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映画『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』音楽エクストリーム・インタビュー【前編】

山崎智之音楽ライター
(c)キングレコード+スペースシャワーネットワーク

映画『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』が公開。大爆音メタル・サウンドが日本列島を揺るがしている。

『ヘヴィ・トリップ/俺たち崖っぷち北欧メタル!』(2018)に続く第2弾となる本作。メタル・バンドIMPALED REKTUM(インペイルド・レクタム=“直腸串刺し”)は前作ラストで“精神異常者を誘拐、遺体を掘り起こし、フィンランドとノルウェーの武力紛争を招いた”罪状で刑務所で服役することになったが、本作で脱獄。世界最大のメタル・フェスと呼ばれるドイツ“ヴァッケン・オープン・エアー”への旅路が始まる。

日本からBABYMETALが出演、前作以上にスケールアップ。メタルや音楽のファンが楽しめるのはもちろん、メタルに馴染みがなくとも笑って泣いて、メタル・カルチャーへの扉を開く作品となっている。

共同監督の一人ユーソ・ラーティオとIMPALED REKTUMのメンバーを演じる ヨハンネス・ホロパイネン(トゥロ役/ヴォーカル)、 マックス・オヴァスカ(クシュトラックス役/ベース) チケ・オハンウェ(オウラ役/ドラムス)が『ヘヴィ・トリップ』ワールドの音楽についてエクストリームに語ってくれた。全2回のインタビュー前編、どこまでもヘヴィなトリップが始まる!

『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』ポスター/(c)キングレコード+スペースシャワーネットワーク
『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』ポスター/(c)キングレコード+スペースシャワーネットワーク


<メタル・コミュニティの人々がリアルだと感じられる映画>

●映画が公開される2024年12月はフィンランド首相のオルポ首相とJUDAS PRIEST、そしてIMPALED REKTUMが同時に来日するという、非常に豪華なフィンランド&メタル月間ですね。

マックス:ああ、オルポ首相は俺たちと同じ飛行機の便で日本に来たんだ。

●オルポ首相に対する国民感情はどのようなものですか?

ユーソ:良いとは言えないね。特に文化活動に対する支援を縮小するなど、音楽や映画の関係者からの批判が多いんだ。

チケ:失業率も上昇しているし、極右を支援するなど、好かれてはいないよ。

●『ヘヴィ・トリップ』第1作が公開されたとき、架空のロック・バンドを描いた映画ということで『スパイナル・タップ』や『バッド・ニュース』と比較されたりもしました。それらの作品ではジョン・レノン&オノ・ヨーコ、レッド・ツェッペリンのジョン・ボーナムの死など、現実の出来事をモチーフにした逸話がありますが、『ヘヴィ・トリップ』2作でも実際にあったエピソードを取り入れたりしていますか?

ユーソ:フィンランドのアンダーグラウンドでやっている幾つものメタル・バンドと話して、彼らの日常生活なんかを取り入れたんだ。メタル史の事件とかではないけど、いろんなヒントを得ている。そのおかげで、ミュージシャン達から「自分と同じだ!」と言われたりもした。第1作でトゥロは小都市で、自転車に乗ってバンドのリハーサルに行くけど、あるブラック・メタルのミュージシャンもそうしていて、通りすがりの付近住人に「馬鹿野郎!」と言われたと話していたよ。もちろんコメディ映画だし、キャラクターは間抜けだったりするけど、メタル・コミュニティの人々がリアルだと感じられるように気を付けたんだ。

●登場人物にモデルなどはいましたか?

ユーソ:具体的に1人の人物だったりはしなかった。自分の知っているメタル・コミュニティの人間を何人も組み合わせたり、誇張させたりしている。判りやすい例だと、ギタリストのロットヴォネンはMEGADETHのデイヴ・ムステインのチープなコピーだし、クシュトラックスのコープスペイント(=白塗り死体ペイント)はIMMORTALやアバスを思わせるものだ。

マックス:クシュトラックスの走り方は、アバスのミュージック・ビデオで森の中を走るシーンを参考にしたよ。

●クシュトラックスという名前にはどんな意味がありますか?ノルウェーのバンドBURZUMのカウント・グリシュナックと響きが似ていますが...。

ユーソ:BURZUMは特に関係ないよ。それよりもスイスのSAMAELのドラマー、クシュトラグプトル(Xytraguptor)からヒントを得たんだ。俺がエクストリーム・メタルを聴くようになった時期に好きだったバンドで、当時はブラック・メタルをやっていた。今ではインダストリアル・メタルっぽい音楽をやっているけどね。オマージュだったんだよ。意味は知らない。XやYが多い名前だな(笑)。

●死体の入った棺桶を“ヴァッケン・オープン・エアー”フェスの会場に持ち込むとき、セキュリティが「アバスのショーで使う死体だ」と通してくれますが、このネタはフィンランドでは一般の映画ファンでも判ることを前提にしていますか?

ユーソ:いやー、判らないんじゃない(笑)?決して閉ざされたメタル・ファンだけのために作った作品ではないし、いろんな人々に楽しんでもらえるようにしたつもりだけど、メタルを知っていたらさらに面白くなるちょっとしたインサイド・ジョークも幾つも取り入れているんだ。

チケ:第1作で俺にドラムスをコーチしてくれたのは、アバスのバンドのドラマー、ウークリ・スヴィレートだったんだ。直接の関係はないけど、アバスは濃厚なキャラクターだし、メタルについての映画だと避けては通れないんだよ(笑)。

(c)キングレコード+スペースシャワーネットワーク
(c)キングレコード+スペースシャワーネットワーク

<決して排他的になることなく、それでいてメタルを判る人がニヤリと出来るネタ>

●第2作で登場するバンドBLOODMOTORのシンガー、ロブは外見がMOTORHEADのレミーやSAINT VITUS / THE OBSESSEDのスコット“ワイノ”ワインリック、低音ヴォイスがグレン・ダンジグやTYPE O NEGATIVEのピーター・スティールを思わせたりしますが、彼らがモチーフとなったでしょうか?

ユーソ:うん、ピーター・スティールが元ネタだよ。もちろんいろいろ変えているし、オリジナルなキャラクターだけどね。TYPE O NEGATIVEはずっと前から大好きなんだ。2007年だったかな、ライヴを見たこともある。ピーターが亡くなる少し前で、体調がベストではなかったかも知れないけど、とにかく見ることが出来たのは嬉しかった。今回東京の古着屋でTシャツを見つけて買ったばかりなんだ。

●第2作に登場するBLOODMOTORは第1作でもトゥロの部屋にポスターが貼られていましたが、その頃からバンドの音楽性やロブのキャラは決まっていたのですか?

ユーソ:いや、あの時点では続編を作るなんて夢にも思っていなかったし、BLOODMOTORの音楽をどうするかも考えていなかった。ただ、トゥロがBLOODMOTORがいかに素晴らしいか熱弁を振るうシーンがあったんだ。前後の繋がりからカットすることになったけどね。それで第2作でトゥロが尊敬するバンドを出すことになったとき、BLOODMOTORを出すのが最も自然だったんだ。彼らの音楽については超低音ヴォイスとか、ラフなイメージを音楽担当のミカ・ラマサーリに伝えて、曲を書いてもらった。だからBLOODMOTORの音楽はミカの産み落とした赤ちゃんといえるものだよ。

●あなたと共同監督のユッカ・ヴィドゥグレンは2011年にミカがやっているメロディック・デス・メタル・バンド、MORS SUBITAの「The Sermon」ミュージック・ビデオを監督・撮影していますが、その頃からの付き合いですか?

ユーソ:俺とユッカはオウルの高等専門学校でメディアを専攻していたけど、ミカも同じ学校で学んでいたんだ。それで彼と知り合った。初めて一緒にやったのはクリスチャン・メタル・バンドのミュージック・ビデオのプロジェクトで、彼がプロデューサー、俺が視覚効果担当だった。バンド名は覚えていないよ(笑)。それでミカはMORS SUBITAを結成して、俺とユッカにビデオを作って欲しいと頼んできたんだ。「The Sermon」が最初で、5本ぐらい制作したのを覚えているよ。彼らはクールなバンドだ。日本でもショーをやったことがあるそうだね、

●ミカ・ラマサーリとのプロフェッショナルな関係はどのようなものですか?

ユーソ:俺たちはみんな自分たちのやっていることに情熱を持っているんだ。一度ミカと大喧嘩になったことがある。MORS SUBITAのミュージック・ビデオを作っていて、メンバー達がいろいろ注文を付けてきたんでその日、ユッカに「あいつらは最低だ。ギャーギャー言わず黙って俺に仕事をさせろ」とメールしたんだ。そうしたらバンド全員にもうっかり同時送信していたんだよ。あのときは顔面からサッ血の気が引いたね(笑)。まあでも仲直り出来て、今回も一緒にやっている。お互いに明確なヴィジョンがあるし、妥協をすることがないという点で共通している。でもそのせいで、しょっちゅう衝突しているんだ。

●第1作でIMPALED REKTUMが「Kuusamo」をカヴァーして、フィンランドで話題になったと聞きます。この曲のオリジナルはイタリアのALBATROSSが1975年に「Africa」として発表したもので、フランスのジョー・ダッサンによる「L’Ete Indien」がヨーロッパのフランス語圏で大ヒット、日本でも藤岡弘(当時)が「愛の挽歌」として歌っています。どんな想いを込めてこの曲をフィーチュアしたのですか?

ユーソ:「Kuusamo」は1970年代にダニーというフィンランドの歌手がヒットさせて、当時を生きたフィンランド人だったら誰でも知っている懐かしのメロディなんだ。ダニーは80歳ぐらいだけど健在で、よく若い女の子とデートしたとかでニュース記事になっている。「Kuusamo」をやったのは古臭い曲をエクストリーム・メタルでやるというギャグだけど、良い曲だと思うよ。

●スウェーデンのオカルト・ロック・バンドYEAR OF THE GOATがスコア(劇伴音楽)を手がけていますが、彼らを起用したのは?彼らは普段ロック曲を書いていますが、スコアを書くことはスムーズに行きましたか?

ユーソ:YEAR OF THE GOATは俺のここ15年ぐらいのお気に入りのバンドなんだ。フィンランドのTHE MAN-EATING TREEというバンドのミュージック・ビデオを作って、Facebookで友達になったんだけど、彼らがYEAR OF THE GOATのビデオにリンクを貼っていて、それですっかりファンになった。とても色彩を感じさせる音楽をやっているバンドだね。映画音楽に向いているタイプだと思って、第1作の時点でスコアを頼みたかったんだ。でも当時俺たちはまったく無名だったし、頼むには至らなかった。

●第1作のスコアを手がけたラウリ・ポラーも実績のある人ですよね?

ユーソ:その通りだ。彼はフィンランドのヘヴィ・メタル・バンドSTRATOVARIUSのベーシストで、オーケストラ音楽のコンポーザーでもある。映画やテレビ向けの音楽もいくつも書いていて、チェーホフの戯曲『桜の園』に音楽を付けたり...さらに彼は作曲家シベリウスの曾孫でもあるんだ。彼が引き受けてくれたことは光栄だったけど、第2作では今度こそYEAR OF THE GOATと一緒にやりたかった。それで1作目のDVDを送って、スコアを書いて欲しいと頼んでみた。彼らからイエスという答えが返ってきたときは、天に昇るような気持ちだったね!ただ彼らはスコアというものを書いたことがなかったし、俺も自分が求めているものを明確に伝えることが出来なかった。さらに彼らは昼間の仕事もしていたから、スケジュールに無理があったんだ。最終的に彼らの既発曲も使っているし、一部分は有りもののライブラリ・ミュージックを使う必要があった。ほんの一部だけど、本当はYEAR OF THE GOATにすべて書いてもらいたかったね。作業自体はとても楽しかった。キーボード奏者のポープはサウンド・デザインの素養があって、素晴らしいアイディアを幾つも出してくれたよ。

●第2作のエンド・クレジットにマイケル・ラファエルという人が楽曲提供でクレジットされていて、配信サイトで検索したら『METAL MANIA』『NASHVILLE COUNTRY』『MELLOW DAYS』など、ありとあらゆるジャンルの音楽を“それっぽく”曲にしたライブラリ・ミュージック・コンポーザーだと判明しました。ガチガチのメタル原理主義者のクシュトラックスだったら「偽メタルに死を!」と激怒しそうですが...。

ユーソ:ストック音源については、俺が選曲したわけではないんだ。でも2、3箇所で使っただけだし、そのシーンを無音にするよりも、はるかに効果的だと思う。きっとクシュトラックスも許してくれると思うよ。

●2作連続でさりげなくメタルの名曲の歌詞を引用しているのが可笑しかったです。1作目ではドラマーの葬式でクシュトラックスが弔辞としてBLACK SABBATHの「Children Of The Sea」を読んだり、第2作では執拗にIMPALED REKTUMを追う刑務所の看守ドッケンがTVニュースへのコメントでSLAYER「Angel Of Death」歌詞を語ります。それらを使った意図は何でしょうか?他に候補などはありましたか?

ユーソ:メタル・コミュニティで共有できるネタを込めたんだ。決して排他的になることなく、それでいて判る人がニヤリと出来るような、ね。あまり深く考えることなく、パッと浮かんだよ。ただ、「Angel Of Death」については少し考える必要があった。歌詞の内容がナチの強制収容所についてだから、誤解されないか心配だったんだ。ただ俺たちは決して悪意を込めて使ったのではないし、そもそもあれが「Angel Of Death」の歌詞だと気付いた人も少ない。深刻に捉えることなく、メタル・ファンのインサイド・ジョークとして楽しんで欲しいね。

●彼女のドッケンという名前はバンドのDOKKENから取ったものですか?

ユーソ:彼女の名前を考えたのは1作目の脚本家の1人アレクシ・プラネンなんだ。正解は彼に訊いてみる必要があるけど、ノルウェー、ドイツ、フィンランドでも見かけない名前だし、たぶんバンドから取ったんだと思う。その理由は判らない。アレクシもメタル好きだけど、DOKKENのファンだからか、LAのヘア・メタル・バンドだからギャグにしたのか...いつか機会があったら訊いてみるよ。

●他にメタル・ファンに向けたインサイド・ジョークにはどんなものがありますか?

ユーソ:俺自身がファンだし、ギタリストのロットヴォネンも好きだという設定だから、MEGADETHのネタがあちこちに散りばめられているんだ。“ヴァッケン・オープン・エアー”フェスのバックステージに偽デイヴ・ムステインがいたりね。俺たちが『ヘヴィ・トリップII』のロケで“ヴァッケン”に行ったとき(2023年)、MEGADETHも“ヴァッケン”に出演していたんだ。残念ながら出演日か時間帯が違ったのか、会うことが出来なかった。事前に根回しとかしておかなかったこともあるけど、バックステージで会えたらぜひIMPALED REKTUMと対面して、それを撮影したかったんだけどね!刑務所の看守がパスコードを入力するとき「Symphony Of Destruction」が鳴ったり、小ネタもあるんだ。

●『ヘヴィ・トリップII』のポスターでロットヴォネンがMEGADETHの『RUST IN PEACE』Tシャツを着ていますが、権利はクリアしましたか?

ユーソ:それはプロデューサーの仕事の範疇だけど、必要に応じてライセンス料などを払っている筈だよ。MEGADETHのTシャツを着ていなければ経費削減になっていたかも知れないけど、後の祭りだ(笑)。

インタビュー後編ではIMPALED REKTUMの面々にさらにヘヴィなトリップへといざなってもらおう。

後編記事に続く!


【作品情報】

『ヘヴィ・トリップⅡ/俺たち北欧メタル危機一発!』

製作:カイ・ヌールドベリ、カールレ・アホ|監督・脚本:ユッカ・ヴィドゥグレン、ユーソ・ラーティオ

出演:ヨハンネス・ホロパイネン(トゥロ)、マックス・オヴァスカ(クシュトラックス)、サムリ・ヤスキーオ(ロットヴォネン)、チケ・オハンウェ(オウラ)、アナトーレ・タウプマン、ヘレン・ビースベッツ、ダーヴィト・ブレディン、JUSSI69、SU-METAL (BABYMETAL)、MOAMETAL (BABYMETAL)、MOMOMETAL (BABYMETAL) 他

2024年|フィンランド映画|96分|カラー|スコープ|DCP|原題:HEAVIER TRIP|字幕翻訳:堀田雅子|字幕監修:増田勇一

後援:フィンランド大使館|共同提供:キングレコード+スペースシャワーネットワーク|宣伝:HaTaKaTa|配給:SPACE SHOWER FILMS 

© 2024 Making Movies, Heimathafen Film, Mutant Koala Pictures, Umedia, Soul Food

大ヒット上映中!

公式HP https://heavytrip-2.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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