共食い整備、米海軍でも横行
米海軍はパーツ不足を補い、運用上の必要基準を満たすために、以前よりも頻繁に艦艇を「共食い整備」している――。米会計検査院(GAO)が公表した最新の報告書は、こう指摘した。
「共食い整備」とは、艦艇や戦闘機の部品が故障して足りない場合、稼働できない別の艦艇や戦闘機から必要な部品を外して流用するやり方だ。自衛隊内でも大きな問題となっている。米海軍でも新たな部品がなかなか確保できず、「共食い整備」が横行している実態が浮き彫りになった。英語ではカニバリゼーション(cannibalization)と呼ばれている。
「武器システムの維持:課題とコストの増加に伴って海軍艦艇の使用が減少」と題された同報告書が分析評価したのは、ニミッツ級空母をはじめ、タイコンデロガ級ミサイル巡洋艦、アーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦、フリーダム級沿海域戦闘艦(LCS)、インディペンデンス級沿海域戦闘艦(LCS)、アメリカ級強襲揚陸艦、ワスプ級強襲揚陸艦、サン・アントニオ級ドック型輸送揚陸艦、ホイッドビー・アイランド級ドック型揚陸艦、ハーパーズ・フェリー級ドック型揚陸艦の計10種の艦艇。これら10種は昨年11月時点で米海軍全体の戦闘艦292隻の約半分の153隻を占めた。
同報告書は「2017年度を除き、1隻あたりの共食い整備の平均件数は2015年度から2021年度にかけて毎年増加している」と指摘、「海軍当局者にこれらの増加の原因を尋ねたところ、特定部品のサプライチェーン不足のために船の共食いが頻繁に発生することがわかった」と記した。
同報告書によると、米海軍当局者は「水上艦が過去数年間でますます多くの共食い整備を経験している」と言い、「そのほとんどがすぐには入手できない材料の需要増加によるもの。部品の老朽化や製造元の減少、材料不足が共通の問題だ」と指摘した。
米海軍当局者によると、コロナ禍が始まってから、サプライチェーンの鈍化もより一般的になり、その結果、必要な部品を入手するための調達と製造のリードタイム(所要時間)が増加したという。
10種の艦艇のうち9つは、2015年度から2021年度にかけて1隻当たりの共食い整備の増加に直面し、特にフリーダム級沿海域戦闘艦で最大の増加が見られたという。
また、ニミッツ級空母の関係者は、共食いは戦闘システム関連の装備品によって起きていると述べた。戦闘システム機器など特定の電子部品は他の部品よりも故障率が高く、技術が急速に変化するために入手が困難になる可能性があると指摘した。
ニミッツ級空母の10隻は2021年度に合計で153日間のメンテナンスの遅延に直面した(1隻当たり平均15.3日)。これは、最高値となった2015年度の385日(1隻当たり平均38.5日)のメンテナンス遅延からは減った。
米会計検査院が調査した艦種のうち、2015年度よりも2021年度に共食い整備が少なかったのはアメリカ級強襲揚陸艦だけだった。
自衛隊でも部品不足が常態化し、少なくとも7~8割はあるべき装備の稼働率は5割強にとどまる。航空自衛隊だけで共食い整備は年3400件に及んでいる。共食い解消に向け、昨年12月に策定された防衛力整備計画(2023年度から5年間)では、装備品などの維持整備費として、陸上自衛隊1.5兆円、海上自衛隊3.8兆円、航空自衛隊3.2兆円の合計約9兆円があてられることが決まった。現在の中期防衛力整備計画の約4兆円から倍増以上の伸びとなる。
(関連記事)