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3者激突。新人民戦線と極右とマクロンの対決。フランス総選挙最後の討論と、フランスの様子は今

今井佐緒里欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家
フランスの国民議会。コンコルド広場に面してある。パリ五輪の会場にもなる所。(写真:ロイター/アフロ)

いよいよ今日は、フランスの国民議会(衆議院に相当)の選挙の日である。

現在、左派連合「新人民戦線」と、中道と言われるマクロンの党ルネッサンスとその仲間「アンサンブル(みんな一緒に)」と、極右「国民連合」の激突となっている。

この三者の激戦は関心を呼び、下がり続ける一方だった投票率を上げるだろうと言われている。事前予想だと66%。1997年の水準に戻るということだ。

そして戦後、シャルル・ド・ゴールが築いた第5共和制で初めて、極右が政権をとる可能性があると言われている。

過半数をとる勢力はない模様

実際にはどうだろう。

今までの世論調査によると、6月28日のIfop調査極右では、国民連合(旧国民戦線)は、36%、2位につけている左派連合「新人民戦線(ヌーヴォー・フロン・ポピュレール)」は29%、マクロンの党ルネッサンスとその仲間「アンサンブル(みんな一緒に)」は、約21%だ。共和党(シオチ氏一派抜き)は7%。

これが当たるなら、過半数を取れるのは一つもない。マクロンの党と新人民戦線は、極右に対抗するという点では一致しているから、選挙後に手を組むかもしれない。

左派連合の「新人民戦線」は主に4つの党からなっている。社会党(中道右派)、極左「不服従のフランス」党、ヨーロッパエコロジー緑の党(以下、緑の党)、そして共産党。

テレビで流れる各党のビデオ放送。泡末政党のもある。これはキャンペーン期間で最後に流れたバージョンのもの。人民戦線を組んだ党は同じビデオを流している。

でも、討論を見ていて思うけど、マクロンの党は、極左と言われる「不服従のフランス」党とは理念が合わないし、攻撃もしている。

マクロンの党は、社会党や緑の党とは組めても、「不服従のフランス」党は嫌だろう。彼らは「お金持ち・ブルジョワ」を敵視しているが、マクロンの党はそういう人達も含む中間層が多く支持しているから。

共産党や緑の党の投票率はだいたい予想が付き、多少の上限があっても大勢に影響を及ぼす割合じゃない。前回の欧州選挙で、没落したが復権の兆しがある社会党がどれだけ票を伸ばすかにもよるだろう。

ただ、この論理はどこまで通用するか、正直筆者も情報収集や研究が追いついていないのでよくわからない。というのは、一つの戦線を組んだということは、一つの選挙区で仲間内の4党でつぶしあいにならないよう、票が割れないよう、候補者の事前調整をしたのだ。

それにフランスは、1回目投票で過半数をとる候補者がいないと、1週間後(7月7日)に、上位二人で決選投票(2回目投票)が行われるのだ。

どうなるのだろう。

【追記】トリビアっぽいですが、ちょっと調べてみました。自分の選挙区で誰が立候補しているかがわかるサイトがあります。選挙区が街単位になっているとは限らないので、住所で自分の選挙区がわかる機能もあります。候補者の一覧で

・「Parti Socialistや La France Imsoumise - NFP」「Les Républicains-Rassemblement national」「Renaissance-Ensemble」などと書いてあるもの(ル・モンド)

・候補者のあとに「Noveau Front Populaire」とだけ書いてあるもの。所属政党無し「LR-RN」「Ensemble ! (Majorité présidentielle)」(フィガロ)

・「PSやLFI – Nouveau Front populaire」のように書いてあるもの。「Les Républicains à droite」「Ensemble pour la République」(パリの民間サイトActuParis)

色々ですね。メディアは読者層の色が出ています。フィガロを読む人が人民戦線に入れるわけがなく、時間もないし個別政党なんて省略、みたいな(笑)。

国のサイトはないようです。各自治体や、日本風に言うとNHKローカル局が、場所によっては出しています。

ある「France 3 ローカル局」は「Nouveau Front populaire(PS とかEELV)」のように出していました。

候補者をネットで調べる人の割合はわかりませんが、出し方で印象がかなり変わります。

90年ぶりに復活した「人民戦線」

ところで、「新人民戦線(Nouveau Front Populaire)」という名前だが。欧州に共産主義革命がふきあれた後の1936−37年にフランスに登場した「人民戦線」内閣から取っている。

6月14日パリで新人民戦線の政策発表をするマリーヌ・トンドリエ全国書記(緑の党)。その他、4党の党首が顔をそろえる。
6月14日パリで新人民戦線の政策発表をするマリーヌ・トンドリエ全国書記(緑の党)。その他、4党の党首が顔をそろえる。写真:ロイター/アフロ

「人民戦線」は、当時台頭し始めたファシズムに対抗した左派の動きで、イタリア・フランス・スペインに存在し、欧州に影響を与えた。

当時の時代背景も、流れは似ている。90年前は、金融恐慌で景気が極度に悪化し、ファシズム・極右が台頭。左派が共産党と社会党で争っている場合ではなく、一致団結しなくてはいけない、と言う流れだった。

フランスの人民戦線は、レオン・ブルム内閣のときに、労働者の有給が導入されたりと、労働者の社会福祉と権利が、躍進的に発展した。

当時と違うのは、もちろん現代は1930年代ほど貧しくもないし、労働者は虐げられてもいない。また、今は緑の党がいること。政治家の半数近くが(代表者さえも)女性であること。フランスについて言えば、現在では社会党は死に体だったのであり、決して強くはなかったこと。ただ、直前の欧州選挙で、ラファエル・グリュックスマンが顔になり、復権の兆しが見えてきた。

そして何より、共産党は一定の力とネットワークをもっているものの、極左として強いのは、共産党ではなく「不服従のフランス」党であることだ。

4党(+アルファ)の中で情勢的に一番強いのは、不服従のフランス党だ。党の創始者ジャン=リュック・メランションは、前回の大統領選で、躍進して3位につけた。

最後の討論番組を見て

さて、以下は筆者の見聞録となる。

正直、さんざん欧州選挙で党首や党代表の討論をやっていて、やっと終わったと思ったらまた選挙。もう心底うんざりというのが本音であった。しかも期間が短い。

しかも、天候も変だ(日本みたい)。今、気温が下がったが、一時異常気象でパリでも32度近くまであがった(パリの6月の最高平均気温は26度、最低平均気温は16度)。クーラーがないのが当たり前のパリで、やっていられない。しかも、すぐにガクンと下がった。体調管理が大変だ。

でも、国政選挙だから欧州選挙と違って日常直撃である。見ないわけには行かない、と、重い腰をあげたのが最後の週。月曜日に最大民放TF1の討論が見られなかったから(ネットで見られるが)、残すはFrance2(NHK総合に相当)の27日木曜日の討論会だけになってしまった。

特番のイントロが始まり、マクロン大統領の「今夜、国民議会(衆議院に相当)を解散します」のビデオが流れた後、「始終投票しないといけないわ!(Il faut voter ttout le temps!)」という市民の声代表(笑)が流れて、番組は始まる。

さて、やっと討論会に入る。

3人しかいなかった。向かって右から中道マクロンの一派のガブリエル・アタル首相(解散したんだから元首相か)、真ん中に左派である新人民戦線の代表、オリビエ・フォール(この人自身は社会党)、左に極右と呼ばれる国民連合のジョルダン・バンデラ。

ぱっと見て第一の感想。若い!!! アタル元首相35歳、バンデラ氏28歳。若いのなんの。くじ引きの順番で、まず最初に話し出すアタル氏が「私が5ヶ月の間首相をつとめて・・・」と話しだしたとき、ギラッとライバル心むきだしの一瞥を投げかけるバンデラ氏。おお、なんか凄い、面白い、若さのエネルギーがみなぎっている!

この二人を見ていると、マクロン大統領46歳が、なんだもはや重鎮の、おじいさんとまでは行かないが、苦味をかみしめた長老に見えてくる。

ああ、日本となんたる違い。

アメリカもバイデンVSトランプの討論があったが、フランスの光景を見慣れると、どちらも高齢過ぎて見ていられない、見たくない。

これは筆者がライブで見たFrance2の討論会より数日前に行われた、最大の民放 TF1で行われた討論。顔ぶれは右の人民戦線の人だけ異なっている。この人はマニュエル・ボンパール38歳で「不服従のフランス」党の人。人民戦線の人は、赤いネクタイを着けて討論番組に登場している (メランションのようだ)。

しかし討論が始まると、二人ががちゃがちゃ言い争いになり、何を言っているかまったくわからない。話に割り込んでくるのは圧倒的にバンデラ氏で、アタル氏のほうはまだ抑制がある(3人が平等になるように、話した時間の分秒のカウンターがあるが、あまりにも聞き取れないときは止まる)。

フランスでは数人や二人の候補が言い争いになることが始終だが、そういうがちゃがちゃの中で自分の声や主張を聴衆に聞かせる、振り向かせる技のある政治家がいるものだ(二人だけと数人では違うというのもあるが)。

これは、特にジャン=リュック・メランションがダントツでうまいと個人的には感じていた。これはですね、声がでかいだけではなく、秒単位でその瞬間に効果的な言葉を選び、声の大きさ、仕草など、技を変える頭のキレがないとできないと思う(ちなみにこの技は、トランプ氏もバイデン氏も持っていないと言わざるをえない。バイデン氏は人としてちゃんとしすぎているかも、トランプ氏は人をないがしろにしすぎている)。

ジャン=リュック・メランション
ジャン=リュック・メランション写真:ロイター/アフロ

討論におけるパフォーマンス力とも言えるが、あまり露骨だと、そのあざとさに逆に投票者の心は離れてしまう。政治家のパフォーマンス力は、一番重要な、発言の中身があってこそだから。この感覚は、討論文化の薄い日本人には、わかりにくいかもしれない。

アタル氏とバンデラ氏は、その点まだ場数を踏んでいないというか、経験不足なのだろうか、ぎゃーぎゃー言い合うだけで、聴衆に何も響いてこなく、ただうんざりさせるだけ。

真ん中でじっと何も言わずに黙っている、新人民戦線のフォール氏55歳に、ぐっと共感が傾いてくる。二人がぎゃーぎゃー言っている間に分秒数はカウントされ、自然と二人よりも話した分数が少なくなる彼に、司会者が「話してください」と促すようになるのだ。

バンデラ氏が例によって割り込んでくるが、司会者は、当たり前だがささすがに「お前、いいかげんしゃべっただろう、少しは黙れ」とは言わない。割り込みのセリフも、視聴者にとっては、判断材料の一つになるという思いもあるのだろう。

それで内容なんですが・・・ほとんど忘れました。というのは、結局言っていることはそれほど変わらない&訳がわからないからだ。

選挙の一番の問題は、購買力。要するに景気が悪く物価が高くて、人々の暮らしが苦しくなってきているということだ。特にエネルギー代(電気、ガス、ガソリン代等)の高騰が痛い。どの党も国民の負担を減らす、耳障りの良いことしか言っていない。

一例をあげよう。あれほどデモが頻発した定年の年令の問題。

現在、マクロンの改革では、定年は64歳だ。ただし21歳前に働き出した人は、60歳でOK。

新人民戦線は、60歳に戻す、短期的には62歳に、と言っている。でも、何年働いたらという詳細が出されていないようだ。マクロン改革を批判しているが、定年年令の引き上げに絶対反対というわけではない。4党の連合だから、意見がまだ一致していないのだろうか。

(それにしても、特に大きなデモもなく、あっさり政府のいいなりで、年取って何年も長く働いている日本人は本当に大人しいです)。

年金改革法に反対する全国的な抗議活動の14日目となるデモに参加する抗議者たち。2023年6月6日、パリ。
年金改革法に反対する全国的な抗議活動の14日目となるデモに参加する抗議者たち。2023年6月6日、パリ。写真:ロイター/アフロ

国民連合は、マクロン改革は廃止されると明言していたくせに、共和党のシオチ氏が入って、年金制度の持続に疑問を投げかけたらしく、その後から「廃止されるとは言っていない」と言葉を変えたという。

どういう意味かと突っ込むマスコミに、「20歳以前に働き出した人は60歳定年が許可される」と言い出した。それはいいのだが、定年は62歳に固定されるが、42年の年賦を果たした場合とか言い出して、訳がわからない。結局多くの人が64歳なのでは? と思う。この党の支持層にはアピールしているのかもしれないが。

結局、みんなほとんど同じなのではないか。財政悪化が厳しく、定年年齢が上がるのは先進国全体の傾向。マクロン改革を批判して、完全否定するようなパフォーマンスはするが、実態はどうだか。

このように、短期決戦のうえに、あっちやこっちやとくっついて、言い分が変わったりして、ますます訳がわからなくなっている。定年制の主張も、実はここに書いたものと、また変わったかもしれない。それ以前に、私はどこか誤解しているかもしれない(「あなた達の言っていること、わからないわよ!」と叫びたい・・・)。

選挙なんてそんなものだと言えば、それまでなのだが、それにしても、である。

TF1のほうの論戦が終わったあとに、「結局誰が論戦に勝ったか」という番組では、ある識者が一言。「フランス人は、3つのブロックが出すプログラムの一つ足りとも信用できると思っていない」。まったくごもっともです。

「結局誰が論戦に勝ったか」という番組のレジュメ

違いを分けるのは移民問題

ということで、結局何が一番違いをわけるかというと、移民問題なのだ。これは安全の問題にもリンクすることができる。

どの党の人も、安全を守らなければならない、警備を強化して、ということを言っている。

ただ、この感覚も日本人にわかりにくいけど、セキュリティの問題をあからさまに移民とリンク付けると、極右・ネオナチ確定になってしまうのだ。

そのへんは極右と呼ばれる党のバンデラ党首も慎重で、きわどい線はいくが、あからさまに結びつけることは、支持者しかいない集会はいざしらず、公共のテレビ討論では慎重だ。

参考記事(2018年)日本人がぶれやすい極右の定義とは何か

この路線になると、マクロンの党と、新人民戦線は、反極右で一致するのだ。フランス共和国・フランス革命の価値観を守らなければいけない、と。結局、今回の選挙は、フランス共和国の価値観(人間主義ヒューマニズム、平等、普遍主義、ライシテ、社会主義的思想など)を守るのか、もう移民はたくさんだとするか、の違いになりそうだ。

国民連合は、移民に滞在許可証を与えるのは停止するべきだと言っている(いわゆる不良外人だけ、と言葉が揺れることはある)。

新人民戦線の中は、必ずしも一致していないと思うが、労働者として国に必要であり、既に働いている人は正規化(合法化)して滞在許可証を出すべきである、苦しんでいる人(難民認定に値する人)は助けるべきであるという点では一致しているようだ。

それでフォール氏がバンデラ氏に「あなたもイタリア系でしょう」と発言。バンデラ氏は、名前で想像がつくように、母方の祖父母は両方イタリア人、父方の祖父はイタリア人で、祖母はアルジェリア人だった。つまり彼が嫌うアフリカ系の移民。

それに当時は、今のアフリカ系移民に対する視線と同じものが、イタリア移民に注がれていたと筆者も聞いたことがあるが、本当だったと判明した。圧倒的にフランスのほうがイタリアより先進国だったので、貧しいイタリア移民が多くやってきていたのだった。

今回初めて、彼がセーヌ・サンドニ県という、パリの北・北東にある、移民の大変多い地域の出身だと知った。しかも彼はモントルイユの出身。ここは今でも共産党の牙城です。北の移民街よりも歴史が古く、独特の雰囲気がある。街として古いなりの落ち着きがあるのが、北の方と雰囲気が違うところ。

ロベスピエールという名前は、その恐怖政治がゆえに、パリでは一つも通りとか学校とか施設の名前についていないのだが、モントルイユには、ばっちりロベスピエール駅というのがある。ああ、彼は1世や2世のアフリカ系移民の中で、白人移民の3世として育って、反動化しちゃったのね、と思った。

そういう傾向、ありますね。今だと、コーカサスの白人とかバルカンの白人とかで、こういうタイプは現役で多めにいそうな感じは受けている。今後はウクライナ人かしら。

今ではイタリア系移民の子孫にそういう差別の目が注がれることはほとんど無くなったでしょう(EUのおかげでもある)。今も恵まれない地域にいる人も少ないでしょう。だから逆に、バンデラ氏みたいな人がいるんだ、とびっくり。モントルイユだからいるのかな。

それとフランス人の4分の1は、外国人の系統をもっていると言われている。でも逆に言えば、4分の3はフランスフランスフランスフランス人なわけで、外人を差別する思想に従えば、バンデラ氏は純粋なフランス人ではないと排除される側になるわけで。自分の先祖は受けいれてもらったのに、自分は受け入れないという永遠の矛盾を抱える生き物が、バンデラ氏。

しかしこんなテレビの公開討論の場で、「あなただって外国人のようなものだ」と言うと、それが差別発言になってしまう。差別が憎しみを産む元になるのに、そういう発言をするのは自己矛盾になる。よほど言い方に気をつけなければならないのだが、このニュアンスは日本人には大変わかりにくいかもしれない。

ちなみに、メランションならはっきり言ったかもしれない。あなたは自分が外国起源のくせに、アフリカ系も持っているくせに、アフリカ系移民を差別する差別野郎だーーと。極左の不服従のフランス党は、2015年のあの移民危機のときに、唯一と言って良い、移民を擁護した党である。

参考記事(2018年)日本には存在しない欧州の新極左とは。

筆者は、あの移民流入には度肝をぬかれて、人道的に助けるのはアリにしても、とてもじゃないけどメランションに賛成できなかった。当時は社会党のオランド政権だったが、社会党さえひるんで後退してしまった。無理もない・・・と思ったものだ。

しかし結局、社会党の崩壊の一因にもなった。それと比べると、メランションのあの信念の強さ、政治信条の一貫性。とても賛成できなかったが、尊敬の念を禁じ得なかった。

二重国籍の人々の不安

さて討論番組に戻るが、バンデラ氏に質問があった。「私はアルジェリア出身です。父はアルキでした(アルジェリア独立戦争でフランス側に立った人達のこと)。でも父はフランス国籍がもらえなかったので、私は13歳の時にフランス国籍を取得しました。その後軍警察で働きました。あなたの基準に従うと、私はフランス人でもないし、(仏国籍がないので)軍警察で働くこともできません。なぜあなたは私を嫌うのですか」と。

そこで「ああ、アルキか。。。それはなあ」とアルキを擁護する発言をした後は、いつもの持論を繰り返すバンデラ氏。質問に答えてない・・・とみんな思ったらしく、司会者が質問に答えるように促す。なぜなら多くの二重国籍や複数のルーツをもつ市民が、予測される極右の台頭のために、自分は排除されるのかと社会の不安になっているからだ、テレビ局にもそのような質問の投稿が多いのだーーと。しかし、彼がはっきり質問に答えることはなかった。

もっと巧妙なのは、歴史の先生とかいう視聴者の質問だ。「人種差別をどう思うか」という内容。「人種差別は良くない」という教科書のような答えをするバンデラ氏。

彼には若さを感じる。今後場数をもっと踏んでもまれていくと、揺るぎない真性極右になるのか、そうじゃなくなるのか、ちょっとわからない所がある。

討論会でも、国民連合の「すべての移民の受け入れ停止」という移民政策への批判として出てきたのが、イタリアのメローニ首相の例である。彼女は極右とかマイルド極右と呼ばれたが、イタリアで政権をとったら公約に反して、結局今は移民を労働者として受けいれている。

一方で彼は、何かにつけ「権力機構(当局)の力で」と言いすぎる。確かにそれによって安全を確保するというのはわかるが、危うさを感じる。それに、彼が時折見せる表情は、まさに極右の顔つきである(見慣れると、極右と揺るぎない左派は、見てわかります)。ただ、顔つきそのもの、ただずまいまで極右そのものの中年や老人ほどではない。今後、彼はどうなるのだろうか。

もう一つの極右の内輪もめ

さて、真性極右が(また?)あらわになったのが、エリック・ゼムールである。ルコンケット(再征服)党という党の創始者である。よりあらわになったのは、そうする必要があったからかもしれない。

この前の欧州選挙では、マリオン・マレシャルという人物が、この党の顔となって選挙戦を戦った。副党首の資格である。マリーヌ・ルペンの姪、国民連合の前身・国民戦線の創始者、ジャン=マリー・ルペンの孫である。

マリオン・マレシャル
マリオン・マレシャル写真:ロイター/アフロ

よく言われるように、おばと同じで、あの金髪は染めているように見える。そもそもフランス人って、あのような黄金色の金髪の女性は多数派じゃないのだ。でも、極右の女性は金髪じゃないとね、ということらしい。

欧州選挙が終わり、今回の選挙で、なんと袂を割ったはずの国民連合に共闘しようと近づいた。それにゼムール氏が激怒。裏切りと呼び、除名。でも彼女は欧州選挙(比例代表制)では、再征服党のリストのトップで当選しており、欧州議員にはなるのだ。再征服党に投票した有権者は、良い面の皮だ。迷惑この上ないだろう。

結局、国民連合のほうが彼女との共闘を拒否。バルデラ氏は彼女の方針をほめていたけど。自分たちを裏切りやがって今更、という、おばと姪の家族の確執だろう。

ちなみに彼女は、再征服党を去るとき、自分を支えた党の友人たちに、党のお金をばらまいたとか何とか。節操のない,人品のない政治屋だ。ただ、この人も34歳と、若い。フランス人の政治家の一層の若返りに、貢献している(もっとも、若けりゃいいってもんじゃない、の代表選手かもしれないが)。

AIで作られた「差別」の歌が拡散

話はゼムールに戻るが、彼は数日前に、ネットで流行っている「差別」の歌に合わせて、楽しそうに身体でリズムをとっている投稿をSNSにして、ニュースになった。

この歌はAIでつくられたもので、「私は去りたくない、あなたは去るのです」という歌である。歌詞は「イスラム女性が着る服を来て、あなたは去るのです」「1日中お祈りできます」等と歌詞にあるので、明らかにイスラム教徒を対象にしている(しかもご丁寧に、動詞の活用を間違えている)。ただ、あからさまな差別用語があるわけではないので、「ただの旅行代理店の曲でしょ」としれっと言う人もいるくらいだ。

暗にイスラム教徒に出ていけと言っているのは明白だが、差別と関係ないと強弁できそうな歌詞だから、ヘイトで法律違反だと取り締まるのも難しいのか、爆発的に広がった。この歌を「差別」と批判するメディアを、極右に共感する人たちは、日本風にいうと「マスゴミめ!」と非難している。

昨今、ネットを中心に、差別的・極右的な言葉があふれている。

ニュースでも、二重国籍者や複数のルーツをもつ人達が、大変不安になっているというものをよく見る。

日本でも人手不足の業種は、欧州でも同じで、フランスでは移民系の方が働いていることが多い。ある高齢者の世話をしている黒人のヘルパーさんが、世話をしている老人から差別的な扱いを最近受けるようになったという報告など。彼女は「私は奴隷じゃありません」ときっぱり言っている。

日常のニュースを見ていると、なんとなくだが、極右に社会が偏らないように、微妙なバランスというか抑制をもって報道しているように見える。局や番組によって異なるのだけど。

もちろん仮に極右が過半数をとったとしても、それは民意であり、視聴者である。でも、やはりマスコミの人は極右の政権というものを、あまり歓迎しない人が多いのだろう。極右の危険性を知っているというべきか。

極右と手を組んだ中道右派のその後

さて、前回の記事で書いた、中道右派の共和党の分裂、その後である。

二大政党の一つであり、シラク大統領、サルコジ大統領を排出したが、極右とマクロンの党に票を奪われ、凋落が激しい。中道左派の没落の次は、中道右派の没落。社会の厳しさがうかがえる(それでもウクライナ侵略がなければ、違っただろうにと思う)。

だから国民連合と組むと宣言した党首エリック・シオチは、共和党を閉め出された。一時、彼をパリの本部に入れないよう、しっかりと鍵をかけて彼が入れないようにして帰る党員の姿などをテレビは映していた。

エリック・シオチ
エリック・シオチ写真:ロイター/アフロ

ところがすぐにシオチ氏は、自分は正当な手続きで党員に選ばれた党首であるのに、この「解任」は不当だと訴えた。判決はすぐに出て、不当であるとシオチ氏の言い分を認めた。

でもその後、共和党は完全にシオチ氏抜きで選挙活動している。そしてシオチ氏の一派は国民連合と組んで、それなりに同党に影響を与えている。中には「共和党はもう死んでいる」と言って、シオチ氏に流れる政治家もいる。

今でももめていて、共和党側は、シオチ氏の解任を3度司法に訴えて、3度とも却下されている。まだまだ続くのだろう・・・。

さて、共和党では、よくテレビ出て来て党の顔になっているのは、グザビエ・ベルトランという人だ。

シオチ氏が国民連合と組むと宣言した後、テレビに出て、極右と組むことを「恥だ!」ときっぱり言った。あれは強烈だった。サルコジ大統領時代に、フィヨン内閣で労働大臣をつとめて、党の重鎮の一人だ。

いかにも共和党という感じの、保守で、豊かで、貫禄がある男性のイメージをもっている。頭も切れるし、言葉も明晰ではっきりしているし、テレビ向きである。

グザビエ・ベルトラン
グザビエ・ベルトラン写真:REX/アフロ

なぜかこの人が、France2の、キャンペーン最後の三者討論番組の後、一人招待されて、長い間司会者と二人で話していた。

なんで? 支持率は低く死に体といえど、フランスの二大政党の一つだったのだから、時間的にバランスを取ったのだろうか。

この人の主張は、フランスが引き裂かれて分断されてきているというもの。これは納得。また、2つの極端(極右と新人民戦線)に分裂しているが、どちらも害悪だし、マクロンの政治も批判する。だから共和党、と言っているのだ。

ただ、彼は自分たちに投票すれば、マクロンの党と組めると言った。なるほど。

ただ、マクロンの党側はどうでしょう。「反極右」で組めないことはないが、大して議席も多くないでしょうから、左派連合と組むことになるのでは。

ただ、アタル元首相は、討論の間、批判は「不服従のフランス」党にはするが、社会党や緑の党にはあまりしていない。本当なら、反両極ということで、共和党・社会党・緑の党と組んで過半数が超えられればいいのだろうけど、左派で統一戦線を組んでいて、絶対に離れないと言っているので、どうなんでしょう。

新人民戦線に投票を呼びかけるポスター。パリで。
新人民戦線に投票を呼びかけるポスター。パリで。写真:ロイター/アフロ

ネットにあふれる差別の発言の時勢に

さて、もし私に今投票権があったらーー。

私の総合的な性質からすると、私は真ん中を軸に、中道右派や中道左派をウロウロしている人である。今までは大統領選じゃない1回目投票なら「うーん・・・緑の党かなあ・・・うーん・・・」と思うことが多かったと思う。フランスは緑の党が弱いので、応援したい気持ちはある。

今回の情勢では、中道右派はさらに右によりすぎているし、中道左派は、緑の党も社会党も極左と一緒になっちゃった。私はマクロン大統領を評価しているし、劣勢なので、おそらくマクロンの党に入れるだろう。

でも私はフランスではアジア系の人である。この社会状況でもし投票権が与えられるなら。

昨今の人種差別的な言論がネット(SNS)であふれる風潮は、怖い。基本はイスラム系への反感だ。しかし、アフリカ系の黒人にはキリスト教徒だっているのだが。彼らもまとめて「移民は出ていけ!」と言われるのだろう。そういう時代には、中国人も対象になるのは間違いない。

日本や日本文化、日本人はとても好かれているので、不愉快な目にあうとしたら、おそらく中国人と間違えられてのことだ。しかし、それがなんだというのだ。私は結局、アジア系の「移民」である。

参考記事(2022年)デンベレ氏の発言を差別と断じるべきかを考える。アジア人差別と日本の極右化【後編】。長いので「その3、日本のメディアと、隠された本心「その3、日本のメディアと、隠された本心」の部分。

そう思うと、思い出すのはメランションのことだ。

前回の大統領選の際、彼は大躍進して、3位につけた。当時、選挙結果が出て、建物から出てきて、外で待っていた支援者にこぶしをふりあげて応えたメランションの姿は、何度もメディアに流れたが、あの力強さと信念の強さは強烈な印象を残した。

「もし人民戦線が多数派になったら、あなたが首相になるのですか」と、France 2(NHK総合に相当)の20時の主要ニュースに登場したメランションは尋ねられた。

それには、そんなことは決まっていない、まだわからない、人民戦線として組んでいるのだから、のように穏やかに答えていた。

現在72歳で半分引退のような感じだが、今後はわからない。

こういう政治家はアメリカにもイギリスにもあまりいないだろう。路線的にはイギリスのコービン元労働党党首が似ているが、タイプは異なる。

この人を見ていると、フランス革命に出てくる政治家たちは、このような人達だったのだろうと思わせる、魅力のある人だ。本人もフランス革命を演出していたが。彼を嫌いな人でも、彼の政治家としての能力は一定程度認めるのではないか。

今までメランション氏の政策の一部は共感するが、全体としては賛成できなかった。もし自分に投票権があっても、彼に投票することはないと思っていた。それなのに今、なぜこれほど彼に注目してしまうのだろう。

人種差別的な言論の封印がとかれ、外国人移民への嫌がらせが多発する風潮になってしまったら・・・と、何だか怖さを感じるようになると、頼れる政治家はあの人しかいないという気持ちがきっとあるのだろう。2015年、あの押し寄せる移民を前にしても、決して方針を曲げなかった、人間主義(ヒューマニズム)を捨てなかった、ほとんど唯一の政党の党首で、党の創始者。彼しか信用できない、という思い。

彼は72歳。フランス保護領モロッコのタンジェで生まれた。日本風に言えば「満州生まれ」みたいな感じだ。

いくらフランスで日本人が好かれていても、私は「名誉白人様」みたいに生きるのは嫌なのだ。

それにしても、なぜマクロンは解散したのだろう。

「負けた場合」の戦略に描いたシナリオどおりに行動したのだろうが、まさかここまで欧州選挙で負けるとは思っていなかったというのが本音だろう。

今までの二大政党の時代に出来なかった、あらゆる古い膿を出してばっさばっさと切り取って改革してきた、若い大統領。若くてエリートの傲慢な感じは、黄色いベスト運動の後、全国を行脚して、地元市民と討論会を行うことで乗り切った。39歳で就任した若い大統領の、目を見張る成長。

民主主義にのっとってというが、政治上の計算はともかく、彼はフランス人の民意を知りたかったのだろう。フランス人の良心、フランス共和国の理念に賭けたのだろう。結果は引き受ける覚悟で。

とにもかくにも、パンドラの箱を開けたのではないかという恐さはあるものの、そして内心うんざりしながらも、大変面白いものを見させてもらっていると思う。

歴史で学んだようなことが、今目の前で展開されているような感覚。こんなふうな討論、思想の対立は、日本では絶対に見られない。男ばかり、じいさんばかりの衆議院の国会で、政治家が自分の思想をたたきつけて述べて、自分の政治家としての生存理由を賭けて主張、その結果、政治家の成長をも見られる光景なんて、日本では全く期待できない。

政治の汚さは両国であまり違いがないかもしれないが、永田町は既得権益を守ることばかり。

なぜこれほどまでに活力と変化力が違うのだろうか。多様性がなく、男尊女卑がはなはだしく、世襲議員だらけの永田町は、日本社会の縮図なのかもしれないけれど。どうすれば変えられるのだろう、と考えてしまう。

ともあれ、第二回目の投票が終わり、国民議会がどういう展開になるかを見届けるまで、気が抜けない。オリンピックまで1ヶ月をきったというのに、なんという激震だろう。

大変長くなり、まとまりに欠けてしまいましたが、読んでいただいてありがとうございました。

参考までに、これは欧州議会選挙でテレビで流れるビデオ。こちらのほうが音楽が明るい。国歌に相当するEUの曲、ベートーベンの「歓喜の歌」を使っている。この音楽をテレビで聞くと「ああ、いよいよ欧州選挙だ」と思う(「イギリスがまだあるよ」という突っ込みは、散々されている。もはや変えられない?)

欧州/EU・国際関係の研究者、ジャーナリスト、編集者、作家

フランス・パリ在住。追求するテーマは異文明の出会い、平等と自由。EU、国際社会や地政学、文化、各国社会等をテーマに執筆。ソルボンヌ(Paris 3)大学院国際関係・欧州研究学院修士号取得。日本EU学会、日仏政治学会会員。駐日EU代表部公式ウェブマガジン「EU MAG」執筆。前大使のインタビュー記事も担当(〜18年)。編著「ニッポンの評判 世界17カ国レポート」新潮社、欧州の章編著「世界で広がる脱原発」宝島社、他。Association de Presse France-Japon会員。仏の某省関連で働く。出版社の編集者出身。 早大卒。ご連絡 saorit2010あっとhotmail.fr

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