)、MOMOMETAL (BABYMETAL) 他

2024年|フィンランド映画|96分|カラー|スコープ|DCP|原題:HEAVIER TRIP|字幕翻訳:堀田雅子|字幕監修:増田勇一

後援:フィンランド大使館|共同提供:キングレコード+スペースシャワーネットワーク|宣伝:HaTaKaTa|配給:SPACE SHOWER FILMS 

© 2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food

大ヒット上映中!

公式HP https://heavytrip-2.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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