是枝裕和監督、総理官邸で映画業界の問題点を提起「業界や行政にビジョンがない」岸田総理は実態調査に言及
是枝裕和監督は4月17日、総理官邸で開催された「第26回新しい資本主義実現会議(議題:官民連携によるコンテンツ産業活性化戦略 )」に出席し、日本の映画業界の問題点と課題解決に向けた提言を行った。
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是枝監督が語った日本の映画文化・産業の問題点と可能性
会議の冒頭で是枝監督は「内閣官房の新原審議官からヒアリングをしたいというご依頼をいただき、不慣れな場所にきました」とあいさつ。続けて、30年の映画監督人生を振り返りながら、映画業界の現状について語った。
「この30年の映画を巡る状況の変化は大変激しく、自分自身を取り巻く状況に限っても、撮影や編集がフィルムからデジタルに変わり、全国のミニシアターをつなぐことで実現していた小中規模の公開モデルや、VHSやDVDによる二次利用からの収益を期待して形成されたビジネスモデルが崩壊しました。新しく配信が台頭していくなかで、なんとか生き残り、作り続けることができたのはとてもラッキーだったと思っています」(是枝監督)
一方、これからデビューする監督やプロデューサーほか、映画製作に携わるスタッフ、キャスト、映画ファンが置かれる現状と未来を危惧する。
「今後10年、20年を視野に入れたビジョンや対策を、日本の映画業界や行政が持ち得ているかというと、そうではない。何となくこのままではまずいと感じながらも、リーダーシップをとって皆を集め、解決へ向けて話し合う状況に至っていません。
一監督としては出過ぎた言動にならないかと危惧しながらも、危機感からこのような場へのこのこやって来たり、同じ価値観・危機感を共有する有志の仲間と団体を作り、問題解決へ向けて活動しています」(是枝監督)
そして、「自分なりの経験に基づいて感じる日本の映画の文化・産業の問題点や可能性について」とし、労働環境の改善、流通(国内、国際展開)の問題点、作り手の教育と10年後の映画ファン育成の課題、制作環境の問題点、省庁を横断した統括機関設立の意義について提言。
最後には「何らかの新しい提言や機構作り、法改正をご検討いただけた場合は、きちんと国会で議論をしていただき、超党派的な取り組みにしていただきたい」と言葉に力を込めた。
会議を終えた是枝監督は「映画を取り巻く現在の問題点とその解決へのビジョンを自分なりに提言しました。出席されていた他の委員の方がとても正確に、多角的に映画界の問題点を捉えられているのがわかり、少し安心しました」とコメントしている。
■是枝監督提出PDF資料:内閣官房「新しい資本主義実現会議(第26回)」サイト
岸田総理は実態調査と対策の策定に言及
一方、会議を受けて岸田文雄内閣総理大臣は「アニメ・映画・音楽・ゲーム・漫画・放送番組といったコンテンツは、我が国の誇るべき財産です。そして、技術進歩によりコンテンツの競争力の源泉は、クリエイター個人に移りつつあります」との認識を示す。
そのうえで「制作現場の労働環境や賃金の支払といった側面で、クリエイターが安心して持続的に働くことができる環境が未整備です。我が国のクリエイター個人の創造性が最大限発揮される環境を整備する必要があります」と言及。
そして、その実現のための今後の取り組みを下記のように述べた。
「公正取引委員会の協力のもと、契約を適正化するため、実態調査を行い、結果を踏まえて、優越的地位の濫用を防止し、それに反する行為は独占禁止法に抵触するおそれがあることを示す指針の作成を図ります。官民の取組により、制作サイドに収益を還元するビジネスモデルを構築いたします」(岸田総理)
加えて、日本エンターテインメントコンテンツの輸出強化についても指針を示した。
「海外展開を促進するため、国際見本市や国際映画祭における出展機能や、海外への進出に際しての制作会社に対するビジネス展開の支援の抜本強化、そして、若い人に対する留学支援や国内での学びの場の整備などを実施いたします。
官は環境整備を図りますが、民のコンテンツ制作には口を出さないという、官民の健全なパートナーシップを築くことを目指して、この春の実行計画の改訂に向けて、政府を挙げて、官民連携によるコンテンツ産業活性化戦略を策定していきます」(岸田総理)
日本のコンテンツ産業をはじめとするエンターテインメント分野への国の制度や仕組みは、映画や音楽といったエンターテインメントを国の文化として積極的に支援、育成するフランスや、国策として世界進出を後押しする韓国と比較して遅れている。
是枝監督と諏訪敦彦監督が共同代表を務めるaction4cinema(日本版CNC設立を求める会)は、日本の映画産業の未来に危機感を持ち、業界の健全な発展のためにさまざまな取り組みを行っている。
今回の提言もそのひとつとなるが、岸田総理からの言葉は、なかなか動かない現状からの一歩前進になるだろう。これからの進捗を注視していきたい。
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