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2017年1月、ザ・ワイルドハーツ『フィッシング・フォー・ラッキーズ』完全再現ライヴが日本で実現

山崎智之音楽ライター
The Wildhearts / photo by Naoki Tamura

ザ・ワイルドハーツが2017年1月31日(火)、東京・渋谷O-EASTで1回のみの『フィッシング・フォー・ラッキーズ』再現ライヴを行う。

2008年11月には『アースVSザ・ワイルドハーツ』(1993)の15周年、2015年11月には『P.H.U.Q.』(1995)の20周年を祝うアニヴァーサリー・ライヴを日本で行ってきたザ・ワイルドハーツだが、今回『フィッシング・フォー・ラッキーズ』を持ってきたのは驚かされた。このアルバムは“外伝”的な位置を占める、複雑な経緯を辿ってきた作品だからだ。

Fishing For Luckies (original)
Fishing For Luckies (original)

バンドのリーダーでソングライターのジンジャー・ワイルドハートは当初『P.H.U.Q.』を2枚組アルバムにすることを考えていた。だが当時バンドが契約していた英『イースト・ウェスト・レコーズ』はそのアイディアを却下。仕方なく彼らはアルバムのレコーディング・セッションからレコード会社に嫌われた6曲を1994年12月、ファンクラブ・オンリーで『フィッシング・フォー・ラッキーズ』として発売したのだった。

一般ショップの店頭に並ぶことがなく、11分半の「スカイ・ベイビーズ」を筆頭に「イングロリアス」「スキゾフォニック」など長尺曲が収録されていたこのアルバム(全6曲ながら43分の長さ)は『Kerrang!』誌で最高の“KKKKK”という高評価を得たのを筆頭に各メディアで絶賛され、一気にコレクターズ・アイテムとなった。2017年の感覚だと5千枚というとけっこうな枚数に感じるが、1994年当時では十分“限定盤”だったのである。

『P.H.U.Q.』が1995年5月に発売、全英チャート6位というヒットを記録したことで、『イースト・ウェスト』は便乗して『フィッシング・フォー・ラッキーズ』に3曲を追加した『フィッシング・フォー・モア・ラッキーズ』を発売しようとする。

Fishing For More Luckies
Fishing For More Luckies

バンドの猛反発もあり、このアルバムはギリギリで発売中止となるが、既にCDとLPは製造されており、後にカットアウト盤CD(CDケースやジャケットに切り込みや穴を開けて、新古盤扱いとして販売するもの)が中古盤ショップやイギリス国内のレコード・フェアに出回った。

なお『〜モア・ラッキーズ』はLPもプレスされたが、やはり一般流通することがなく、極少数(枚数は不明)のため、ファンが血眼になって探す究極のレア・アイテムのひとつとなっている。

この一連のドタバタで、バンドと『イースト・ウェスト』の関係は冷え切っていた。ジンジャーは「イフ・ライフ・イズ・ライク・ア・ラヴ・バンク、アイ・ウォント・アン・オーヴァードラフト」のミュージック・ビデオでアダルトTV広告のパロディ(性器モロ出し。コレを見てレコード会社の女子社員が泣き出したほどだった。検閲ヴァージョンも作られた)をやったり、「レッド・ライト、グリーン・ライト」では赤と緑の電球を交互に付けたり消したりする“だけ”のビデオを作るなど、レコード会社への嫌がらせに近い行為を繰り返していた。

ジンジャーは自分が発表してきたザ・ワイルドハーツやソロ、数々のプロジェクトの作品を全曲解説する大型本『Songs & Words』を2016年に刊行しているが、『フィッシング・フォー・ラッキーズ』の章では曲解説をほっぱらかして『イースト・ウェスト』を口を極めて罵っている箇所もあるほどだ。

『イースト・ウェスト』が改めて『フィッシング・フォー・ラッキーズ』を公式リリースしたいと言ってきたとき、ジンジャーが首を縦に振ったのは、契約にあるアルバムの規定枚数をとにかく早くクリアして、さっさと縁を切りたいという思惑があったからだった。

Fishing For Luckies (version three)
Fishing For Luckies (version three)

そうして1996年にリリースされた3番目の『フィッシング・フォー・ラッキーズ』は、オリジナル盤から「イフ・ライフ・イズ・ライク・ア・ラヴ・バンク〜」と「ジョーディ・イン・ワンダーランド」2曲をカット(シングル発売されたため)、新たに6曲を追加した全10曲仕様だった。ジャケット・アートワークは空き缶の山をバックにしたフグに変えられた。

なおアルバムの原題は『Fishing For Luckies』だが、さらに4曲のボーナス・トラックを加えた全14曲仕様の日本盤CDの邦題は何故か『フィッシング・フォー・モア・ラッキーズ』だった。

ちなみにイギリス盤はCDケースに加工がされて、ジャケットのフグが出たり消えたりする仕様だった。『イースト・ウェスト』はジンジャーにこのサンプル盤を送っていなかったらしく、1996年10月の来日時に都内のCDショップで彼がCDを手にとって珍しそうにフグを出したり消したりしている姿が目撃されている。

そうしてザ・ワイルドハーツは無事『イースト・ウェスト』との契約を終了するわけだが、ジンジャーは「当時のアルバムの印税がまったく入ってこない」と『Songs & Words』で愚痴っている。『フィッシング・フォー・ラッキーズ』を含むバック・カタログは2010年に英『レモン・レコーズ』からボーナス・トラックを加えて再発されているが、その印税も入ってこないのだろうか、気になるところである。

このように複雑な背景のある『フィッシング・フォー・ラッキーズ』だが、音楽的には素晴らしいものだ。ブレイクスルー作となった『アースVSザ・ワイルドハーツ』を超える作品を、まったく異なる手法で生み出そうとした入魂の作品であり、その完全再現はきわめて控えめに言って必見!のライヴだ。

今回のライヴは第1部が『フィッシング・フォー・ラッキーズ』再現、第2部が歴代の名曲の数々という構成だ。来日直前にイギリスのマンチェスターとノッティンガムで行われたステージでは「TVタン」「サッカーパンチ」「アイ・ワナ・ゴー・ホェア・ザ・ピープル・ゴー」そしてもちろん「29×ザ・ペイン」なども披露されたが、日本公演ではどんな曲がプレイされるか、期待が高まる。

2月に東京都内で2回行われるジンジャーのソロ・アコースティック・ライヴも瞬殺ソールドアウトになるなど、根強い人気を誇るザ・ワイルドハーツ。一夜限りのプレミアム・ライヴ、いよいよ待ったなしだ。

画像

THE WiLDHEARTS『Fishing For Luckies』Japan Show 2017

東京 2017/1/31(火) 渋谷TSUTAYA O-EAST

OPEN 7:00pm / START 8:00pm

Opening Act: 流血ブリザード (START 7:10pm)

公演オフィシャル・サイト 

https://www.creativeman.co.jp/event/wildhearts2016/

日本レーベル・サイト Vinyl Junkie

http://vinyl-junkie.com/

音楽ライター

1970年、東京生まれの音楽ライター。ベルギー、オランダ、チェコスロバキア(当時)、イギリスで育つ。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業後、一般企業勤務を経て、1994年に音楽ライターに。ミュージシャンを中心に1,300以上のインタビューを行い、雑誌や書籍、CDライナーノーツなどで執筆活動を行う。『ロックで学ぶ世界史』『ダークサイド・オブ・ロック』『激重轟音メタル・ディスク・ガイド』『ロック・ムービー・クロニクル』などを総監修・執筆。実用英検1級、TOEIC945点取得。

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