Yahoo!ニュース

【インタビュー後編】ジンジャー・ワイルドハートが語るミューテイションと豊潤なる音楽トーク

山崎智之音楽ライター
Mutation / photo by HUTCHfilms

アルバム『ダーク・ブラック』で日本デビュー、2017年11月のジャパン・ツアーも発表されたミューテイションのジンジャー・ワイルドハートへのインタビュー後編。

前編に引き続きアルバムについて語ったジンジャーだが、それに加えて彼とのインタビューの醍醐味のひとつである、多岐にわたる音楽についてのトークも披露してくれた。

<エネルギーとアドレナリンと汗を一滴残らずステージに絞り出す>

●現在のミューテイションのラインアップについて教えて下さい。

『ダーク・ブラック』は俺とスコット・リー・アンドリューズの共同作業なんだ。スコットはミューテイションの最初のアルバム『ザ・フランケンシュタイン・エフェクト』でも「グラントホアー」という曲で歌ってくれた。彼の声は好きだったし、音楽に対する情熱に共感をおぼえていた。彼とは音楽に対する考え方が似ているし、また一緒にやりたかったんだ。彼がやっているエグジット・インターナショナルも良いバンドで、俺のジャパン・ツアーにサポート・バンドとして連れていったこともある(2012年)。『ダーク・ブラック』は俺のソロではなく、アイディアを投げつけて跳ね返ってくるパートナーが欲しかった。俺のソロ・バンドのドラマーでもあるデンゼル(ディーン・ピアスン)にスコットを呼ぶことを相談したら、「それは面白そうだ!」と乗り気だった。そして俺たちの知らないうちに、ミューテイションはトリオ編成のバンドとして完成したんだよ。スコットはソングライティングのパートナーとしても完璧だった。精神疾患や鬱、怒り、不満などを題材とした音楽を一緒にやってくれるのは、このラインアップしか考えられなかったんだ。

●新作には多数のゲスト・アーティストが参加していますね。

『Dark Black』(VJR3213 現在発売中)
『Dark Black』(VJR3213 現在発売中)

うん、ミューテイションのアルバムでは毎回ゲストを迎えているんだ。ファーストにも大勢ゲストが参加したし、『ERROR 500』でもナパーム・デスのシェイン・エンバリーやメルツバウ、マーク・E・スミスがプレイしてくれた。今回はまずデヴィン・タウンゼンドが「デヴォリューション」に参加している。デヴィンとは長い付き合いで、大昔(1994年)にワイルドハーツに助っ人参加してもらったこともあるし、ずっと友人なんだ。彼にミューテイションの2枚のアルバムを聴かせたらすごく気に入ってくれて、今回「デヴォリューション」には彼がピッタリだと思って、頼んでみたんだ。彼は快く参加してくれたよ。

●モーターヘッドのフィル・キャンベルはどのようにして参加したのですか?

フィルとは面識はあったけど、レミーが亡くなって(2015年12月28日)から親しくなったんだ。彼はモーターヘッドの歴史で最も長くギタリストの座を務めてきた人だし、バンドのギター・サウンドを体現するプレイヤーだ。それとUKサブスのジェイミー・オリヴァーはしばらく前から友達なんだ。ライヴ会場で顔を合わせれば「よぉッ!」って感じで、ビールを飲んだりしていた。彼にはドラムスをプレイするよりも、頭のおかしいドラム・ループを作ってもらったんだ。世界最高のパンク・ドラマーに参加してもらいながら、ドラムスを叩いていないというのが面白いと思ってね。彼は「オーセンティシティ」など、3曲ぐらいで参加しているよ。

●アルバムに参加して欲しかったけれど実現しなかったアーティストはいますか?

ミニストリーのアル・ジュールゲンセンに参加して欲しかったんだ。でも何度メールしても返事がなかった。アルと関わりのある知り合いにも連絡を取ってもらったんだけど、やっぱり返事がなかった。何か良くないものをキメていたのかも知れないね(苦笑)。それ以外、参加を打診した人はみんなOKしてくれた。嬉しかったね。いつかレミーと共演したかったけど、それは実現しなかった。もちろんこのアルバムに参加してくれた人たちが今すぐ死ぬとは言わないけど、俺が死ぬかも知れないし、生きているうちに共演を実現させておきたかったんだ。

●『ミューテイションIV』を作るとして、誰に参加して欲しいですか?

まだ曲を書いていないし、何とも言えないよ。まず曲を書いて、それに合ったミュージシャンに声をかけるんだ。まだ『IV』用の曲は書いていないし、ずっと先の話だ。バンド名が“ミューテイション=突然変異”だから、次のアルバムがどんなサウンドになるかも想像がつかないよ。ただ、エクストリームな音楽になることは間違いないけどね。

●2017年11月に予定されている日本公演は、どんなものになるでしょうか?

まだ公式にミューテイションとしてのライヴをやったことがなかったけど、「ヘイト」のミュージック・ビデオをライヴ形式で撮影したんだ。最高のライヴ・バンドになると確信したよ。ひとつ言えるのは、俺たちの持つエネルギーとアドレナリンと汗を一滴残らずステージに絞り出すということだ。ショーの後にバックステージに来ても、3人の死体が転がっているだけだから、アフターショー・パーティーには期待しないでくれ。俺はミューテイションのショーに備えてボクシングジムで身体を鍛えているし、有酸素トレーニングもしている。ライヴを見に来るみんなも体調を万全にして会場に来て欲しい。

●どんな曲をプレイするかは決めていますか?

何となく考えてはいるけど、まだ決めていないんだ。ミューテイションの曲が中心になると思うけど、トリオ編成のバンドで演奏するのが不可能なものもある。ソロ・アルバム『ヴァロール・デル・コラソン』(2005)からの「アグリー」はムードがフィットするかも知れないし、ワイルドハーツの『エンドレス・ネームレス』(1997)の曲もやってみたら面白いかもね。「29xザ・ペイン」や「アイ・ワナ・ゴー・ホェア・ザ・ピープル・ゴー」は聴くことが出来ないだろう。ただ、とてもエモーショナルなショーになるよ。

Mutation / photo by HUTCHfilms
Mutation / photo by HUTCHfilms

<ニューカッスルのギャグはロンドン人にも判らない>

●2016年5月に、『555%』(2012)までの全曲を解説した書籍『ソングス&ワーズ』が刊行されましたが、あまりに内容が充実していて、該当するCD/レコードを聴きながら解説を読みふけるには少なくとも2週間のバカンスが必要ですね。

この時代、みんな忙しいし、なかなかそれは難しいかもね。少しずつ読み進めていくか、老後の楽しみにするか... EP『モンド・アキンボ・ア・ゴーゴー』(1992)から『555%』まで、いろんな思い出があって、笑ったり泣いたり怒ったりしながら書いたんだ。ちょっとしたローラーコースターだよ。ぜひ多くのファンに読んでもらいたいと思っている。

●日本語版が出れば、日本のファンも読むことが出来るのですが...。

日本語版を出せたら良いけど、もし実現する可能性があったならば、既に実現していただろうね。俺の人生、次から次へといろんなことが起こっているし、今はミューテイションのことで頭がいっぱいなんだ。ただ、日本の誰かが翻訳をやってくれるならば、歓迎するよ。ぜひ立候補して欲しい。

●「シック・オブ・ドラッグス」に関する記述で、CD/レコードでは“when your mind's made up like a will of steel”と歌っているけれど、ライヴでは“when your mind's made up like a ferris wheel”と歌っていると書いてありました。2017年1月の東京でのライヴで注意して聴いていたら、確かにferris wheelと歌っていましたね。

うん、make up your mindというのは通常“決意する”という表現だけど、make upを“メイクアップ(化粧)する”というダブルミーニングで使っているんだ。心を“観覧車みたいに飾りたてる”という意味だよ。スタジオ・ヴァージョンの“a will of steel”(鋼鉄の意志)はダブルミーニングになっていないし、何の意味もない。全然面白くないよ。

●日本語版を出すならば、そのあたりのニュアンスを判る人が翻訳しなければなりませんね。

ニューカッスルの英語は、イギリスでも独特なものだからね。『ソングス&ワーズ』にはロンドンの人間でもピンと来ない箇所があるんじゃないかな。(ヘイ!ヘローの)トシみたいにジョーディー訛りを理解できる日本人がそういるとは思えないしね。そうだ、トシが翻訳してくれればいいんだ(笑)!

●あなたは『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』のカントリー志向について“ウィリー・ネルソンよりもボビー・トンプソンっぽくなった”と説明していました。トンプソンはイングランド北部出身のコメディアンでしたが、彼のトークは訛りが凄すぎて、私には正直まったく何を言っているか判りません。よって残念ながら、私は『ソングス & ワーズ』の翻訳者としては不適格ですね。

イギリス人でも聞き取れない人が多いから安心しなよ!しかもニューカッスルには独特なユーモアがあって、外部の人間にはどこが面白いのか理解不能のときもある。大阪のギャグを東京の人間が判らないことがあるのと同じじゃないかな。実際、ボビー・トンプソンはロンドンではそれほど人気があったわけじゃないんだ。でもニューカッスルでは絶大な人気を誇っていたんだよ。

●『ソングス&ワーズ』の本と同時発売された同題DVDは、あなたが歴代の曲をプレイしながらトークを加えていくという内容でしたが、banjo string=裏スジ(陰茎小帯)という便利なフレーズを知ることが出来ました。

君の役に立つことが出来て嬉しいよ。ぜひいろんな場面で使ってくれ(笑)。『ソングス&ワーズ』ライヴは本の出版に伴うショーだった。いちおう時系列順にプレイしながら、ちょっと脱線したり、お客さんとコミュニケーションしたり、楽しかったよ。あと1回、ロンドンのユニオン・チャペルで8月(19日)にショーをやるけど、ひとまずそれで一段落となるだろう。いずれ『ソングス&ワーズ』続編を出すときが来たら、それに伴うライヴをやるかも知れないけどね。

●『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』のCD/レコードはいつ頃リリース予定ですか?

早ければ2017年内、遅くとも2018年2月ぐらいまでには出したいと考えている。日本盤CDは今までどおり『VINYL JUNKIE』が出してくれたら最高だね。彼らはアーティストに敬意を持ってくれるし、 一緒に仕事をして楽しい。とても誇りにしているアルバムだし、ぜひ日本のみんなに聞いてもらいたい。既に同じ路線の新曲を書き始めているんだ。自分が今いるところを描いたソロ・パフォーマンスで、キャリアの重要な一部となるだろう。ライヴももちろんやるよ。バンド形式でも、ソロ弾き語りでも、すごく効果的だと思う。エモーショナルなショーになる感情を込めているという点ではミューテイションのショーと同じだけど、雰囲気はまったく正反対になるだろうね。

<ロンドンのスタジオでいろんなミュージシャンと会った>

●『ゴースト・イン・ザ・タングルウッド』はクラウドファンディング・サイトPledgemusicでキャンペーンが行われましたが、参加者向けビデオで、あなたがDino's Bar & GrillのTシャツを着ているのに気づきました。シン・リジィのパロディTシャツですが、あなたの音楽にシン・リジィからの影響はあるでしょうか?

ロックのソングライター、作詞家として、シン・リジィのフィル・ライノットからの影響を逃れるのは難しいことだよ。1970年代ロックは俺にとって特別なジャンルであって、影響を受けたバンドを挙げていったらキリがないけど、シン・リジィは確実にそのひとつだったね。フィルの歌詞がいかにユニークなものか、みんなが気付いたのは、彼が亡くなったときだった。別のバンドの質の悪い歌詞をさんざん聞かされて、彼がいかに偉大な詩人だということに気付かされたんだ。

●シン・リジィのライヴを見たことはありますか?

うん、ガキの頃から何度も見たことがあるよ。1970年代半ば、ブライアン・ロバートソンがいた頃は見たことがなかったんだ。ライヴ・ビデオ『ライヴ・アンド・デンジャラス』は何度もテレビで見たけどね。初めて見たのはゲイリー・ムーアがいた頃のラインアップだった。ゲイリーのギターは火を噴きそうで凄かった。その後はスノーウィ・ホワイトがいたときも見たよ。最近ではリッキー・ウォリックがヴォーカルを務める新しいシン・リジィも見た。リッキーはシン・リジィのフロントマンという、とてつもなく難しい仕事をしている。度胸のある男だよ。

●シン・リジィのメンバーと交流したことはありますか?

ワイルドハーツを始めた頃、ロンドンの同じリハーサル・スタジオでゲイリー・ムーアもリハーサルしていたんだ。そのときに挨拶だけしたことがあるよ。ジャムをするなんて考えもしなかった。ゲイリーと俺では、あまりにギターのスタイルが異なるからね。別の機会に、スコット・ゴーハムと出くわしたこともある。ちっともロック・スターぶった感じがなくて、気さくな人だったよ。

●今となっては貴重な経験ですね。

今みたいに寝室でホーム・レコーディングすることが出来ない時代だったし、ロンドンのリハーサル・スタジオではいろんなミュージシャンと会ったよ。スウィートのブライアン・コノリーと出くわしたこともあったし、みんな地に足の着いた人ばかりだった。俺たちの音がデカ過ぎるって、カースティ・マッコールから文句を言われたこともあった。俺は彼女のファンだったから、ちょっと嬉しかったよ(笑)。いろんなアーティストとスタジオの通路で一服したり、近所のパブでビールを飲んだり、楽しかったね。1980年代の終わりや1990年代初めのことだ。もう500年前の話だよ(笑)!当時、ビールを飲み交わしたミュージシャンの中には亡くなってしまった人もいる。自分が今、ここにいることはラッキーだし、ファンのみんなに会うことが出来ることを幸せに感じるよ。11月に日本に行くのが楽しみだ。日本のみんな、マタネー!

【ミューテイション アルバム3作一挙日本発売】

- 『DARK BLACK』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3213)

- 『ERROR 500-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3212)

- 『THE FRANKENSTEIN EFFECT-REMASTERED-』 (VINYL JUNKIE/2017:VJR-3211)

レーベル公式サイト:Vinyl Junkie Recordings

【MUTATION JAPAN TOUR 2017】

- 11/13(月) 大阪・心斎橋 FANJ Twice OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/14(火) 名古屋・栄TIGHT ROPE OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/15(水) 東京・渋谷 TSUTAYA O-NEST OPEN 19:00 / START 20:00

- 11/16(木) 東京・渋谷 TSUTAYA O-NEST OPEN 19:00 / START 20:00

ツアー公式サイト:クリエイティブマン

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

山崎智之の最近の記事