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iPhoneコラボに、全米1位。NewJeansが確立した新しい世界ヒットの作り方。

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
NewJeansは、米国のロラパルーザでも大活躍(写真:REX/アフロ)

韓国の5人組ガールズグループNewJeansの勢いが止まりません。

日本では、現在iPhoneのテレビCMに出演しているグループと言った方が年配の方には伝わりやすいかもしれませんが、今や若い世代には日本でも人気絶大です。

実はこのNewJeans、デビューしたのが2022年7月22日と、なんとまだ1年しか経っていません。

それにもかかわらず、iPhoneのコラボCMを筆頭に、コカ・コーラやマクドナルドなど世界的ブランドのテレビCMに出演を果たし、大躍進を遂げているのです。

デビュー1年で世界を席巻。

最も象徴的な活躍と言えるのが、7月21日に発売された2枚目のEPである「Get Up」が、米国の音楽チャートであるビルボード200で1位を獲得してしまった点でしょう。

参考:NewJeans、2nd EP『Get Up』の「ビルボード200」1位獲得についてコメント!「現実ではないみたい」

さらに、このEP収録曲でもある新曲「Super Shy」は、ビルボードグローバル200という世界の音楽チャートで2位に到達しています。

このグローバルチャートは、現在日本で空前の大ヒットをしているYOASOBIの「アイドル」でも7位が最高だったと言えば、その凄さが少しは伝わるでしょうか。

参考:YOASOBI「アイドル」国際チャート1位の快挙に学ぶ、日本の音楽が世界で勝つ方法

さらにNewJeansの米国の人気の凄さは、8月3日にシカゴで開催された大型音楽フェスティバル「ロラパルーザ・シカゴ」でのライブに約7万人の観客が集まったことからも見て取ることができます。

また、NewJeansの人気は日本でも絶大。

8月19日に開催される日本最大級の夏フェス「サマーソニック」への出演も決まっており、NewJeansの出演発表後、チケットの売れ行きが一番動いたと報道されています。

参考:NewJeans、デビュー1年で『サマソニ』初出演決定 ネットでは「まじかよ」「さすがに見たい」の声

おそらく「サマーソニック」のパフォーマンスを通じて、日本に更にファンを増やすことになるのは間違いないでしょう。

BTSの妹分としてデビュー

NewJeansは、世界的人気グループであるBTSのHYBEの傘下に作られたADORというレーベルの最初のグループとしてデビューしました。

そういう意味で、NewJeansがデビュー1年でここまでの大成功を収めることができたのは、BTSのファンの後押しがあったのは間違いありません。

特にNewJeansの楽曲が配信されるYouTubeチャンネルは、BTSの楽曲も配信されている「HYBE LABELS」のものであり、そのチャンネル登録者数はなんと7230万人を超えていますから、こうしたインフラがスタートダッシュに貢献しているのは間違いありません。

ただ、この方式はHYBEグループのアーティスト全てが取っており、それだけではNewJeansのここまでの大成功は説明できません。

NewJeans大ヒットのポイントの一つは、NewJeansが所属するADORを立ち上げた仕掛け人にあります。

このレーベルを立ち上げた責任者であるミン・ヒジン氏は、前職であるSMエンターテインメントで少女時代やEXO、Red Velvetなど多数のアーティストを成功させた人物。

今回のNewJeansのデビューに際しても、従来のK-POPの常識とは異なる手法を選択したことでも注目されているのです。

参考:"BTSの妹"NewJeansを生んだ異色の事務所代表、ミン・ヒジンとは?

その手法のいくつかは、これから日本のアーティストが世界に出ていく上で参考になると思われますので、ここでご紹介したいと思います。

韓国語曲のみで世界展開に成功

NewJeansの世界的ヒットにおいて最も注目したいのは、NewJeansの楽曲が韓国語の楽曲そのままで、日本はもちろん米国でも大ヒットしている点です。

従来のK-POPの基本的なアプローチは、韓国語の楽曲をメインにしつつも、対象市場に合わせて英語楽曲や日本語の楽曲を提供するというものでした。

K-POPではじめてビルボードのチャートで1位を取ったBTSの「Dynamite」がBTS初めての全歌詞英語の楽曲であったことがその象徴と言えるでしょう。

LE SSERAFIMやIVEなど、日本で人気のK-POPのアーティストも、基本的にメインの曲は日本語楽曲を作り展開しています。

しかし、NewJeansは現在のところそうした楽曲の複数言語展開はせず、韓国語の楽曲のみを展開しています。

TBSの音楽番組である「音楽の日」でも、韓国語の「OMG」をそのまま歌唱していたのが象徴的な出来事と言えるでしょう。

実際にNewJeansの楽曲を聴いてみると、韓国語曲ではあるものの、サビのところを中心にほぼ英語で構成されており、知らない人が初見で聞くとほぼ洋楽のように聞こえるのがポイントと言えます。

当然、常識的に考えれば各国の言語毎に楽曲を提供した方が、その国のファンは増えやすいと思いますが、それは歌う側にも複数の言語での歌唱を覚えるという負担を与えることになります。

藤井風さんの「死ぬのがいいわ」が日本語楽曲のまま海外でヒットしたケースもありますし、NewJeansの大ヒットは、楽曲の作り方次第では、言語は国境を越える上での障壁にならないことを明確に証明してくれていると言えるでしょう。

業界横断のコラボで話題化

また、NewJeansの展開で興味深いのは、様々な業界横断のコラボに積極的な点です。

日本ではまだそれほど多くは見られませんが、世界的にはフィーチャリングと呼ばれるアーティスト同士のコラボが、ヒットのための必須要素になっています。

例えば、LE SSERAFIMの「UNFORGIVEN」は世界的に有名なギタリストであるナイル・ロジャース氏がフィーチャリングで参加していることでも話題になりましたが、今度はさらにAdoとのコラボも発表し日本で話題になっています。

参考:LE SSERAFIMがAdoとのコラボ曲リリース(コメントあり)

NewJeansは、こうしたアーティスト同士のコラボから一歩進み、業界横断のコラボに積極的なのが印象的です。

例えば、新曲「NewJeans」では人気アニメ「パワーパフガールズ」とコラボしています。

アニメとのコラボと言えば、日本でも「推しの子」とコラボしたYOASOBIの「アイドル」や「チェンソーマン」とコラボした米津玄師さんの「KICK BACK」などがあり、普通の取り組みとも言えます。

ただ、NewJeansのコラボでは、EPの表紙をパワーパフガールズにしたり、MVの中でメンバーがパワーパフガールズのキャラクターになって画面を飛び回るレベルでのかなり深いコラボになっているのが印象的です。

企業やブランドとも積極的にコラボ

さらにNewJeansのコラボは、冒頭で紹介したiPhoneやコカ・コーラなど、ブランド相手とも深いコラボを実施しているのが印象的です。

iPhoneのテレビCMでは単純にCMに出演するだけでなく、新曲「ETA」のMVを全てiPhoneで撮影。

オフィシャルMVの中に、iPhoneが頻繁に出てくる作りになっています。

これはApple側からではなく、NewJeans側からの逆提案だったといいますから、NewJeans側の企業コラボへの積極性が窺える事例と言えるでしょう。

参考:最初は「振り付けだけ」の提案だった。NewJeansの新作MVが全編 iPhone 14 Proで撮影された、その背景を聞いた

また、コカ・コーラとのコラボでは、韓国のお馴染みのフレーズにあわせて「コカ・コーラマシッタ(コカコーラ美味しい)」と繰り返す楽曲をリリース。

NewJeansのメンバーがコカ・コーラを手にする、まるでテレビCMのようなオフィシャルMVを公開しています。

日本であれば、こうしたテレビCM用音源は、あくまで宣伝用音源として企業側のYouTubeチャンネルに表示されそうなものですが、アーティスト側のチャンネルに他の楽曲と同様に並べるあたりが韓国ならではのコラボと言えるでしょう。

参考:NewJeans、新曲「Zero」早くも中毒者続出 “コカ・コーラマシッタ”に隠された意味とは?

この「Zero」はCMソングとしては異例となる韓国音源チャート1位を獲得したと言いますから、単なるCMソングを超えるヒットとなっているわけです。

NewJeansは、こうした世界的ブランドとのコラボを積極的に実施することで、楽曲そのもの以外の話題も巻き起こし、あらたなファンとの接点を増やしてきているわけです。

もちろん、こうしたプロダクトプレースメントと呼ばれる手法は、一歩間違えればステマ扱いされかねません。

NewJeansにおいても、韓国のテレビ出演の際に露骨にiPhoneをメンバーが掲げていたことが批判の対象になっているようですので、注意すべき手法とも言えます。

参考:NewJeans「人気歌謡」でのステージが議論に…iPhoneを活用したパフォーマンスに指摘の声

ただ、日本の音楽においても、ドラマタイアップやアニメタイアップなどは、今や普通の手法になってきていますし、海外に楽曲を知ってもらう上で、NewJeansのように、コラボ自体を話題にする「深いコラボ」の模索は重要になってきそうです。

日本のアーティストにもチャンスはある

今回NewJeansがデビュー1年で、韓国語楽曲のまま、ここまで世界で受け入れられたことは本当に大きな出来事であるのは間違いありません。

一方で、ここ数年、YOASOBIや藤井風さんのように日本のアーティストも徐々に海外での人気が高まっており、日本のアーティストにも同様のチャンスがあります。

YOASOBIの「アイドル」の大ヒットも、YOASOBIのAyaseさんがNewJeansの新譜である「OMG」に刺激を受けたことが影響していると言われており、同様の刺激を受けているアーティストはたくさんいるはずです。

ポイントになるのは、NewJeansが成功の過程で、従来のK-POPの成功の常識をいくつも覆す挑戦をしてきているという点でしょう。

K-POPに比べると日本は国内市場が大きいため、どうしても日本のアーティストは日本市場の常識を最優先し、リリース日やCD重視の販売手法など、日本の常識をベースに楽曲を展開してきた背景があります。

そうした日本の常識を一度疑ってみて、新しい取り組みに挑戦することが、今後重要になってくるのは間違いありません。

最近ではYOASOBIを筆頭に、SKY-HIさんがBE:FIRSTを大成功させたBMSGグループや、滝沢秀明さんが立ち上げたTOBEなど、新しいアプローチに挑戦するアーティストや事務所が増えてきています。

そうした日本のアーティストたちが、NewJeansの成功に刺激を受けて、さらなる世界での飛躍をしてくれることも楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

新卒で入社したNTTを若気の至りで飛び出して、仕事が上手くいかずに路頭に迷いかけたところ、ブログを書きはじめたおかげで人生が救われる。現在は書籍「普通の人のためのSNSの教科書」を出版するなど、noteプロデューサーとして、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についてのサポートを行っている。

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