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NewJeansの新曲「How Sweet」はコカ・コーラとコラボ。常識破りの挑戦は続くのか

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
(出典:NewJeans公式YouTube)

NewJeansが所属する事務所ADORでは経営陣の衝突が大きな社会問題として注目されていますが、そうした騒動の渦中でNewJeansのリリースした新曲「How Sweet」が大きな話題になっています。

「How Sweet」がリリースされたのは5月24日のことですが、現時点でMVの再生数は700万を突破し、YouTubeのグローバルのランキングで、再生数の1位に2日連続で入っています。

(出典:YouTubeチャート)
(出典:YouTubeチャート)

もちろん、NewJeansは昨年出したEPが米国のビルボードのアルバムチャートで1位を取ったことがあるぐらい世界的に人気のあるグループですから、MVの世界1位は別に珍しいことではありません。

参考:iPhoneコラボに、全米1位。NewJeansが確立した新しい世界ヒットの作り方。

ただ、今回の「How Sweet」のMVが興味深いのは、明らかにコカ・コーラのコラボ曲としてMVが作られている点です。

コカ・コーラとのコラボ楽曲として制作

MVを見て頂くと、冒頭で道路に落ちたコカ・コーラの瓶をメンバーが飲むシーンに始まり、途中では分かりやすくコカ・コーラの冷蔵庫が店頭に置いてあるお店に大量のコカ・コーラが並んでいるなど、コマーシャルのようなシーンが複数存在することに気がつくと思います。

実際動画再生時には明確に「プロモーションを含みます」というスポンサー表記がされますし、さらにMVの一番最後のADORのロゴの後に、明確に「Coke Studio」のロゴが表示されます。

歌のタイトルも「How Sweet」とコカ・コーラの甘さが関係していることを踏まえると、明らかに今回の楽曲は従来の定義で言うとCMソングのような楽曲と言えるでしょう。

一方で、興味深いのは今回の楽曲について、NewJeans側が一切CMソング的な打ち出し方をしていない点です。

過去にもコカ・コーラやアップルとCMソングを制作

NewJeansがコカ・コーラのコラボ曲を作るのは今回が初めてではありません。日本でも「コカコーラマシッタ」というフレーズのテレビCMでお馴染みのサビがある「ZERO」という楽曲をリリースしています。

参考:NewJeans、「コカ・コーラ」とのコラボ曲“Zero”MV公開

このMVは冒頭にCoke Studioのロゴが表示され、メディア向けにも明確にコカ・コーラとのコラボ曲としてアピールがされていました。

ただ、NewJeansの興味深いのは、こうしたいわゆる「CMソング」として制作された楽曲も普通にNewJeansの他の楽曲と同様にリリースされ、ビルボードなどのチャートにランクインしてくる点です。

NewJeansの企業コラボと言えば、日本でもiPhoneのCMとして流れていた「ETA」がiPhone 14 Proで撮影されたMVとして展開されていたことが記憶に新しい方も多いでしょう。

これも、明らかに従来の定義で言えばアップルの「CMソング」として制作された楽曲ですが、普通にビルボードのチャートにもランクインしています。

実は、NewJeansは、昨年の段階から既に、いわゆる「CMソング」とアーティストの楽曲への企業のプロダクトプレイスメントの境界線を破壊し始めていたのです。

コラボをあえてアピールしない選択?

そういう意味で、今回の「How Sweet」が表立ってはCMソングや、コカ・コーラとのコラボ曲と宣伝されずに、普通の楽曲として展開されるのも、NewJeansの新しい挑戦の一つと言えるのかもしれません。

実際に日本のメディアの記事を見てみると、新曲「How Sweet」についてはADOR側の「今まで披露したことのないヒップホップ」などのフレーズを使っている記事が多く、コカ・コーラとのコラボへの言及がほとんど見られません。

参考:NewJeans、“今まで披露したことのないヒップホップ”の新曲「How Sweet」リリース日にMV公開へ

一方で、NewJeansが発表した「How Sweet」のパフォーマンス動画は、Coke Studioで撮影されており、動画の全編にわたってCoke Studioのロゴやボトルが映り込んでいることを考えると、メディアの言及の無さに違和感を感じるほどです。

ADORやNewJeans側としては、こうしたMVへの企業スポンサードや企業とのコラボを、特別なものではなく、映画のプロダクトプレイスメントと同様にしていこうという趣旨なのかもしれません。

日本でも同様の流れが生まれるか

日本でも、Adoさんがロッテチョコレートの60周年を記念して「ショコラカタブラ」という楽曲をリリースしていましたが、日本ではこうした企業スポンサードを行った楽曲はどちらかというとそのアーティストの他の楽曲に比べると、サブ的な位置づけになりがちです。

参考:Adoとロッテが生み出した「ショコラカタブラ」が変える、日本の「CMソング」の形

それが、今回NewJeansは、コカ・コーラとのコラボ曲である「How Sweet」の方をもう一曲の「Bubble Gum」よりもメインに位置づけていると見られるのが、従来の常識とは逆のアプローチと言えるでしょう。

日本でも、今後こうしたアーティストと企業の本気のコラボが生まれてくるのかどうかが興味深いところです。

NewJeansの挑戦は続くのか

NewJeansをめぐっては、NewJeansの所属するレーベルであるADORのミン・ヒジン代表が、HYBE側と対立し、31日に開かれる臨時株主総会で解任されるかどうかの瀬戸際にあります。

数日内に、臨時株主総会における議決権行使禁止の仮処分申請に対する裁判所の判断が出されると報道されていますが、それによってNewJeansのこうした挑戦が今後も続くのかどうか大きな分岐点を迎えることになりそうです。

参考:HYBE・ADOR、審問でも激しい対立…ミン・ヒジン代表の解任めぐり様々な主張

今回の「How Sweet」のリリース後には、Coke StudioのYouTubeチャンネルにNewJeansのメンバーのインタビューが公開されるなど、コカ・コーラとNewJeansの間の距離感がかなり近いことがうかがえます。

こうした企業コラボを実現したのがミン・ヒジンさんやそのチームであったことを考えると、ADORの経営体制が変わってしまうと、こうしたコラボについても冷や水が浴びせられる展開は容易に想像できます。

様々な従来の常識を打ち破る新しい挑戦に成功してきたNewJeansが、引き続きこうした新しい挑戦を続けていくことができるのか。

今週末の展開次第で、業界の変化のスピードも大きく変わるのかもしれません。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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