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Adoとロッテが生み出した「ショコラカタブラ」が変える、日本の「CMソング」の形

徳力基彦noteプロデューサー/ブロガー
出典:ロッテ公式YouTube

Adoさんの新曲「ショコラカタブラ」が1月31日に公開され、早速2日でYouTubeの再生回数が100万回を突破するなど好調なスタートを切っています。

今回の「ショコラカタブラ」は、Adoさんの歌唱の素晴らしさももちろんですが、MVがまるで映画の一部分のようなストーリー仕立てのアニメになっているのが特徴です。

もちろん、Adoさんの楽曲と言えば、3億再生を超えている「うっせぇわ」を筆頭に、昨年リリースされた「唱」もすでに1.2億再生を超えており、2日で100万再生というのは珍しい現象ではありません。

ただ、今回の「ショコラカタブラ」は、実はAdoさんだけでなく、日本の音楽業界にとっても新しい取り組みのシンボルになる可能性を秘めている楽曲なのです。

ロッテチョコレートの「CMオリジナルソング」

それは、この「ショコラカタブラ」が、ロッテチョコレートの60周年を記念して作成されたAdoさんとロッテのコラボによるCMソングであるという点です。

実は、すでに1月22日の段階でロッテ側のYouTubeにも30秒バージョンと60秒バージョンが公開されており、こちらも100万再生を超えているのです。

しかも、これは単純にAdoさんの歌がロッテのCMソングとして起用されたと言うことではなく、最初からロッテチョコレートの60周年記念のCMオリジナルソングとして作られた点がポイントです。

なにしろ、企画に「君の名は。」や「すずめの戸締まり」のプロデュースをされたことでも有名な川村元気さん、アニメーション制作は「サイバーパンク: エッジランナーズ」や「ダンジョン飯」でお馴染みのTRIGGERが担当するという豪華な布陣。

参考:Ado、CMプロデュースに川村元気氏、監督吉成曜氏、アニメ制作TRIGGERがタッグ

そのため、AdoさんのYouTubeにアップされているフルバージョンのミュージックビデオでも、曲の終わりのクレジットの最後に「お口の恋人LOTTE」というお馴染みのロゴが表示されているわけです。

CMオリジナルソングは発売しない?

従来、CMオリジナルソングとして作成された曲は、一般的には15秒や30秒などの短い時間ながすことを想定して一部だけが作られていることが多く、アーティストがリリースする曲とは区別されることが普通でした。

しかし、今回のAdoさんの「ショコラカタブラ」は、通常のデジタル配信楽曲と同様に、すでに各種音楽配信サイトでも販売されており、オリコンミュージックストアランキングのシングルダウンロードで1位になるなど、各種チャートにランクインし始めています。

これまでにも、CMオリジナルソングがヒットしたことはありますが、CMオリジナルソングは、CM公開のタイミングで楽曲としては販売されないことが通常でした。

例えば、桐谷健太さんの「海の声」は各種ランキングで1位になりましたが、この楽曲は元々auのCM用のオリジナルソングだったため、当初は1ヶ月間、うたパス・LISMO限定で配信されただけでした。

それがユーザーからの熱い要望を受けて正式に配信をすることになり、大ヒット曲となったのです。

参考:「海の声」ヒットの理由は「1人になりたい」願望

また、「たらこ・たらこ・たらこ」というCMソングも、2006年にCD化されて日本レコード大賞特別賞を受賞するほどのヒットを成し遂げていますが、最初に「キユーピー あえるパスタソースたらこ」のCMとして放映されたのは2004年のことです。

さらに歴史をさかのぼれば、過去には1989年に「24時間、戦えますか」で有名な栄養ドリンク「リゲイン」のCMソングである「勇気のしるし〜リゲインのテーマ〜」が、オリコンチャートで週間2位に入ったケースや、1995年に小沢健二さんの「カローラIIにのって」が同様にオリコンチャートで2位になったケースがあるようですが、いずれにしてもCM放映後の反響が影響しているようです。

企業とのコラボに積極的なK-POP

日本で、これまでCMオリジナルソングがアーティストの楽曲としてリリースされることが少なかったのは、CMソングが元来短いCMだけのために制作されていたことや、歌詞に商品名などが入っていると、音楽番組のスポンサーの影響で歌唱が難しくなるからだという説もあるようです。

ただ、お隣の韓国では、すでに今回の「ショコラカタブラ」のようにアーティストが企業とコラボして楽曲をリリースすることが増えてきています。

例えば日本でも有名な事例で言うと、NewJeansの「ETA」という楽曲が象徴的です。

NewJeansの「ETA」はMV自体がiPhone14 Proで撮影されており、その事実自体をテレビCMでも訴求されるという、iPhoneのCMソング的な位置づけになっています。

そのため、「ETA」の楽曲の最後にはアップルのロゴも表示されるのですが、この楽曲も含まれたNewJeansのアルバムが米国で大ヒットし、この「ETA」も上位にチャートインしていたのはご存じの方も多いはずです。

参考:iPhoneコラボに、全米1位。NewJeansが確立した新しい世界ヒットの作り方。

また、同じNewJeansで、もう一つ昨年話題になったのが「Zero」というコカ・コーラとのコラボソングでしょう。

こちらはMVの冒頭にコカ・コーラのロゴも表示される上に、サビで「コカ・コーラ マシッタ(美味しい)」と繰り返す、文字通りのCMソングです。

ただ、こちらの楽曲は、普通にNewJeansの楽曲としてリリースされ、韓国でもCMソングとしては異例となるチャート1位を獲得。アメリカのラッパーのJ.I.Dとのリミックスバージョンも公開されています。

参考:NewJeans、米ラッパーJ.I.Dと共にした コカ・コーラとのコラボ曲「Zero」リミックスバージョン公開!

さらに、韓国ではコカ・コーラのライバルであるペプシはIVEとコラボして、「I WANT」というCMソングをリリース。

こちらも、IVEのメンバーがPEPSIのロゴのTシャツを着て、PEPSIの商品がずらりと並んだ店内で歌唱するという非常に分かりやすいCMソングになっており、YouTubeの動画にはプロモーション表記がされているほどです。

今回のAdoさんとロッテの「ショコラカタブラ」は、こうしたトレンドを取り入れた取り組みと言えるかもしれません。

テレビCMとは異なるCM効果?

もちろん、「ショコラカタブラ」はNewJeansの「Zero」のように商品名を連呼するような明白なCMソングではありません。

ただ、実際に「ショコラカタブラ」のMVを良く見て頂くと、チョコレート工場の壁にロッテのチョコレートのブランドである「ガーナ」のロゴが描かれていたり、魔法で動き出すキャラクターが、コアラのマーチやチョコパイなどのロッテの商品を元にしていることが分かると思います。

(出典:ロッテ プレスリリース)
(出典:ロッテ プレスリリース)

従来のテレビCMで流れていたCMソングは、あくまで企業がテレビCMの費用を支払ってCMソングをながすことにより、視聴者に企業や商品を認知してもらったり好きになってもらおうという構造でした。

一方で、上記のK−POPや今回のAdoさんのCMソングは、アーティストの楽曲自体のMVにコラボする形になるため、従来のCMソングとはかなり位置づけが異なると言うこともできるでしょう。

しかし、今回の「ショコラカタブラ」のような企業コラボのMVは、アーティストのファンがアーティストの音楽を聴く際に繰り返し繰り返し目にすることになるものですから、アーティストのファンがコラボした商品を好きになるきっかけになる可能性は高いアプローチと言えると思います。

海外向けにも拡がる可能性

一方、現時点では、Adoさんとロッテの「ショコラカタブラ」のようなCMソングは、通常の楽曲と別の扱いにするべきだと考える方も少なくないかもしれません。

ただ、一歩引いた視点で見ると、実はアニメと音楽のコラボのような、従来は別分野と考えられたものの境界線が融合するようになって長い年月がたっています。

Adoさんが、映画の中でアニメのキャラクターのウタとして歌唱した楽曲で、日本中をおおいに沸かせたことを振り返ると、実はコラボの相手がアニメではなくお菓子になっただけと考えることができる気もします。

特にAdoさんは、丁度初の世界ツアーのチケットが短期間で完売したことが報じられていましたが、海外にもファンが増えている日本を代表するアーティストです。

参考:Ado、初世界ツアーのチケットが完売 計7万人超動員…人気ぶりにシカゴでは異例の会場変更

世界中のファンがAdoさんのMVを見に来ることを考えると、日本の製品を海外に広める上でこうしたブランドとアーティストのコラボは、実はアニメとアーティストのコラボと同様に、今後は普通の選択肢になる可能性が高い気がしてきます。

今回Adoさんとロッテの「ショコラカタブラ」が証明してくれたように、ブランド力のある企業とアーティストがコラボすれば、今回のように非常に凝ったMVが作れるのも大きなメリットになるはずです。

いずれにしても、「ショコラカタブラ」は、これまでの日本におけるCMソングや、アーティストと企業のコラボの常識を大きく変えてしまったのは間違いありません。

今後、同様の新しいコラボが増えることを楽しみにしたいと思います。

noteプロデューサー/ブロガー

Yahoo!ニュースでは、日本の「エンタメ」の未来や世界展開を応援すべく、エンタメのデジタルやSNS活用、推し活の進化を感じるニュースを紹介。 普段はnoteで、ビジネスパーソンや企業におけるnoteやSNSの活用についての啓発やサポートを担当。著書に「普通の人のためのSNSの教科書」「デジタルワークスタイル」などがある。

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