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AdoとYOASOBI、正反対の楽曲制作をする日本音楽シーンの2トップ 地続きの世界へ

武井保之ライター, 編集者
『Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish”』公式サイトより

ゴールデンウィーク中のエンターテインメントシーンの音楽トピックをAdoとYOASOBIがさらっている。まさに両者ともいまの日本音楽シーンを代表する2トップとなるアーティストであり、ともに初の世界ツアーをスタートしている。

ともに世界ツアーをスタートさせたAdoとYOASOBI

Adoは今年2月から4月にかけて、タイ、台湾、韓国などアジア各国から、フランス、イギリス、ドイツ、アメリカと欧米まで世界11カ国14都市をまわる初のワールドツアー『Ado THE FIRST WORLD TOUR “Wish”』を成功させたばかり。

4月27日、28日には初の国立競技場ライブ『Ado SPECIAL LIVE 2024「心臓」』を開催。音響面に関して一部SNSやネットニュースが騒いだが、2日間の客席を埋め、その手応えを次のアリーナツアーにつなげようとしている。

YOASOBIは昨年12月から今年1月にかけて、香港、韓国、台湾ほかアジア各国をまわる初のアジアツアー『YOASOBI ASIA TOUR 2023-2024』を開催。4月にはアメリカ最大級の野外フェス『コーチェラフェス』への出演のほか、ロサンゼルス、サンフランシスコでの初北米単独公演も成功させている。

また、中国の5月連休中の各地の音楽フェスにも出演。5月2日は天津の『BUBBLING & BOILING MUSIC & ARTS FESTIVAL』、5月4日は杭州の『DREAM FUTURE KILOGLOW MUSIC FESTIVAL』でそれぞれのステージのヘッドライナーとして登場し、中国本土のファンを熱狂させた。

日本音楽シーンのトップを走る対照的な制作スタイルの2組

日本音楽シーンの2トップであるAdoとYOASOBIは、音楽制作を見ると正反対のスタイルであるのが興味深い。

YOASOBIは、作家であるコンポーザーのAyaseが、ボーカルのikuraをパートナーとして、曲ごとにさまざまな彼女のポテンシャルを引き出し、彼女の可能性に挑戦しながら、曲をブラッシュアップする。さまざまな曲を通してユニットとしての2人の世界が進化を遂げ、成長していく。

一方、Adoはネットのボカロ文化から生まれた歌い手であり、メジャーシーンでもそれをそのまま背負って活動する。

歌い手であるAdoが中心となり、自身も要素のひとつとなって、ボカロPや作曲家、作詞家、イラストレーター、映像作家などさまざまなクリエイターが集まることで、その時々に最高の1曲を制作する。曲ごとに異なるクリエイターたちが手がける総合芸術的な音楽になる。

どちらもこれまでの現代音楽シーンやネット音楽文化のなかで行われてきた制作手法だが、それぞれの音楽性がジャンルごとのファンを超えて一般層にまで響き、メインストリームの音楽となっている。

昨年末の『第74回NHK紅白歌合戦』は、この2組が最大の目玉となり、番組を大いに盛り上げ、ネットやSNSを沸かせたのは記憶に新しい。

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地続きの世界へと活動を広げるボーダレス世代

そんなAdo、YOASOBIともに視線は世界へ向いている。そもそもネットで音楽を発信している彼らにとって、活動の場として世界は地続きであり、はじめからファンは日本だけでなく世界中に存在している。

彼らの時代に、世界進出という日本メディアの言葉はそぐわないのかもしれない。彼らにとっては、国内も世界もファンのもとに音楽を届けにいくだけ。それぞれの場所で、生のライブパフォーマンスから新しいファンを生み出すとともに、コアなファンダムを拡大していく。

日本のメインストリームのトップに立ち、日本が世界に誇るトップアーティストの2組であることは間違いないが、彼らにとってそこは地元の商店街のステージくらいの意識かもしれない。

彼らは見ている景色も意識も違う。純粋に自らの音楽を1人でも多くの人に届けるために活動の場を広げていく。いずれ日本は彼らにとっての活動場所のひとつという位置づけになるのだろう。

そして、その活動から自然に、彼らのバックボーンである日本音楽が世界に浸透していく。そんな流れが生まれつつあるのかもしれない。

エンターテインメントにおいては、日本は韓国に遅れているとよく言われる。コロナ禍の頃まではそうだったかもしれない。しかし、いま世界を見れば、世界的に高い評価を受け続けるアニメのほか、毎年のように世界三大映画祭を席巻している日本映画も、世界公演を続々と成功させるさまざまなジャンルの日本のアーティストたちも、圧倒的な存在感を世界に示している。

ただし、映画制作に関しては、是枝裕和監督が主張しているように、フランスや韓国をはじめとした世界と比べても、映画を文化、産業として未来へ向けて発展させていくための国や業界としての環境が整っていない事実が一方である。

(関連記事:是枝裕和監督、総理官邸で映画業界の問題点を提起「業界や行政にビジョンがない」岸田総理は実態調査に言及

音楽、映画に共通するのは、世界を地続きと捉えて活動を広げようとするボーダレス世代が育っていること。彼らがいままさに次の時代を築き上げようとしているのではないだろうか。

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ライター, 編集者

音楽ビジネス週刊誌、芸能ニュースWEBメディア、米映画専門紙日本版WEBメディア、通信ネットワーク専門誌などの編集者を経てフリーランスの編集者、ライターとして活動中。映画、テレビ、音楽、お笑い、エンタメビジネスを中心にエンタテインメントシーンのトレンドを取材、分析、執筆する。takeiy@ymail.ne.jp

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