【フランス】ノートルダム再生続報 樹齢200年のオークに白羽の矢
いよいよ再建作業に着手
パリのシンボル、ノートルダム大聖堂。2019年4月15日のあの大火災からもうじき2年になりますが、今日も修復作業が続いています。
火災で焼けて鉄の塊と化した足場を撤去する作業が、昨年11月下旬に完了しましたが、つまりそれまでは再建に着手するための長い準備段階だったわけです。
屋根の再建にあたっては、新しいデザインが採用されるのかなど議論されましたが、結局は元通りの姿に復元。しかもコンクリートや鉄骨などの新しい建材を採用するのではなく、以前と同じように、木材と鉛を使う方針が固まりました。
そしていま、春の気配とともに新しいフェーズに入っています。先週末、フランスの国有林で、文化大臣と農業大臣が新しい尖塔の柱になる1本目のオークに印をつけたことがニュースになりました。
場所は24時間耐久レースで有名なル・マンから車で30〜40分ほどのところにあるベルセの森。選ばれた木は、幹の直径1メートルあまり、高さ20メートル以上ある、樹齢200年を超えるオークで、合計8本の木が3月半ばまでに切り出されることになっています。
続いて今後は全国から、合計2000本のオークが選ばれて再建に提供される予定で、切り出した後12〜18ヶ月間乾燥させ、水分量が30%以下になってからはじめて、伝統の技を受け継ぐひとたちの手にかかります。
フランス全土の森の木を結集
そもそもフランスのオーク材は、ワイン醸造の樽、住宅の床材としても馴染みがありますが、この最初のオークが選ばれたベルセの森は、1669年、ルイ14世時代の財務総監コルベールによって整備されたもの。当時は王の船に使う一級の木材を得ることが目的だったようです。
3月5日付『ル・フィガロ』の記事によれば、2000本のオークのうちの半分は国有・公有林から、もう半分は私有林から選ばれる予定。国有林だけではまかないきれないからかと思いきや、さにあらず。というのも、1000本という量は年間の伐採量の0.1%ほどなのだそうで、私有林からも、また良質オーク材の産地として有名な地方に限らず、むしろオークの少ない南仏、コルシカの森からも供給する予定なのは、世紀の再建に寄与したいという声に応えるため。それほど「我も、我が地方も」という、ノートルダムに寄せる人々の思いの強さが表れています。
千年ビジョン
火災で焼けてしまったオークは13世紀からずっと、およそ800年も屋根を支えてきました。今回の木も800年、1000年耐えうることを意図して選ばれています。ベルセの森の第1本目は、樹齢230年とも言われます。ということは、フランス革命(1789年)のすぐあとにはこの世に存在していたわけで、樹齢終盤でわたしたちと同時代を生きたのち、伐採されてノートルダムの一部になるのです。今後、災厄に見舞われなければ、西暦3000年の未来にも変わらずにそこにあるはずです。
コロナ禍で新規感染者の数字を追いかける日々。ワクチン開発に何ヶ月かかったか、カーボンゼロは10年単位の目標…。そういった時間の尺度に慣れてしまった現代人からすると、1000年という単位はほとんど宇宙的スケールに思えます。歴史遺産にわたしたちが思わず畏敬の念を抱くのは、人間の目盛りをはるかに超越した時の集約をそこに見るからなのかもしれません。
再建の完成予定は2024年。火災翌日、マクロン大統領が明言した目標は、コロナ禍にあっても修正されずに保たれています。
フランス語でchêne(シェーヌ)、英語だとオークと訳されるこの木。日本語では、ナラ、柏、カシなどと訳されてきていて、筆者の表記にもブレがありました。『ロベール仏和大辞典』(小学館)をひくと、最初の項目に「ブナ科のコナラ属(Quercus)の総称」とあり、樫よりもむしろ楢という訳のほうが正しいようです。
※これまでご紹介してきたノートルダム再建の記事は、こちらからご覧ください。
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