今年の防衛白書、イージス・システム搭載艦の新たなイメージ図を明らかに
日本政府は7月28日、2023年版防衛白書を公表した。今年の防衛白書で最も目を引くのが、防衛省が新たに建造するイージス・システム搭載艦のイメージ図が掲載されたことだ。艦の形状や主な兵装は既存の海上自衛隊のイージス艦とよく似ているように見えるが、海軍専門家はどう見たのか聞いてみた。
●「イージス・アショア」の代替
イージス・システム搭載艦は、防衛省が秋田県と山口県への配備を断念した陸上配備型弾道ミサイル防衛(BMD)システム「イージス・アショア」の代替として建造が計画されている艦艇だ。2027年度と28年度にそれぞれ1隻の計2隻の就役を目指している。
防衛省は昨年8月の概算要求時点では、この新型艦は海自最大の護衛艦「いずも」にも匹敵する基準排水量約2万トン、全長210メートル以下、全幅40メートル以下で設計していた。このため、「令和の戦艦大和」とその巨大さを揶揄するメディアもあった。
●防衛省「現行のイージス艦に少し寄った形」
しかし、海自現場の負担増や建造費高騰を懸念する批判が強まり、防衛省は昨年秋までに当初案より小型化し、機動力を高める方向に舵を切った。
防衛省は昨年12月の防衛3文書(国家安全保障戦略、国家防衛戦略、防衛力整備計画)の記者レクチャーで、次のように説明した。
「イージス・システム搭載艦については、概算要求時の形よりも小さくするという方向で検討している。そして、例えば、潜水艦対処のための対潜能力として、ソナーを付けることを考えている。基本的な任務はBMDを基本とし、そうした各種の機能を持った船にする。そういう意味では、現行のイージス艦に少し寄った形になるというイメージで今検討をしている」
昨年11月18日付の朝日新聞記事は、「(イージス・システム搭載艦は)小型化しても海自のイージス艦で最大の『まや』型(基準排水量8200トン、全長170メートル、全幅21メートル)を上回る規模になる」との見通しを伝えている。
●「スペインのボニファス級フリゲートに似ている」
世界の艦船に詳しい専門家(匿名希望)は、「イージス・システム搭載艦のイメージ図を見た最初の印象は、スペイン海軍が整備を進めているボニファス級フリゲートに似ていると感じた。ほぼ同様のSPY-7を搭載しているので、SPY-1系列のアメリカ艦艇では参考にするのは難しく、技術的冒険を避ける判断かもしれない」と述べた。
防衛省は一貫して地上配備型「イージス・アショア」で使う予定だった高性能レーダー「SPY-7」をイージス・システム搭載艦に使用する計画だ。SPY-7は高高度で撃った高角発射ミサイル迎撃に有用なレーダーとされる。
さらにこの専門家は、垂直発射装置(VLS)については「常識的な128セルだとすると前甲板が64セル、後部に背負い式に配置されているそれぞれが32セルずつかと考えられる」と述べた。
また、イメージ図から見えてくる運用構想としては、ミサイル防衛(MD)や極超音速ミサイル、巡航ミサイル対処など従来から伝えられていたこと以外に、後部のCIWS(近接防空システム)らしき装備が無人機あるいはドローン対処用に使用される可能性を指摘、「従来のファランクスから新しいCIWSなどを新規装備する可能性がある」と述べた。
そして、対艦ミサイルの運用イメージが描かれていないのは、あくまでもBMD対処が主な目的であるという意図が込められていると分析した。
●「豪海軍のホバート級駆逐艦と艦橋が似ている」
別の海自関係者(匿名希望)は、イージス・システム搭載艦のイメージ図がイージスレーダーを艦橋上部に配置するデザインになっていることから、オーストラリア海軍のイージス艦であるホバート級駆逐艦との類似性を指摘した。
そして、「日本の護衛艦はトップヘビーになりがちなので重心を下げて航洋性を出すことが必要」「『まや』型の艦橋は大き過ぎ、そのまま大型化すると上部構造物の重量増加を招き、トップヘビーとなり復元力の低下につながる」と訴えた。
さらに「イメージ図とは違うものになる可能性がある」と指摘し、「武器の基本配置は『まや』型と同じでもレーダー等の配置は変わると思われる。艦橋の形も変わる可能性がある」との見方を示した。
実際のイージス・システム搭載艦ははたしてどうなるのか。防衛省は4月にイージスシステム搭載艦1番艦の詳細設計などを三菱重工業と約17億円で契約、5月に2番艦の詳細設計などをジャパンマリンユナイテッド(JMU)と約7億円で契約した。
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