「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆1,290億円のごみ処理減らす自治体の取り組み
5月30日はごみゼロの日。「ごみゼロ」の意を表す「ゼロウェイスト」運動は、1990年代半ば、米カリフォルニアやイタリアで環境保護運動を通じて醸成された(『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版)(1)。世界的な組織である「ゼロウェイスト国際連合」(2)もあり、イタリアでは300以上の自治体がゼロウェイスト宣言をおこなっている。一方、日本でゼロウェイスト宣言したのは5自治体のみにとどまる(徳島県上勝町、福岡県大木町、熊本県水俣市、奈良県斑鳩町、福岡県みやま市)(3)。
生ごみ重量の80%は「水」
ゼロウェイスト(ごみゼロ)達成とごみ処理コストを減らす上でキーポイントとなるのが、食品ロスを含む生ごみだ。なぜなら、生ごみ重量のうち、80%以上は「水分」だからだ。乾燥させれば、生ごみの重量は大幅に減り、必然的にごみ全体の重量も減る。
筆者は2017年に家庭用生ごみ処理機を自治体の助成金制度で半額で購入した。2017年6月から2022年5月までに累計318kg以上の生ごみを減らした。下のグラフのオレンジ色の部分が減らせた重量だ。平均して68%を減らすことができた。
家庭用生ごみ処理機は全国60%以上の自治体で助成金制度が導入されており、最大で6万円を補助する自治体もある(和歌山県橋本市)。新年度の今がチャンスだ。
一般廃棄物の年間処理費2兆1,290億円を減らす自治体の取り組み
2022年3月29日、環境省は、「一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について」を発表した(4)。一般廃棄物(産業廃棄物以外の一般廃棄物)について、排出量や処理コストを示したものである。
ごみ総排出量 4,167万 トン(前年度 4,274 万トンから2.5%減)
1人1日当たりごみ排出量 901 グラム(前年度 918 グラムから1.9 % 減)
リサイクル率 20.0 % (前年度 19.6 %)
ごみ処理事業経費 21,290 億円 (前年度 20,885 億円)
ごみ処理事業経費は前年度にも増して2兆1.290億円となった。2兆円以上をごみ処理に使っている。われわれが納めた税金である。
韓国では、政府がトップダウンで生ごみのリサイクルを義務付け、2016年時点でリサイクル率は97%を超えた(1)。日本は韓国の進み具合とはほど遠いが、全国の自治体が取り組みを進めている。全国の自治体による、生ごみを減らす取り組みに着目して紹介したい。
長野県
長野県は6年連続で47都道府県中、一人一日あたりのごみ排出量が最も少ない。ごみ袋有料化やごみ袋記名式、コンポストなど、さまざまな取り組みを続けており、環境意識の高い都道府県だ。令和2年度には惜しくも京都府に抜かれ、全国で2位となった。
だが、6年連続トップは素晴らしい。長野県は、平成22年度から令和2年度までの11年間、ベスト4に入り続けている。
一人一日のごみ排出量の目標を800gと設定した“チャレンジ800″ごみ減量推進事業を継続している。目標まで一人あたりが減らすべき量を、ミニトマト1個分の重さに換算し、市民にわかりやすく啓発している(5)。
長野県須坂市
長野県須坂(すざか)市は、2013年7月から「生ごみ出しません袋」を希望する市民に無料で配布している。今年2022年も、5月2日から9月30日まで、15リットルの袋を60枚、生活環境課に申請、配布している(5月に申請すれば60枚だが、6月に申請すると50枚、以降、毎月10枚ずつ減っていく)(6)。10年目の取り組みだ。2021年に「生ごみ出しません袋」の活用を呼びかけたページには、食品ロス削減のことも次のように書いてあった(2022年は記述なし)。
通常の可燃ごみ袋は、処理料金を上乗せした価格で買う必要があるが、「生ごみ出しません袋」なら無料だ。市民が減らすことでインセンティブを得られる(6-1)。市民が排出者責任を自覚するため、記名式になっている。
長野県上田市
長野県上田市は、2016年から「生ごみ出しません袋」を配布している。2022年5月16日から2023年3月31日まで、一世帯30枚を希望する世帯に配布する(7)。有料ごみ袋は一枚あたり25円から35円するが、生ごみ出しません袋なら無料だ(8)。
長野県須坂市と上田市の令和2年度の一人一日あたりのごみ排出量を見ると、ともに前年度(令和元年度)より1.2%減少している(9)。
上田市は、堆肥化や畑に埋めるなどして生ごみを減らす世帯から「生ごみを出さない家庭への支援はないのか」といった声が寄せられていたそうだ。そこで上田市は、生ごみの自家処理に取り組む世帯を増やしたいと考え、2016年からの無料配布に踏み切った(10)。
長野県川上村
長野県川上村は、全国の人口10万人未満の自治体の中で、一人一日あたりのごみ排出量が最も少ない。2022年4月に取材したところ、川上村では、行政が生ごみを回収していない。生ごみは水分が多く、ごみの中で一番、重量が多いので、住民自身に自家処理してもらっている。また、生ごみ処理機を導入しており、乾燥させた生ごみであれば、可燃ごみとして出すことができるとしている(11)。
福岡県柳川市
福岡県柳川市は、2021年1月から、可燃ごみ袋の名称を「燃やすごみ」から「燃やすしかないごみ」に変えた。朝日新聞(2020年11月28日付)の取材に対し、柳川市は「がんばったけど、これだけは燃やすしかないというところまで、市民に分別を徹底してほしい」という思いを込めた、と語っている。これも、生ごみをできるだけ減らすことにつながる。
福井県池田町
これまで紹介したような、生ごみをできる限り出さない工夫のほか、生ごみを分別回収して資源化に取り組む自治体もある。
2020年秋に取材した福井県池田町では、生ごみを分別回収し、牛のふんと籾殻とを混ぜ、有機の肥料「土魂壌(どこんじょう)」を作り、販売している(12)。
町民は、食品の調理や消費の過程で出た食品資源(生ごみ)の水を切り、新聞紙などで包み、池田町内で販売されている指定の紙袋に入れて出す。町民が出した食品資源(生ごみ)は、専用の回収車「あぐりパワーアップ号」で、毎週、月・水・金の3回、回収される。回収は、NPO法人環境Uフレンズが行っている。
回収された食品資源は、あぐりパワーアップセンターへ運ばれる。そこで食品資源は、牛ふん、もみ殻と一緒に、有機肥料「土魂壌(どこんじょう)」になる。土魂壌を使って育てた有機米も販売されている。
愛媛県松山市
愛媛県松山市は、人口50万人以上の自治体のうち、全国で一人一日あたりのごみ排出量が少ない9年連続トップを誇った自治体だ。令和2年度は、京都市に次いで2位だった。
2021年10月に取材したところ、松山市では、学校給食から出る残渣(ざんさ)、いわゆる生ごみを、全て堆肥にしている。ヨーロッパでは「organic(オーガニック)」というくくりで、コーヒーかすやりんごの芯などの不可食部に加えて、落ち葉や剪定した枝を分別回収し、資源として活用しているが、松山市では、剪定枝も選別して堆肥にしている。
学校給食の調理くずや食べ残しなどの生ごみは、各調理場から回収した後、松山市内から離れた北条地区のロイヤルアイゼン総合資源リサイクルセンターで、剪定枝と一緒に堆肥化しているとのこと(13)。
京都市
京都市は、全国50万人以上の人口区分で、一人一日あたりのごみ排出量の少なさが全国1位だ(令和2年度、上のグラフ参照)。
廃棄物の中でも重量を多く占める生ごみ(食品ロス含む)を減らすため、水切りを含めた生ごみの「3キリ運動」(14)や、小学生への啓発、飲食店(15)やスーパーでの実証実験(16)、飲食店での「食べ残しゼロ推進店舗」認証制度(17)など、360度方向にわたって、粘り強くさまざまな取り組みを続けてきた。拙著『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)(18)にも9ページ、京都市の取り組みについて解説している。
廃棄物政策に対して「予算がない」「燃やせば済む」と言って後ろ向きな市があるが、京都市の取り組みと比べると、非常にもどかしい。同じ自治体なのになぜこんなに違うのだろうと思う。いっそ韓国のように政府がトップダウンで有無を言わさず指示してくれればいいが、日本は多方面に忖度するので難しいだろう。自治体が生ごみ回収をしない言い訳として「都心だから無理」というのがあるが、京都市のように、たとえ大都会であっても生ごみの「水キリ」を市民に啓発することはできるだろう。
ごみ収集の日に京都市内を廻ってみたが、小さくまとめられて家の前に置かれたごみが印象的だった。「京都市の生ごみデータ」という公式サイト(19)もデータが豊富でとても役に立つ。
静岡県掛川市
静岡県掛川市は、人口10万〜50万人未満の区分で一人一日あたりのごみ排出量の少なさが1位だ(令和2年度)。2022年4月に取材したところ、令和2年(2020年)は環境資源ギャラリーの焼却施設が故障したため、6月5日から8月3日まで「ごみ処理非常事態宣言」を出したとのこと(11)。それにより、市民もいっそう分別を徹底したことで減量に拍車がかかったそうだが、これまで長年にわたってごみ減量に取り組んできた。
山谷修作氏の著書(1)にも詳しいが、掛川市は、生ごみ処理機の普及や、ごみ袋への記名制度導入、剪定枝の地区回収や資源化など、「ごみ減量大作戦」と名づけた取り組みを2006年11月から粘り強く続けてきた。愛媛県松山市は剪定枝を資源化していたが、掛川市は行政ではなく、地元の資源化業者が剪定枝を回収し、資源化している。欧州では、生ごみも剪定枝も落ち葉も「organic(オーガニック)」のくくりで集めている国があることは、松山市の項で述べた通りだ。
宮崎県新富町
自治体の中には、企業や大学と連携し、生ごみの減量化を目指すところもある。
2021年5月7日、宮崎県新富町、南九州大学、パナソニック株式会社は、新富町の食品ロス削減、生ごみ減量に向けて、包括連携協定を締結したと発表した(20)(21)。生ごみを分別回収して堆肥化する。
東京都渋谷区
渋谷区は、株式会社komham(コムハム)と連携し、生ごみを区民が収集し、それをコムハム菌という菌で二酸化炭素と水に分解する、という実証事業をおこなった(22)(23)。
地方では、生ごみを集めてコンポスト処理するケースも多い。だが、都心の場合、生成された堆肥を受け入れてくれる畑が少ないという課題がある。コムハム菌の場合、堆肥は作らず、生ごみの98%を水と二酸化炭素に分解できる特徴があり、渋谷区での実証事業実施に至ったとのこと。都心部の他の自治体でも参考になる。
日本はごみ焼却率が80% 8割が水の生ごみは負担大
以上、全国の自治体における生ごみ削減の取り組みを見てきた。日本はOECD加盟国と比較しても、ごみ焼却率が80%近くと、ダントツに高い。水分が80%以上の生ごみを燃やせば、エネルギーの面でもコストの面でも焼却炉の耐用面の上でも負担をかけるということになる。
OECD加盟国の中で、リサイクル率も低い。廃棄物の研究者によれば、生ごみを「燃やすごみ」でいっしょくたに焼却していることで数値が下がっているという。
発酵学の第一人者である小泉武夫先生は「燃やさず醸せ」と提唱している(24)。
2022年には「生ごみ焼却ゼロプラットフォーム」という組織が発足した(25)。環境課題に長年取り組んできたローカルフードサイクリング株式会社、一般社団法人ゼロ・ウェイスト・ジャパン、株式会社fogの三者が中心となっている。
そもそも資源である生ごみ。持続可能な社会のために、「分ければ資源 混ぜればごみ」の言葉の通り、資源として活用していきたい。
参考情報
1)『ごみゼロへの挑戦 ゼロウェイスト最前線』山谷修作著、丸善出版
2)Zero Waste International Alliance 公式サイト
4)一般廃棄物の排出及び処理状況等(令和2年度)について(環境省、2022/3/29)
6)「生ごみ出しません袋」を活用してごみを減らしましょう(長野県須坂市、2022/5/1)
6-1)須坂市における「生ごみ出しません袋」の配付(信州ごみげんねっと)
7)「生ごみ出しません袋」を使ってごみを減らしましょう!(長野県上田市、2022/5/1)
8)【新聞Check!】上田市「生ごみ出しません袋」今年も配布 生ごみの減量化目指し 5月16日から受付…2022/05/12(うえだNavi)
9)長野県 市町村別 1人1日当たりのごみ排出量(令和2年度)
10)上田市が「生ごみ出しません袋」配布へ 来年度に無料で 自家処理促し減量化図る(信濃毎日新聞朝刊33面、2016/3/10)
11)全国ごみ少ないランキング1位の京都市、静岡県掛川市、長野県川上村 なぜ?コロナの影響も(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/4/5)
12)生ごみ・牛ふん・もみ殻の「土魂壌(どこんじょう)」で有機米栽培 福井県池田町の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2020/12/1)
13)なぜ松山はごみが少ないのか?家庭のごみを減らす全国トップレベルの秘密を探る(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/12/13)
15)16年でほぼ半減 京都市の530(ごみゼロ)対策は なぜすごいのか?(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2017/5/30)
16)「食品ロスを減らすと経済が縮む」は本当か スーパーで食品ロス10%削減、売り上げは対前年比5.7%増(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2018/5/22)
18)『賞味期限のウソ 食品ロスはなぜ生まれるのか』(幻冬舎新書)
19)京都市の生ごみデータ
20)新富町、南九州大学、パナソニックが食品廃棄ロス削減と生ごみ減量化に向け産官学連携で合意(パナソニック株式会社、2021/5/7)
21)「生ごみ出しません袋」「燃やすしかないごみ」年間2兆円のごみ処理減らす自治体の取り組み(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2021/5/30)
23)komham、渋谷区実施のごみ減量実証事業に参画。渋谷区民限定で実証事業パートナーを募集(PRタイムス、株式会社komham、2021/9/14)
24)「燃やさず醸せ」世界一高い日本のごみ焼却率を減らす 偉大なる発酵の力(井出留美、Yahoo!ニュース個人、2022/4/19)